『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。

久住 昌之 Kusumi Masayuki(文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。文庫版『ひとり飲み飯 肴かな』(日本文芸社)発売中。

いすみ鉄道 いすみてつどう

上総中野(大多喜町)から大原(いすみ市)までの26.8km、14駅。かわいらしい車両と、全線を通じて見られる菜の花が人気のローカル線。
今回は大多喜から国吉までから足を延ばし、上総東まで歩いた。

 こんないい風景の中で、線路がすぐ隣にあるのに、上下とも全然列車が来ない。来ないまま歩いて、また道の左右に家が増えてきてしまった。そのうち急にずいぶん後方で踏切の音が鳴り出す。もう戻れない。ちぇーっと思って、しばらくして家と家の間から列車が通り過ぎるのを写真に撮った。使えねぇな。


国吉駅に停まっている車両を手前の信号から。花がきれい

 少し歩いたら踏切があったので、渡りながら見ると遠くに停まっている列車が見えた。駅だろうか。道路を歩いて行くと、商人宿のような小さな旅館や、閉店した大衆食堂があって、当初の目標・国吉駅に着いた。2時間足らずのつたい歩きだった。ホームには桜も菜の花もいっぱい咲いていて向こうには「風そよぐひろば」という広場があった。


国吉駅に隣接した公園にて。いすみ鉄道はムーミン鉄道だ

 木のテーブルやベンチが少しだけある、ただ草刈りをしただけのような広場で、でも晴れていたらすごく気持ちよさそうだ。木彫りのムーミンや、ムーミンパパがそこかしこに立っている。雨は止み風もない。鳥の声。

  そこで少し休んだが、電車は行ったばかり。時計を見ると13時20分。少しお腹が空いたが、これはという食べ物屋もなかったので、もうひと駅歩くことにする。駅前の家々を抜けると、田植えをしている水田があった。現役の茅葺き屋根の家もあった。歩いてよかったじゃないか、と自分を納得させる。


新田野駅にて。桜と菜の花に間に合った。どこでもきれい

ついに来た! 今回のつたい歩き中にちゃんと撮れた1枚だ

 20分ほどで新田野駅に着く。無人駅で見落とすほど小さい。時刻表を見ると、あと数分ほどで上りの列車が到着する。やった、と思って駅を出てもう少し先の田んぼの脇で、立ち止まってカメラを構えて待つ。コトコトと1両車は現れた。通り過ぎ去って行くまでに、4枚写真を撮った。曇りのせいか3枚はブレた。


桜の花びらのカーペット。200mくらい続く未踏の花道

 でも満足して次の駅を目指す。そこで歩道に素晴らしい桜のカーペットが現れた。花びらに誰も歩いた痕跡がない。新雪のようだ。それは200mほど続いた。サプライズ。

 また家や飲食店が増えてきて、ちょいと気になる古い中華料理店もあったが、次の駅で電車に乗り損ねたくないので、足早に通り過ぎる。そうやって、上総東駅に着いた。駅名看板は「かずさあづま」となっていたが、あづまなら「吾妻」で、「東」ならあずまだろう、とひとり文句をつけたりした。足を急いだが、時刻を見ると2時25分で、あと15分も余裕があった。ここでつたい歩きはおしまい。今日は約3時間の行程だった。駅は古い木造で、無人駅。駅の壁に作り付けの長椅子に腰掛ける。ここでも新緑が目に心地よい。

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