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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。あれこれ考えない“野武士的な“食べ方にあこがれる筆者のひとりメシエッセイ、『野武士のグルメ』(普遊社)が、土山しげる作画によるマンガ版で幻冬舎より発売。

岳南電車 がくなんでんしゃ

富士山麓の工場地帯を走る、ローカルな私鉄。吉原から岳南江尾(いずれも富士市)までの10駅。9.2km。工場内を走る一風変わった路線だ。土・日曜・祝日に使える1日乗車券は大人410円とかなりお得。

 

 今回はちょっと思い入れの強い単線をつたい歩いた。静岡・吉原の岳南電車。

 ちょうど4年前の3月、ボクは地図を見ず吉原に向かって歩いていた。
 ボクは当時、月1回の散歩で、東京から大阪まで歩く、という連載をしていた。最初は東京から横浜まで歩き、電車で帰ってきて、翌月は電車で横浜まで行き、そこから歩いて藤沢まで行き、電車で帰ってくる……その繰り返しを25回、2年1カ月で大阪にたどり着いたのだ(これは単行本『野武士、西へ』として集英社から発売中)。

 あの日は三島駅から西へ歩いた。あくまで「散歩」なので、地図も見なければ下調べもしない。暗くなってきたら、駅を見つけて電車で帰るだけだ。でもこの気まぐれ散歩、本当に楽しかった。この日も、ひょいと旧東海道に入ったり、JR原駅をまたいで海に出て砂浜をどこまでも歩いた。遠くに工場地帯らしき煙突群の煙が見え、振り返れば伊豆半島が見えた。砂浜歩きに疲れると防波堤の上を歩き、それからまた旧東海道に戻った。そこで見た曇り空の中の墨絵のような、巨大な富士山が忘れられない。

 ところが、どこでどう間違えたのか、歩いていた道はバイパスになって、車しか通れなくなった。しかたなく道をそれたら大きな工場があって、迂回して行くしかない。あたりは暗くなり、いつの間にか人っ子ひとりいない土曜日の工場地帯に迷い込んだ。コンビニも何もない。完全に道がわからなくなった。その時、単線の線路に出会った。これにつたえば駅に行く、とも思ったが考えてみたら工場専用の貨物線かもしれない。迷った末やめて、少し戻って南と思われる方向に歩いた。あの不安と心細さは完全に迷子だった。その線路が岳南線と、戻ってから知ったのだ。迷子の街をあの線路に沿って安心して歩けると思うと、照れくさい気分。


レトロチックな跨線橋ごしに停車中の岳南電車。
なんだか小動物のようでいじらしい

 新幹線と東海道線を乗り継ぎ、吉原駅に到着したのは午前11時少し前。晴れているが北には雲が広がり、大きく見えるはずの富士山がまったく見えない。JR吉原駅と岳南電車の吉原駅は跨線橋で繋がっている。この跨線橋がレトロでイイ感じ。でも歩くので行きは渡らない。駅を出て、ぐるりと回り、岳南電車の駅の方に行き、さて歩き始めようとしたら道がない。しかも右手に川があって、かなり戻って迂回せねばならなくなった。いきなり4年前を思い出す。

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