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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。文庫版『ひとり飲み飯 肴かな』(日本文芸社)発売中。

小野田線 おのだせん

居能(山口県宇部市)から小野田(山陽小野田市)までの11.6㎞、9駅と、通称・本山線の支線2.3㎞、2駅。大正4年(1915)、石灰やセメント運搬のため小野田~小野田港(旧駅名セメント町)間で開業し、今年11月に100周年を迎える。今回は小野田から長門本山(山陽小野田市)まで歩いた。

 いい食堂に入れて、幸先がいいスタート。今回は来る前に軽く地図を見たら、前半かなり線路が曲がっていて、つたい歩く道も複雑。念のため地図をコピーして持ってきた。実際、線路に沿って歩き出して間もなく、大きな跨(こ)線橋を渡ったところで危うく山陽本線の方に行きそうになる。慌てて降りて、小野田線に沿って行く。線路沿いの水田が穂をつけ始めていて、生命にあふれているようだ。大人になるほどわかるのは、豆腐の旨さと水田の美しさだろう。

 間もなく線路は鉄橋になった。人は渡れないので、川沿いに歩いて橋を渡ったが、その先で道が熊手のようにわかれていて、どの道が線路に向かうか見当もつかない。さっそく地図を出す。今回のつたい歩きは難易度が高い。川沿いに歩くと、その先で小野田線の目出(めで)駅に出合うことがわかった。川は有帆(ありほ)川。川幅は広いが、水は少ない。川沿いに鈍い朱色に塗られた貨物列車の貨車が据えられてあった。倉庫として利用されているようだ。どこで買ってどう運んだのか。


どこで買って、どうやって持ってきたんだろう。
倉庫として利用?

 やがて左手から線路が現れ、道と踏切でX字に交差した。踏切からホームらしきものが見えた。が、屋根もベンチも何もない。電灯的なものもない。人影もない。近くに行くと「目出」という駅名板がポツンと所在なげに立っている。歩いて行くと、小さな無人駅舎。隣にトイレ、中に椅子があった。なぜかちょっと残念な気がした。極限のシンプル駅かと思った。勝手な旅人。


屋根もベンチもなにもない。
いっそ駅舎もなくてよかった。なんて

 地図によると、そこからは道は線路に沿っているが、車道が少し高くなっており、樹々もあって線路は見えない。途中で歩道がなくなり、人は右手の道に降りなければならない。降りていって線路から離れないか?

 心配でおそるおそる歩いて行くと、やがて坂道を上り、車道に戻った。なんだったんだろう。まあ、こんなとこ歩いている人はいない。なにか車の都合だろう。今度はその車道が線路を跨いでいこうとする。道路を降りる。すると線路は逆に高架になり、見上げる位置に南中川駅が見えた。

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