『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。

久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。旅先ならずともちょっと出かけて朝風呂に入り、ついでに一杯飲んで帰るという新刊、『ふらっと朝湯酒』(カンゼン)発売中。

呉線 くれせん

三原(三原市)から海田市(海田町)まで28駅。87㎞。ほぼ瀬戸内海に沿って広島県内を横断する路線。
時期により、クルーズ船のような車内と眺望が人気の観光列車「瀬戸内マリンビュー」も走る。

 

 広島の呉(くれ)線につたい歩きに行った。

 朝9時51分中央線で出発、東京駅でのぞみ25号に乗り、福山駅でこだま743号に乗り換え、14時56分三原駅に到着。今夜はここに泊まる。切り絵の仕事を持って来ていたので、ホテルの部屋で制作。8時近くなって夜の街に繰り出す。三原の特産はタコということで、タコの天ぷらで広島の地酒をいただく。さらに広島ならカキだろう、ということで「カキの炙り」でお酒おかわり。最高。ウマかったぁ?。

 翌日、朝風呂に入って朝食後、ちょっとゆっくりして、9時過ぎに呉線に乗る。総武線のお古ではないかという黄色い電車。ボクは三鷹で生まれ育っているので、懐かしくて嬉しい。車窓から真っ青で波のない瀬戸内海が見えると、さらに嬉しくなった。海岸線がエメラルドグリーンで美しい。遠景には常にたくさんの島影。堤防の釣り人。造船所も多い。瀬戸内海、絵になる。いいなぁ。車窓から目が離せない。靴を脱いで子供みたいにして乗りたい。


呉線の車窓から。
ずっと見ていたい海、雲、島

 竹原駅で下車。ニッカウヰスキーの創業者竹鶴政孝は、ここで生まれ育ったという。竹原は「安芸(あき)の小京都」と呼ばれるそうだが、まだ午前10時とあって、楽しげな古い商店街がまだほとんど閉まっていて、残念。入りたくなる食堂や、シブイ大衆酒場がある。
 そこを抜けると国道185号に入る。これが呉線に沿っている。このあたりはしばらく海から離れていて、右手に低い山がずっと続いている。いい天気で山が陽を浴びくっきりと見え、「山陽」という言葉が浮かぶ。東京は冷え込んでいたが、歩いていて全然寒くない。竹原、という名前だけあって、竹が多い。ススキも多い。スズメが群れで飛び立つ。

 そのうち線路と道が離れてしまった。でも山が海に迫っているこの地、西に向かって歩いていれば必ずまた出合うはずだ。道はなだらかに上り下りしているが、足が疲れるほどではない。高いところを歩いている時、瓦屋根の重なりの向こうにちらっと海が見えた。あるある、と安心する。

次のページへ
旅の手帖mini

散歩の達人MOOK

バックナンバー

このページのトップへ