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達人の鉄道利用術
第4回「青春18きっぷ」をマスターする
「乗り放題」にこだわらない、が楽しむ秘訣

 「青春18きっぷ」で鉄道旅行を楽しむにあたり、初心者には「あえて乗り放題にこだわらない(遠くまで行こうとしない)」ことをまず勧めたい。5回(日)分で1万1850円、1回(日)あたりにすると2370円。本州の幹線区間であれば71~80km先まで、北海道・四国・九州の幹線区間であれば61~70km先まで往復すれば通常運賃の元が取れる。乗車距離が短いのを「損」だと思わずに、「乗り放題きっぷ」のもうひとつのいいところである「自由」を満喫し、まずは近場でのんびり途中下車しながら、気ままな鉄道旅行を楽しもう。近距離なら、列車遅延など予想外のトラブルでも容易に対応できるし、観光や現地の食を味わう時間を十分にとりながら、「青春18きっぷ」の旅に慣れることができる。


 また「青春18きっぷ」の旅では、私は紙の時刻表を持参することをお勧めしたい。近年、スマートフォンの乗り換え案内アプリを使う乗客をよく見かけるが、そうしたアプリは紙の時刻表と比べ、一度に見られる情報量が乏しい――つまり、乗換案内で表示されたルート以外の、たとえば前後の列車時刻や接続列車との関係性などが一見してわからないことが多く、急な予定変更に向いていない。


「青春18キッパー」の旅のお供は時刻表。
最近はカスタマイズして使える時刻表アプリも

JR西日本宮島フェリーにも乗船できる「青春18きっぷ」。
世界遺産・嚴島神社にも行ける!

 また、紙の時刻表ならではの旅の楽しさもある。車窓を眺めながらページをめくり、路線図や駅名を目で追っていると、車窓から見える風景がよりいきいきとしてくるのだ。「今度はここで分岐する路線に乗ってみたいな」などといった旅の夢も広がることだろう。


 現在、交通新聞社からは、紙のJR時刻表のよさである一覧性などのメリットに加え、その時刻データを自分流にカスタマイズして見られる『デジタルJR時刻表』アプリも発売されている。乗車距離や旅のスタイルによって、紙とアプリの時刻表を併用して使いこなすのが達人の域といえるだろう。

修行、もといチャレンジするのも「青春」の特権?

 「青春18きっぷ」はなにしろ「乗り放題」である。やはり、それを突き詰めてみたいと思うのも、鉄道好きの欲望というもの。誰にでも勧められるわけではないが、それなりに「18キッパー」の経験と自信がある人には、「とにかく遠くまで乗り続ける」というチャレンジもおもしろいだろう。


 たとえば東京駅を朝4時55分に京浜東北線で出発すると、品川駅5時6分着で10分発、小田原駅6時21分着で22分発、熱海駅6時45分着で49分発、浜松駅9時19分着で23分発、豊橋駅9時56分着で10時3分発、大垣駅11時31分着で42分発、米原駅12時17分着で20分発、姫路駅14時47分着で15時3分発、相生(あいおい)駅15時22分着で25分発、糸崎駅18時1分着で33分発、徳山駅21時59分着で22時00分発、下関駅23時50分着で51分発、そして小倉駅に日付の変わった0時4分に到着する(「青春18きっぷ」乗車日が翌日にまたがる場合、0時を過ぎて最初に停車する駅までが有効)。乗車時間はおよそ19時間。「チャレンジ」ではなく、「修行」と表現するほうが適切かもしれないが。

発着時刻 駅名 路線
4:55発↓ 東京駅 京浜東北線
5:06着 品川駅 東海道本線
5:10発
6:21着 小田原駅
6:22発
6:45着 熱海駅
6:49発
9:19着 浜松駅
9:23発
9:56着 豊橋駅
10:03発
11:31着 大垣駅
11:42発
12:17着↓ 米原駅
発着時刻 駅名 路線
12:20発↓ 米原駅 東海道本線・
山陽本線
14:47着 姫路駅
15:03発
15:22着 相生駅
15:25発
18:01着 糸崎駅
18:33発
21:59着 徳山駅
22:00発
23:50着 下関駅
23:51発
0:04着 小倉駅 鹿児島本線

※運転時刻・運転区間等は変更となる場合があります。

 出発前に『JR時刻表』などでご確認ください。

 乗車距離は1129.4kmで、通常運賃は1万3220円。それを2370円で乗車できるのだから、コストパフォーマンスは抜群である。ただ実行する場合、ご察知の通り、乗り換え時間がタイトな場合も少なくない。非常食などの備え、座れなくても我慢できる体力的かつ精神的余裕、そして何かあったときに「新幹線ワープ」ができる金銭的余裕も必要だろう。


 この「余裕」は、特に安さが注目される「青春18きっぷ」では軽視されやすい。だが、こうしたハードな行程の場合に限らず、鉄道旅には必要不可欠な要素である。列車が遅れるかもしれない、食事をとれないかもしれない……、そうした万が一を常に想定しておきたい。


快速「ムーンライトながら」(写真)などの臨時夜行列車を使えば、
「青春18きっぷ」でさらに遠くまで行ける


「青春18きっぷ」+指定席券購入で乗車できる観光列車もある。
写真は五能線の快速「リゾートしらかみ」
「青春18きっぷ」で“違和感”を楽しむ

 基本的に、JRの普通・快速列車が乗り放題の「青春18きっぷ」だが、新幹線や特急に乗れる方法がある。「『青春18きっぷ』で新幹線に乗った!」という優越感を楽しむのも、ちょっとマニアックながら、おもしろいかもしれない。


「青春18きっぷオプション券」を使えば、
青函トンネルを走り抜ける北海道新幹線にも乗れる


津軽線の津軽二股駅と北海道新幹線の奥津軽いまべつ駅。
徒歩3分の距離にある

 平成28年3月の北海道新幹線開業に伴い、青函トンネルを通過する定期旅客列車が新幹線のみになったことから、「青春18きっぷ北海道新幹線オプション券」が登場した。「青春18きっぷ」購入時にプラス2300円で追加購入できる。このオプション券を利用すると、津軽線津軽二股(つがるふたまた)駅に隣接する奥津軽いまべつ駅と木古内(きこない)駅間を走る北海道新幹線と、旧江差(えさし)線木古内駅と函館本線に接続する五稜郭駅間を走る道南いさりび鉄道(第三セクター)に、それぞれ片道1回に限り乗車できる。これまで、特急しか走っていなかった石勝線(一部)や青函トンネル区間などで、「青春18きっぷ」で特急に乗れる特例があったが、新幹線に乗れるのは今年が初めてである。

 

 このオプション券を使って本州から道南へ向かうなら、事前に列車時刻の入念な下調べをお勧めしたい。一日の列車本数が限られるなか、同日中に津軽線と北海道新幹線、道南いさりび鉄道を接続して乗車できる行程を考えなくてはならないからだ。ただそれだけに、ちょっと自慢できるかもしれない。

次回は「山と鉄道」をマスターする です。
プロフィール 文・写真:恵 知仁●Megumi Tomohito
1975年東京都生まれ。鉄道ライター、イラストレーター、WEBメディア「乗りものニュース」編集長。
小学生の頃から鉄道旅行記を読みあさり、カメラを持って子どもだけでブルートレインの旅へ出かけていた「旅鉄」兼「撮り鉄」。
日本国内の鉄道はJR・私鉄の全線に乗車済みで、完乗駅はJRが稚内駅、私鉄がわたらせ渓谷鐵道の間藤(まとう)駅。
※掲載されているデータは平成28年8月現在のものです。

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