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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化され、テレビ東京系で絶賛放映中の『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。平成21年から足掛け2年、東京から大阪までを散歩した近著『野武士、西へ。~二年間の散歩』(集英社)がついに発売。

氷見線 ひみせん

高岡駅(富山県高岡市)から氷見駅(富山県氷見市)までの全8駅。16.5km。地元出身のマンガ家・藤子不二雄にちなむ「忍者ハットリくん列車」も走る。今回は高岡市から氷見市を歩いた。

 氷見の駅前には喫茶店と「氷見キネマ」という小さな映画館しかなかった。ボクは映画館が大好きなので「ガンバレ!」と思う。

 氷見港は有名な漁港なので、市街地中心部に行けばウマい魚を食べさせてくれるところがたくさんあるだろうが、そこまで歩く気力が無い。くたくたでうろうろしてたら、うどんの麺屋さんを発見、そこの人に「小川屋食堂」というのを教えてもらう。

 引き戸を開けると、店内の明かりは消えていて、エプロン姿のオバチャンがカウンターで新聞を読んでいたが、すぐ立ち上がって「いらっしゃい」と言った。「やっていますか」というと「はいはい、今クーラーつけますからね」と窓を閉めて明かりをつけクーラーを入れてくれた。腰をおろした安堵感。思わずビールを頼む。最高にウマい。

 白エビの天ぷらとおまかせ刺身と氷見うどんのセットを頼む。白エビ天、聞きしに勝る味。サクサク軽くて甘みがあって身がちょっとねっとりしている。ビールに合う。刺身はアジ、フクラギ(ハマチ)、アカイカ。どれもバツグン。うどんは細くてそうめんの太いのを食べるような感じにつけ汁で食べる。暑いから最高。つるつる入る。


氷見線に乗って帰る車窓から。なめらかな海。
小川屋食堂で入れてもらった麦茶

 

 オバチャンがカウンターの中から、ボクの顔を見たので「どれもおいしいです」というと「おいしい。ありがとう。東京から?」というので「そうです」と答えると「顔に書いてある、東京って」と笑った。

 帰りにボクの持っていた空のペットボトルを見て、冷蔵庫から麦茶を出して、ボトルの口までいっぱいに入れてくれ「また、ブリの季節にでも来てね。ありがとう」と言った。この店に入れて本当によかった。

 帰りは氷見線でまっすぐ高岡へ。なんて速い。なんて楽。海の景色、田んぼの景色、古い街並み、今日のつたい歩きのダイジェストを見るようで実に楽しい。列車は女子高生と男子高生が多く、かなり青春列車だった。

※「旅の手帖」2013年9月号より掲載しました。

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