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気になるあの人のいとしの路線|コラム|トレたび - vol.2 中央本線

帰省で増えた中央本線利用

  18歳で上京して初めて一人暮らしをした中央線沿線に久しぶりに戻ってきたのは、5年程前のことになる。
 同業者の伊藤理佐と結婚し、おたがいの仕事場兼住居を、そして子育てする場所を、中央線某駅もよりの土地に決めた。

 私の実家、岩手県奥州市に帰省するときは中央線で東京駅に出て東北新幹線。妻の実家、長野県原村に帰省するときは中央本線。どちらへのアクセスもしやすい。というわけで、〔スーパーあずさ〕、〔かいじ〕などに乗って長野方面にいく機会が増えた。

 もともと山梨、長野には、おもに自動車、バイクでよく遊びにいっていた。キャンプ、スキー、登山、うまい蕎麦屋を目指していったりとか、比較的なじみ深い土地ではあった。そこに諏訪、茅野、原村、富士見町が加わった。今度はほぼ鉄道利用である。車の運転も嫌いではないが、私も妻も列車の座席で午前中から「3日間仕事しなくていいねぇ、乾杯」などとビールを開けるほうを好んだ。

 最初はもちろん楽しかったのだが、鉄道は車に比べて「実家に行く前に、ちょっと諏訪湖によっていこうか」みたいなことがしづらい。子供が生まれたこともあり、中央本線移動が単なる帰省のための手段になってきた。


小淵沢行き普通列車の車内にて

 マニアというほどではないが、鉄道趣味のカテゴリーで私は「乗り鉄」といわれる部類の人間だと思う。なじみのない土地の鉄道にただ乗っていること、車窓をながめていることが楽しい。そういう人間なので、特急で新宿~茅野を往復するだけの行為に、こういってはなんだが次第に飽きてきた。

 茅野駅には到着に合わせ、伊藤の父が車で迎えに来てくれる。ありがたいのだが、東京~原村間の魅力的な「みちくさ」コンテンツの数々をすっ飛ばしているようなつまらなさを感じ始めた。

そうだ、各駅がある!

 それでも、長野帰省の際は往復どちらかは単独行動ができ(妻子が先行して、私は一泊だけ合流みたいなことが多い)それはわりと気分が晴れることではあった。幼児はすぐ乗車に飽きてゴネだし、お父さんが落ち着いて乗り鉄を楽しめないことが多いからだ。

 そして、気づいたのである。単独移動の時、何も特急を使わなくてもいいんじゃないか。


上野原駅ホームにて

 妻に「午前中に適当に出て、何時に着くかはわからない」という、受けた方は「何時に迎えにいけばいいんだ!」とイライラするかもしれない予定を伝えて、下り快速か何かに飛び乗る。途中、高尾駅や小淵沢駅で乗り換えたりしながら、ゆるゆると移動していく。楽しい。乗っては降りていく、ジャージを着た地元の中高生たちを見ているようなことが楽しい。
 迎えの車さえ「あ、けっこうです。なんとかします」ということにして、夏の小淵沢~原村間の臨時バスに乗ってみたり、先だってはついに茅野駅から原村に歩いてみたり (ゆる~い上り坂が2時間続き、後悔した)。


小淵沢駅の改札を出るとすぐ横にある立ち食いそば屋

 各駅利用によって、中央本線の楽しみがふくらんだ。そろそろまた小淵沢駅の立ち食いそばでも食べに行きたいなーと、ウズウズしている。

プロフィール|漫画家●吉田戦車 Sensha Yoshida
1963年岩手県生まれ。1985年に漫画家デビュー。代表作に『伝染るんです。』(第37回文藝春秋漫画賞受賞)『まんが親』(ともに小学館刊)ほか多数。エッセイ集に、鉄道の旅をつづった『吉田電車』(講談社刊)などがある。2015年、短編を対象に作品・作者に贈られる「第19回手塚治虫文化賞短編賞」を受賞。

※「小型全国時刻表」2015年7月号より掲載しました。

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