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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。

美濃赤坂線 みのあかさかせん

正式線名は東海道本線。通称・美濃赤坂線と呼ばれる。大垣駅から美濃赤坂駅(ともに岐阜県大垣市)までの5.0km、3駅。石灰石などの積み出しのため、大正8年(1919)に開通した。

 岐阜の大垣に泊まり、美濃赤坂線につたい歩きに行った。大垣は初めてだったが、歴史を感じる町だった。よさそうな居酒屋がたくさんあって、「盛升」という店で一杯やった。コの字カウンターの客は常連客が多く、名古屋に近いのに大阪弁っぽい言葉なのが面白かった。店員のおばちゃんは一見(いちげん)客のボクにもやさしく「ダンナさん、どちらから来はったんですか」とニコニコ話しかけてくれた。ひとり旅にはそんな一言二言が、身にしみてうれしいものだ。串カツ、明太子などで生ビール。でも店は夜10時には終わった。

 さて、翌朝は早起きしてホテルで朝食、部屋で原稿書きの仕事をして、10時きっかりに歩き出す。美濃赤坂線はJR東海道本線の支線で大垣駅と美濃赤坂駅を結ぶ全長5kmのごく短い鉄路。全線踏破、楽勝だ。でもまったく知らない土地なので、何はなくともワクワクする。

 駅からなかなか線路に接近した道がなくて、車道を歩く。雲ひとつない青空。街路樹は紅葉が始まっている。
 線路にぶつかったので、これかと思ったがすぐそばに北大垣駅とあり、そんな駅あったかな? と、行ってみたらこれは養老線だった。アブナイアブナイ。

 杭瀬川(くいせがわ)という大きな川を渡る。川辺にススキ。水面に秋空が映って美しい。橋の上から右手つまり北側に山が見える。岐阜というと山のイメージだが、ここはまだ名古屋と同じ濃尾平野の一部だ。このまままっすぐ西へ向かうとひと山越えて琵琶湖ということになる。湖に沿って南下すれば京都か。なんだかダイナミックなイメージが頭の中で広がる。俺は、たった今この足でニッポン列島を歩いている。

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