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達人の鉄道利用術
第3回「季節の路線」をマスターする
夏のオススメ路線(1) 飯田線

 愛知県の豊橋駅と長野県の辰野駅を結ぶ、JR東海の飯田線。秘境駅が多いことで知られる路線だが、私は「飯田線の夏」が好きだ。


 まずおすすめが「鳳来(ほうらい)峡」である。湯谷(ゆや)温泉駅(愛知県新城市)付近で、辰野方面に向かい進行方向右側に展開する宇連(うれ)川の渓谷だ。板を敷いたような川底から「板敷川」とも呼ばれており、車窓からもその「板敷」のような様子を楽しめる。底が浅く、水が澄んでいるのだ。


 想像してほしい。車窓に広がる、両岸を木々に挟まれた渓谷。夏の木漏れ日を受けてきらめく、澄んだ川の水。そして、板張りを想わせる川底。見ているだけで涼やかで、水遊びをしたくなる。


飯田線の車窓に広がる涼しげな板敷川(宇連川)

名物「渡らずの鉄橋」。川を渡るかと思いきや、渡らず元の岸へ戻る

 また、秘境駅が多く存在する天竜川沿いの山深い車窓風景は、夏になると緑がなお濃く、より秘境感を覚える。青空に南アルプス、中央アルプスの夏山が浮かぶ長野県の伊那盆地もいい。


 乗車の際は、豊橋駅方面からをオススメしたい。鳳来峡、天竜峡と山の景色がしだいに深まっていき、伊那盆地でぱっと広がる視界、そして現れるアルプス。さらに終着駅の辰野より先、飯田線からの直通列車も多い中央本線の岡谷駅方面へ続けて乗車すれば、周囲に温泉も湧く諏訪湖へとたどり着き、旅の疲れを癒やしてくれる。

夏のオススメ路線(2) 予土(よど)線

 高知県の若井駅と、愛媛県の北宇和島駅を結ぶJR四国の予土線。「しまんとグリーンライン」という愛称で呼ばれ、「日本最後の清流」ともいわれる四万十川に架かる増水時に水没する欄干のない橋「沈下橋」が、予土線の車窓からも眺められる。


 この予土線も、私は夏が好きだ。日差しが強く、緑の深い夏。沈下橋のすぐ真下には清流・四万十川が広がる。思わず手足を浸したくなるくらいだ。麦わら帽子をかぶって橋の端に座り、足をブラブラさせながらアイスキャンディーを食べたいな――なんて少年時代ののような気分になりながら、列車は谷間へ「ガタンゴトン」と大きく響かせ、鉄橋で幾度となく川を渡っていく。


四万十川を渡る予土線。川の底が透けて見えるほどの透明度


写真は向弘瀬(むかいひろせ)橋。予土線は橋の向こう側を走る

 予土線では夏を満喫できる観光列車も数多く走っている。人気のトロッコ列車「しまんトロッコ」、0系新幹線がイメージされた「鉄道ホビートレイン」のほか、今夏からは「かっぱの世界」をコンセプトにした「海洋堂ホビートレイン『かっぱうようよ号』」も登場する。乗っているだけで童心に戻れそうだ。


夏のオススメ路線(3) 紀勢(きせい)本線(きのくに線)

 三重県の亀山駅と和歌山県の和歌山市駅を、紀伊半島の外周を沿うように結ぶ紀勢本線。そのうち和歌山県内の和歌山駅~新宮駅間は、JR西日本により「きのくに線」という愛称がつけられている。


平成28年7月に誕生20周年を迎える283系「オーシャンアロー車両」

 この、きのくに線の夏が好きだ。同線を走る特急列車の名前は「くろしお」。車窓から、太平洋を流れる黒潮の眺めを満喫できる。青空には入道雲が立ち昇り、遠くに消える水平線。青い空と海がどこまでも広がっている。


 とにかく大きな車窓風景が続くきのくに線、その雄大さを最も感じる季節は夏であろう。太平洋の明るさと大きさに、言葉も出ない。


御坊駅~新宮駅間では、しばしば車窓いっぱいに太平洋が広がる


本州最南端の駅、串本駅。最南端、行くならあえての夏もアリ

 ちなみに特急「くろしお」で使われる、「オーシャンアロー」の車両愛称を持つ283系電車は、「海と太陽が大好きな列車」というキャッチフレーズで登場した。やはりこの路線は夏、である。沿線に有田などみかんの名産地もあるきのくに線。車窓から見る木々がオレンジ色に彩られる秋冬も捨てがたいけれど……。

プロフィール 文・写真:恵 知仁●Megumi Tomohito
1975年東京都生まれ。鉄道ライター、イラストレーター、WEBメディア「乗りものニュース」編集長。
小学生の頃から鉄道旅行記を読みあさり、カメラを持って子どもだけでブルートレインの旅へ出かけていた「旅鉄」兼「撮り鉄」。
日本国内の鉄道はJR・私鉄の全線に乗車済みで、完乗駅はJRが稚内駅、私鉄がわたらせ渓谷鐵道の間藤(まとう)駅。
※掲載されているデータは平成28年6月現在のものです。
※写真協力(向弘瀬橋):「しまんトロッコ1号ガイド☆地元のおばちゃんブログ」

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