『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。

久住 昌之 Kusumi Masayuki(文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。作曲・演奏をした『孤独のグルメSeason4』サウンドトラック盤(地底レコード)が好評発売中。

武豊線 たけとよせん

大府(大府市)から武豊(武豊町)までの19.3km、10駅。明治19年(1886)全通の古い路線。
今年の3月から全線が電化され、名古屋近郊の通勤通学路線としてさらなる活躍が見込まれる。

 

 細い路地に入る。黒い木造の平屋の家。鉢植えの植物の横に小さな鳥居が立っている。どんな人が住んでいるんだろう。時間を見たら11時49分。お昼前か。今日はまだまだ長い。何はなくとも実に豊かな気分。「ナカリ田楽みそ」と看板にある大きな工場。味噌を造っているのか。田楽用の味噌は普通の味噌と違うような気がする。味噌の匂いはしなかった。いつだったか、醤油工場の近くを歩いた時は、醤油の匂いがしたっけ。


半田駅の跨線橋。JR線最古といわれる。見とれる

 またしばらく歩いて、道が線路に寄り添い、その向こうに駅の跨線橋(こせんきょう)が見えた。跨線橋という言葉もこの連載中に覚えた。白と赤茶色に塗り分けられている。だんだん近づいた。古そうな駅舎も見えてきた。うーん、あれはいいぞ! JR半田駅だ。事前に編集者にこれだけは聞いていた。半田駅の跨線橋は明治43年(1910)に造られた、現存するJR最古の跨線橋だそうだ。ホームの屋根も相当古そう。駅の手前で線路をくぐる。低く、手を伸ばせば天井に着くトンネル。いよいよ跨線橋の前に来た。すごい存在感。鉄の支柱は地面の方が四角柱になっていて、クラシカル。鉄の時代。ボルト。鋲。壁は板張り。鉄骨と木造の組み合わせにグッとくる。隣には小さなレンガ造りの小屋のようなものまである。これも絶対古い。いやぁ、タマラナイ。ボクは寺や城なんかより、断然この跨線橋に男の子心が揺さぶられる。窓はサッシになっているし、ペンキもきれいに塗り直されているが、それもむしろ現役感、まだ生きてる感を出していて頼もしい。これを見ることができただけでも、来てよかった。

 歩いていて、遠くに見え「もしや」と思った気持ちが「あれだ」と確信に変わり、やがて感動がゆっくりと湧いてくる。散歩してこその、時間をかけてクッキリしてくる実感。
 大物を釣り上げた心のゆとりで、ボクは武豊線から離れ「運河と蔵の町」を歩くことにした。駅のそばにはこれも古そうな「料理旅館末廣」。料理旅館という名前も時代がかっている。「松華堂菓舗」も立派な木造家屋。運河であろう広い川に出た。その向こうにもこちらにも瓦屋根の江戸明治チックな家並みが見える。

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