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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。

真岡鐵道 もおかてつどう

下館(茨城県筑西市)から茂木(栃木県茂木町)までの41.9km、17駅。週末を中心に今もSLが定期的に走る。
今回は栃木県の真岡駅(真岡市)から益子駅(益子町)までを歩いた。

 


鼠色の煙を吐く蒸気機関車。汽笛に感動

 真岡(もおか)鐵道に沿って歩きに行った。SLだ。毎週土日には、1日に上下1本ずつ、蒸気機関車が走っているのだ。まずはこれに乗りたい。朝8時過ぎに三鷹駅を出て、下館駅に着いたのは、午前10時半。乗り継ぎに5分しかなくて、真岡鐵道のホームへと階段を下りたら、もう蒸気機関車、来てる。真っ青な秋空に鼠色の煙吐いてる。香ばしい匂いがする。みんな写真撮ってる。わーわー。

 重量感たっぷりの真っ黒い鉄の車体。金色の字でC12 66というプレートが張ってある。四角い窓から、機関士が石炭をくべているのが見える。どこもかしこもスバラシイ。頼もしい。そうだ、今の電車から消えたのはこの「頼もしさ」だ。車両もチョコレート色に真っ赤なライン。イイ感じ、イイ感じ。

 写真を撮ってから、客車に行き、座席を確保。混んではいるが、座席は空いている。汽車はほどなくゆっくりと動き出した。加速が遅い。ああ、ウレシイ。蒸気機関車は、息子が小さい時に、静岡の大井川鐵道で乗った。だが、今回はそれから15年が経って、ボクがひとりで乗っている。今回の方がしみじみじっくり蒸気機関車を堪能できた。ちょうど大井川鐵道の時と同じくらいの歳の子供を連れた若い夫婦が隣のボックスに乗っている。パパは「初めて乗る電車がSLなんてすごいなあ」と言っている。ママは、SLの吐き出す煙を窓から眺め「この辺の人、洗濯物干せないわね」と言っている。女の人って、なんて現実的なんだ。

 一番感動したのは車内で聞いた汽笛。すごく長い汽笛が鳴った時、感動で鳥肌が立った。低い倍音がたくさん混じり、完全に機関車の、声だった。最後に残った者の、誇り高き咆哮だった。ほんと、泣きそうになった。洗濯物じゃないよ、まったく!


真岡の駅は駅舎も蒸気機関車型だった

 歩く話の前に長々書いてしまった。でもこの感動の余韻を胸に、ボクは真岡駅から歩いたのだ。駅舎がSLの形のビルなのも面白い。
 お腹が空いていたので、真岡の古そうなそば屋で「城山そば」という名のきつねそば。濃い味に煮た油揚げ、カマボコ、ナルト、ホウレンソウ、2種類の切り方のネギ。素朴においしかったぁ。こんな普通味が、好き。

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