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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。焼肉、ラーメン、カレーライスなど、愛する26品目のメニューについて語ったエッセイ『食い意地クン』(新潮社)がついに文庫化。

成田線 なりたせん

佐倉(佐倉市)から松岸(銚子市)まで16駅。75.4㎞。すべて千葉県内を走る路線。 我孫子駅から成田駅も同じく成田線だが、お互いに直通列車もなく、運行形態も異なる支線である。

 

 次の電車に乗って、ふた駅先の下総神崎(しもうさこうざき)で降りる。ここから成田線つたい歩きで、小江戸と呼ばれる佐原(さわら)の街を目指す。
 下総神崎の駅は新しくて立派だった。天井の高いホールのようなスペースもある。クリスマスの電飾もかなりお金をかけて見える。駅前商店街こそなかったが、久住よりは店もある。おにぎりひとつでは長散歩できない。駅から一番近い「力力」という中華に入る。「リーリー」と読む。昼時で2組6人の客が食事している。人、いるじゃないか。タンメンを頼んだ。しょっぱ過ぎず、野菜のコクがしっかり出ていてウマかった。

 さあ、歩き出そう。国道に沿って古そうな食堂やそば屋がある。でも駅を少し離れると、家はなくなり、どこまでも刈り取られたあとの田んぼが続く風景になった。踏切で線路を見たら前も後ろもどこまでも一直線だった。道のほうは線路に絡み付くようにゆったり蛇行している。
 そのうちちょっとつまらなくなって、田んぼの中の畦道を歩いた。細くて歩きにくいが、子供の頃、山梨の親戚の田んぼを歩いたのを思い出す。草の生えた土がフカフカで、細い用水路があるのも同じ。サンダルで水に入って、カエルや小魚を捕らえては逃がしたっけ。50年も前の話だ。懐かしくて、くすぐったい気持ちになる。踏切の音がしたので見ると、成田線を長い貨物列車がやってきて、去っていった。そうだ、山梨でも貨物列車を数えたものだ。あの頃は最後に黒い車掌車がついていた。今は尻切れトンボだ。


消失点までまっすぐな線路。
降り返っても同じ光景

畦道をつたい歩き。カエルの鳴き声はもうしない。
左手の電柱が成田線。貨物列車も通る

 またちょっと市街地っぽくなってきたら「大戸駅入口」の信号。駅前まで行ってみようと思ったが、ちょっと遠そうなのでやめた。久住でちょっとコリゴリしている。
 田んぼのずっと向こうでショベルカーが列をなして活動している。たぶん利根川の護岸工事とかではないか、と思う。成田線は久住を過ぎてから、銚子のほうまで利根川に沿っているはずだ。でも遠いので確かめにいかない。田んぼの中を、ボクと並行して歩いている茶色いコートのおばさんが見える。車道歩きはツマラナイので、そっちの道を歩きたいと思ったが、他に誰も歩いていないので、ボクがその道に向かって行って、その人の後を歩いたら、変に思われる気がして我慢する。考え過ぎだろうか。でもそこまで視界を遮るものがないのだ。田んぼの中の道はのんびりしていて、気持ちよく歩いているように見える。羨ましい。

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