『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。

久住 昌之 Kusumi Masayuki(文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。4月から原作を手がけたマンガ『食の軍師』がTOKYO MXでドラマ化。

宇野線 うのせん

岡山(岡山市)から宇野(玉野市)までの32.8㎞、15駅。瀬戸大橋の開通以前は、高松へ渡る宇高連絡船への接続で活躍。
宇野からは現在もフェリーで高松・直島などへと行ける。


鉄道作業員に見えるのだがきれいに並んで何してるのか?

 またしばらくつたい歩いていると、黄色いヘルメットをかぶり、光反射ベルト付きのオレンジ色の作業服、濃紺のズボンに黒い作業ブーツという12人の男たちが現れ、線路のところに並んだ。何があるんだろう。鉄道作業員と思われる。何をしているんだろう。何が現れるんだろうと思って、通り過ぎたあとも振り返り振り返り、彼らの動向を見たが、特別な車両が来るわけでもなく、現れた方に消えていった。何をしていたんだろう?

 道端に硯井(すずりい)という井戸があって、由来を書いた立て看板があった。今から1100年ほど前、この辺はまだ海だったそうだ。その海が干上がった窪みから少しも塩分のないおいしい水が噴き出していた。そこを通りかかった菅原道真が、その水を硯にうつし、一首の歌を書いたのだという。

 「海ならず たたえる水の底までも 清き心を月ぞ照らさん」

 静かな干潟の夜空に、満月が煌々と輝く風景が目に浮かんだ。なんだかそういう気分になってしばらく歩く。
 竹が鬱蒼と生えた山も多い。関東より関西の方が竹の山は多いような気がする。県道沿いに「トンボ学生服」の大きな新しい社屋。そんな学生服の会社があったような気がする。遠い記憶だ。向かいに小さな理髪店「BARBARトンボ」があった。関係あるのかないのか。


峠の始まり。宇野線はトンネルへ、ボクは左手の山道へ

 ずっと線路の進行方向右手を歩いていたが、道が踏切で線路の左手に移る。そこから道が線路とともに大きく右に曲がりながら、少しずつ上り始めた。お、峠、来るか?と思う。あたりはすっかり農村の様相を呈してきた。古そうなため池のようなものがいくつもあり、宇野線もその間を走っている。道はますます坂になり、宇野線との落差が大きくなり、とうとう線路は見えなくなった。トンネルの入口は確認できず。

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