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気になるあの人のいとしの路線|コラム|トレたび - vol.1 室蘭本線

列車旅に魅せられて

 大学時代、地元・大阪から放送局の就職試験のために頻繁に上京しなければならず、節約のために“青春18きっぷ”を活用していた。お気に入りは〔ムーンライトながら〕。当時373系だった 〔ムーンライトながら〕は繁忙期でも、窓口で「セミコンパートメントはどうですか?」と尋ねると、当日でも指定席券がゲットでき快適な夜が過ごせた。以来、列車旅に魅せられ、毎シーズンお世話になっている。

 前回の18きっぷ販売期間に久々に北海道で18きっぷを使う機会を得た。いや、機会を得たというか、作った。ご存知の通り、前回のシーズンはダイヤ改正またぎ。特に、北海道新幹線の開業を控えたブルートレイン引退及び臨時化のニュースは、我々鉄道ファンにとっては、動かずにはいられない衝撃の連続。覚悟はしていても、とうとうこの日がやってきたかと。

 そこで、担当マネージャーで同じく鉄道好きの南田裕介氏に休暇を申し出て、運良く2月に〔トワイライトエクスプレス〕、3月に〔北斗星〕に乗車できることになった。事務所に2日前後の休みを申告するのは7年ぶり。その時は海外の友人を訪ねるための旅だったが、現地の休止線めぐりなぞしていたっけ。当時担当だった非鉄のマネージャーは、土産話をしたらポカンとしていて申し訳なかったが、今、理解のある担当マネにひたすら感謝である。

恋駅めぐりへ

 今回18きっぷを併用したのは、もちろん3月の〔北斗星〕乗車時。以前からずっと行きたかった、日本に4つしかない“恋のつく駅”めぐりのフィナーレを飾るべく、札幌駅到着後すぐに千歳線経由で室蘭本線へ折り返した。目指すは母恋駅。グランシャリオで眺めた太平洋を、今度は普通列車の少しばかり遠慮がちな小さな窓から臨む。


2両編成の普通列車に乗って母恋駅を目指す

 室蘭本線の魅力は何といっても、内浦湾や太平洋沿岸を走る距離と時間の長さ。晴れた日に水面が太陽光にキラキラと光る様は実に美しい。反対側の車窓には、艶々の毛並みを輝かせたサラブレッドが優雅に牧草を食べている姿がみられるなど、北海道ならではの景色を堪能できるのも贅沢だ。

 東室蘭駅から室蘭駅へは、寝台特急では辿れない路線。ターミナルの東室蘭駅を過ぎると、ひと駅ひと駅がイイ意味でこぢんまりとしていて旅情が増す。終着駅を目前に控え、お目当ての母恋駅で下車。わずかに観光客が下車するが、駅を目的とした旅人は私だけのようだ。


室蘭本線の母恋駅。母恋の語源はアイヌ語で「ホッキ貝のある場所」

 木造の待合室の壁には、“母恋駅を愛する会”なる団体からの感謝状がずらり。ラブラブカップルがしたためたであろうお約束の相合傘マークも。決して派手ではないけれど、柔らかく暖かな空気がそこには広がる。同じ“恋駅”でも、駅舎自体を大改修した智頭急行の恋山形駅とは、対極だ。人気アイドルグループでも、4人いればそれぞれカラーが違うように、“恋駅”もそうなのかと妙に納得してみる。


母恋駅の木造の駅舎。「恋」の付く駅は他に、西武鉄道の恋ヶ窪駅、三陸鉄道の恋し浜駅、 智頭急行の恋山形駅がある

 数年かけて計画してきた“恋のつく駅”全駅制覇の旅はひっそりと終着駅を迎えた。これで恋愛運でも上がれば両親は喜ぶだろうか(笑)。しばらくは列車旅に魅せられていたいのが本音だけれど。

プロフィールフリーアナウンサー●久野 知美 Kuno Tomomi
1982年大阪府生まれ。フリーアナウンサー。鉄道が趣味で、2011年7月「鉄道チャンネル」(CS)局アナウンサーに就任。現在は「スーパーJチャンネル」(テレビ朝日)、「ワッチミー!TV×TV」(BSフジ)、「スギテツのGRAND NACK RAILROAD」(FM NACK5)などに出演するほか、フォトライターとしても活躍中。また「女子鉄」として、車両や駅舎をモチーフにした“鉄道ネイル”や、鉄道旅行にマッチするファッション“おしゃ鉄”を提唱。

※「小型全国時刻表」2015年6月号より掲載しました。

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