『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。

久住 昌之 Kusumi Masayuki(文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。作曲・演奏をした『孤独のグルメSeason4』サウンドトラック盤(地底レコード)が好評発売中。

武豊線 たけとよせん

大府(大府市)から武豊(武豊町)までの19.3km、10駅。明治19年(1886)全通の古い路線。
今年の3月から全線が電化され、名古屋近郊の通勤通学路線としてさらなる活躍が見込まれる。

 


試飲した「酒の文化館」。ここの壁も黒い

 そんな家々の間をつたい歩きは忘れてぶらぶら散歩して、「國盛・酒の文化館」に入った。昔の酒造りの道具などを見学した上、日本酒の試飲までしてしまった。出したてという「純米吟醸生原酒」が、目が覚めるほどウマかった。腰を据えて一杯飲みたくなった。
 気分が良くなって運河沿いの道を歩く。これに沿って行けば、この先で武豊線を渡ることを駅の地図で見てきた。道沿いに桜。葉はないが、枝には早くも固い蕾がいっぱい付いている。春がその一粒一粒に宿る。
 遠くに見えた橋がどうやら線路の鉄橋とわかる。その手前に橋があったので渡る。今、列車が通ったらなぁ、と思いながら歩いていたら、本当に列車が通った。慌ててカメラを向ける。なんとか間に合った!
 それからまた道はいつしか線路沿いになり、しばらく行くとまた跨線橋が見えた。乙川駅。これはすっきりとして、まあ普通。……なんてエラそうに。にわか跨線橋マニアになってる。


茶色い亀崎駅。駅名がものすごく読みにくい

 乙川からはずっと道は線路から離れず、何度か横を列車が通った。昼を過ぎて気温が上がったのだろう、背中が汗ばみ厚いジャンパーを脱ぐ。「亀崎饅頭紀伊國屋」の大きな看板が見えた。お、亀崎が近いか、と思ったらそこが亀崎駅前だった。亀崎駅舎は黒っぽい茶色。そのおかげで駅名が読みにくい。


茶色い亀崎駅の小さな跨線橋。エレベーター式だ

 黒い家をたくさん見てきて、最後の駅も黒かった。しかも短い跨線橋がある。今日の歩きのおさらいみたいだ。跨線橋も茶色。駅前には喫茶店が1軒あるだけ。そこに入って焼きそばを食べた。これがボクのお昼。時計を見ると2時過ぎ。食後のコーヒーをゆっくり飲んで、列車の時間までを過ごした。

※「旅の手帖」2015年3月号より掲載しました。

前のページへ


旅の手帖mini

散歩の達人MOOK

バックナンバー

このページのトップへ