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達人の鉄道利用術

ちょっとした達人テクであなたも快適&ラクラク鉄旅しよう!

5「山」をマスターする

山地や丘陵地が面積の7割以上を占める日本。列車の車窓からは山の景色がよく見えます。
しかし基本的に、鉄道は坂道が苦手。先人はどのような工夫をして、山を越えていったのでしょうか。
「山との戦い」、それは日本の鉄道史上、避けて通れないもの。
山を知ると鉄道の旅がより一層おもしろくなります。

「鉄道」をより楽しむなら、見逃せない「山との戦い」

 鉄道には、得意分野もあれば苦手分野もある。そのひとつが「坂(勾配)」だ。平坦な土地の線路では、鉄のレールと車輪とのあいだの転がり抵抗や摩擦が少ないことから、小さなエネルギーで大きな輸送力を発揮できる。だが坂では、レールと車輪の組み合わせが滑りやすく、アスファルトとゴムタイヤの組み合わせで摩擦力の高い自動車と比べると、苦手となる。そのため鉄道において、「山との戦い」は大きな課題であるのだ。しかしそれだけに、鉄道に乗るおもしろさのひとつともいえるだろう。

 分かりやすいものとして、まず「スイッチバック」が挙げられる。大きく分けるとタイプは二つの種類。ひとつは「通過できるもの」だ。上り坂の途中に駅や信号場(列車の行き違いなどに使う施設)などを設けたい場合に造られるタイプで、坂を上ってもしくは下ってきた列車は、本線から分岐して、ホームのある行き止まりの平坦な線路へ進入。乗降が終了したら反対方向へ発車し、本線を越えて今度は折り返し線に進入。そこで再び進行方向を変えて発車し、本線へ戻って進む。駅に停車する必要がない場合、そのまま通過できる。

 JR路線で、旅客列車が日常的に使うこのタイプのスイッチバックは、篠ノ井(しののい)線姨捨(おばすて)駅と桑ノ原信号場(ともに長野県千曲市)、土讃(どさん)線坪尻(つぼじり)駅(徳島県三好市)と新改(しんがい)駅(高知県香美<かみ>市)の4カ所。このうち姨捨駅は善光寺平を眼下に眺望できる「日本三大車窓」の駅として、坪尻駅は周囲に何もない「秘境駅」としても知られている。これらの場所でスイッチバックを体験するには、当然ながらそれらの駅へ停車する列車に乗らねばならない。

  • 篠ノ井線の姨捨駅。普通列車がスイッチバックのため停車する間、特急はホームに停車せず通過する

  • 姨捨駅のホームへ進入する普通列車。いちばん左奥の線路が折り返し線で、通過列車は写真の右上から左下の線路を直進

違和感あふれる「スイッチバック」

 スイッチバックのもうひとつのタイプが「通過できないもの」。直進すると坂が急になりすぎる場所を、つづら折りの道路のごとくジグザグに進行することで勾配を緩める。線路の敷かれ方が「Z」字状、もしくは「人」字状になっているため、すべての列車がここで停止し、進行方向を変えねばならない。

 現在、JR路線でこのタイプのスイッチバックは、すべて進行方向を2回変える必要がある「Z」字状で、木次(きすき)線出雲坂根駅(島根県奥出雲町)、豊肥(ほうひ)本線立野駅(熊本県南阿蘇村)、肥薩線大畑(おこば)駅(熊本県人吉市)と真幸(まさき)駅(宮崎県えびの市)の4カ所。「Z」字状のものを、「三段式スイッチバック」と表現することもある。

熊本地震の影響により、豊肥本線肥後大津~阿蘇間は不通となっています(平成28年8月18日現在)。


 スイッチバックを体験すると、一見、駅のホームでもなんでもない場所に列車が停止し、反対方向へ動き出すため、乗客はなかなかの“違和感”を味わうことができる。その理由を知らずに驚きながら乗っている子どもたちなどを見ると、ほほえましい。肥薩線の観光列車「いさぶろう・しんぺい」で列車がスイッチバックしたとき、車内はどよめいていた。

 ちなみに、単純に列車の進行方向が変わる場合も「スイッチバック」と表現することがあるが、この記事では現在のJR路線にある勾配対策を目的としたものに焦点をあて、「スイッチバック」として紹介している。

  • ホームにスイッチバックの案内が掲示されている豊肥本線立野駅

  • スイッチバックする木次線の列車。前方は行き止まりで、こののち逆方向へ走り出す

「山との戦い」をより楽しめる小道具

 鉄道の「山との戦い」。そのおもしろさが分かるものとして、らせん階段のようにグルッと円を描くことで勾配を緩める「ループ線」も挙げられる。現在のJR路線に存在するのは、上越線(上り線)の新潟・群馬県境付近にある2カ所、北陸本線(上り線)の敦賀駅(福井県敦賀市)付近、肥薩線の大畑駅付近の合計4カ所だ。


 ループ線では、列車に乗りながらコンパスで方向を確かめると、より楽しいかもしれない。車窓を眺めながら、列車の進行方向がおよそ360度変化していることを実感するのはあまり容易ではないが、コンパスなら一目瞭然である。それを持参せずとも、スマートフォンのコンパス機能を活用できるだろう。

 また、ループ線のように一周までしなくとも、「Ω」字状に進むことで勾配を緩和する「オメガループ」と呼ばれる構造もある。とくに釜石線の陸中大橋駅(岩手県釜石市)付近にあるものは、鉄道ファンの間では有名だ。花巻方面から釜石方面へ山を降りていく途中、進行方向右側の真下に陸中大橋駅を望んだのち、列車は「Ω」字状に進む。標高が低くなったところで、先ほど真下に見えたホームへ滑り込む。

 鉄道にとって、宿命ともいえる「山との戦い」。近年は工事技術も進化し、トンネル掘削技術の進歩などによって、列車は平然と山を通過していく。ただ、かつては、スイッチバックやループ線が設けられたように、そう容易ではなかった。地形図で、山間部を行く路線を眺めるとおもしろいだろう。なぜそこにレールが敷かれたのか、等高線が教えてくれる。

  • 肥薩線大畑駅付近では、車内放送でループ線を案内する。スイッチバックと両方を体験できる

  • 眼下にこれから通る線路が見える上越線のループ線。新潟・群馬県境を貫く清水トンネルの前後にひとつずつある

次回は“「鉄道の日」をマスターする”です!

恵 知仁

文・写真 / 恵 知仁 ● Megumi Tomohito

1975年東京都生まれ。鉄道ライター、イラストレーター、WEBメディア「乗りものニュース」編集長。
小学生の頃から鉄道旅行記を読みあさり、カメラを持って子どもだけでブルートレインの旅へ出かけていた「旅鉄」兼「撮り鉄」。
日本国内の鉄道はJR・私鉄の全線に乗車済みで、完乗駅はJRが稚内駅、私鉄がわたらせ渓谷鐵道の間藤(まとう)駅。

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