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現地でカンパイ! これぞ飲むべき 全国 美酒の旅|佐賀県鹿島市「酒蔵ツーリズム®」 Vol.11 濃醇(のうじゅん)甘口の酒蔵が宿場町でしのぎを削る九州屈指の日本酒の里

鹿島市内の宿場町「肥前浜宿」は国選定の重要伝統的建造物群保存地区。江戸時代創業の酒蔵も残り、「酒蔵通り」とも呼ばれている。

有明海に面した鹿島では、日本最大の干潟で獲れたワラスボ、ムツゴロウ、クチゾコなどの蒲焼きや煮物、揚げ物などが郷土料理。しっかりした味付けが、鹿島の地酒の旨みと香りにぴたりとハマる。

毎年3月に催される「六蔵同時蔵開き」では、各蔵のイベントはもちろん、肥前浜宿の酒蔵通りも賑やかだ

地酒グルメを開発するなど、各蔵がしのぎを削って挑戦する鹿島の酒蔵。日本初のどぶろくアイス324円や、お酒が苦手でも味わえる地酒ソフトクリーム324円、全蔵の地酒ゼリー300円は現地で試して。

九州なのに日本酒?じつは伝統的な地酒文化が根付く場所

 九州の酒といえば焼酎を思い浮かべるが、佐賀県は日本酒の里だ。なかでも鹿島市は、有明海に面しながらも三方をぐるりと山に囲まれ、冬は、九州のなかでは比較的寒冷な地。それでいて「山田錦」「さがの華」といった酒米や、「さがびより」などの食米を育む、肥沃な佐賀平野が広がっている。さらに、やや軟水の多良岳山系の伏流水が、水道にも仕込み水にも用いられ、酒造りに適した場所だったのだ。

 酒造りの歴史は古い。鎌倉時代、幕府に「肥前(ひぜん)酒」が献上されており、17世紀後半の文献には、市内で酒造りが行われていたとの記録もある。本格的な酒造りが盛んになったと思われるのは江戸末期のこと。佐賀藩主・鍋島直正が余剰米の加工販売を奨励したことによるといわれている。
 そもそも鹿島は港町であり、長崎街道の宿場町「肥前浜宿」としても栄えた地。酒の流通に有利なうえ、一大消費地である長崎にも近いため、狭いエリアに六蔵がひしめく、県内有数の酒蔵密集地となったようだ。
 さらに、佐賀は有田焼、伊万里焼、唐津焼などの産地。料理や酒の器に、美しい陶磁器を日常的に用いることも、古くからの慣習となっている。

 鹿島の酒は、新潟や東北の端麗辛口に対して、一般に“濃醇(のうじゅん)甘口”と称される。それは佐賀の食文化の影響が色濃い。有明海や玄界灘で獲れる多種多様な魚介に、野菜、果実、佐賀牛、みつせ鶏など、豊かな食材を濃醇に味付けした郷土料理が多々。合わせる酒は、もちろん濃醇でないとバランスがとれないのだ。

地酒と町の文化を一挙に満喫できる「酒蔵ツーリズム®」の先駆け

 全国各地で今、「酒蔵ツーリズム®」が注目されているが、実はその先駆けとなったのが、ここ鹿島の「酒蔵ツーリズム®」だ。きっかけは、世界最大級のワイン品評会「IWC(International Wine Challenge)」日本酒部門で、2011年に鹿島の富久千代(ふくちよ)酒造の「鍋島大吟醸」がチャンピオンに輝いたこと。“一蔵の栄誉は鹿島市全体の誇り”とばかりに、若手が多い市内の酒蔵が結束し、鹿島の文化や酒文化を発信しようと「鹿島酒蔵ツーリズム®推進協議会」を設立した。

 「鹿島酒蔵ツーリズム®」は通年取り組んでいるが、毎年3月に特別なイベントが待っている。それが「六蔵同時蔵開き」だ。
 普段は酒蔵見学できない蔵も、この日ばかりは開放。蔵人の案内による酒蔵見学や、新酒の試飲、イベント限定酒の販売、さらには地酒を用いたグルメや地酒カクテルの販売、唐津焼などの酒器や地元食材の販売、ライブが行なわれるなど、各蔵それぞれの趣向で蔵開きを盛大に盛り上げる。
 また、六蔵を巡ると景品が当たるスタンプラリーや、イベント限定グッズ、公式ガイドブック(300円)、オリジナル6蔵セット(4000円)なども限定販売。県内地酒の呑み比べ、物産展、フリーマーケットなどもあり、賑やか必至だ。
 六蔵と市内で同時開催する「肥前浜宿 花と酒まつり」「祐徳門前 春まつり」「鹿島ん街 酒と発酵まつり」の各会場を、無料シャトルバスも運行する。ほろ酔い気分で鹿島の町をぐるりと、そぞろ巡るのも、楽しいのだ。

【鹿島酒蔵ツーリズム®2015 年に一度の六蔵同時蔵開き】
日時:2015年3月28日(土)・29日(日)10:00~17:00
問合せ:鹿島酒蔵ツーリズム®推進協議会
TEL.0954-63-3412(鹿島市商工観光課)
TEL.0954-62-3942(鹿島市観光協会)
※「酒蔵ツーリズム」は佐賀県鹿島市の登録商標です。

鹿島酒蔵ツーリズム® 六蔵同時蔵開き
矢野酒造

寛政8年(1796)創業。若き9代目が純米酒に力を注ぐ。旨みとコクのバランスがいい「肥前蔵心」や、香り華やかな「竹の園」が逸品。試飲できる「たつみの蔵」にも立ち寄りたい。
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峰松酒造場(肥前屋)

大正3年(1924)創業。「菊王将」のほか、町の名前を冠った口当たりのやわらかな「肥前浜宿」を醸す。酒販売のほか、店先には特産品やつまみなども。懐かしい風情で人々を誘う。
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富久千代(ふくちよ)酒造

大正末期創業。2002年よりグリーンツーリズムに参加し、酒米の田植えから酒造りを始める。世界が認めた代表銘柄「鍋島」は、やさしく五感を刺激する味わいだ。
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光武(みつたけ)酒造場

元禄元年(1688)創業。県内の専属農家で栽培されたレイホウ、山田錦を用いたまろやかな「金波(きんぱ)」が主力。芋焼酎「魔界への誘い」や日本酒カクテルなども手がける。
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馬場酒造場

寛政7年(1795)創業。8代目が杜氏として蔵の味を受け継ぐ。代表銘柄はまろやかな甘みが口中に広がる「能古見(のごみ)」。地元契約農家が育てた鹿島産山田錦で仕込んだものだ。
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幸姫(さちひめ)酒造

昭和9年創業の、鹿島では最も新しい酒蔵。特別純米酒「幸姫」は2014年度のIWCで銅賞に輝いた銘酒。地酒アイスやソフトなども開発、販売。酒蔵見学も通年可能だ。
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◆日本酒と楽しむ! 特選ご当地自慢
漬蔵たぞう|120年の漬蔵で受け継がれるピクルス

創業120年を誇り、代々受け継がれた技法で作られた漬け物が多彩。なかでも百年ピクルスは、佐賀県産を中心に九州産の旬野菜を米酢ベースに漬け込んだ、無添加の和風味だ。蔵は自由に見学でき、試食販売もあり。「花と酒まつり」に合わせ、イベントも開催予定。

■漬蔵たぞう

ミックスピクルス:800円~、
季節のピクルス:650円~
時間:9:00~16:30
休み:不定休
住所:鹿島市浜町1192
交通:JR長崎本線肥前浜駅から徒歩約2分 
TEL.0954-63-2601
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鹿島城跡赤門|鹿島っ子が誇る町のシンボル

鹿島藩2万石の鹿島城を、文化4年(1807)に北鹿島から移築したが、戦火に遭い、残るのは大手門と丹塗りの赤門のみ。桜の名所・旭ケ丘公園の一角にあり、現在は地元高校の校門に。「東の赤門(東京大学)、西の赤門(鹿島高校)」と呼ばれ、地元自慢の建物だ。

■鹿島城跡赤門

住所:鹿島市大字高津原城内
時間:見学自由
交通:JR長崎本線肥前鹿島駅から徒歩約18分
TEL.0954-63-34122(鹿島市商工観光課)
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のごみ人形工房|ぽってりと愛らしい郷土玩具

終戦時、潤いと楽しさを求めて生まれたのごみ人形。染織家で人間国宝の鈴田滋人氏が監修し、大牟田の粘土と塩田の陶土を合わせて作る。ユーモラスで愛らしい表情と澄んだ音色にファンは多く、十二支土鈴の卯・未は年賀切手にも採用された。工房には展示室も。

■のごみ人形工房

のごみ人形:980円~
住所:鹿島市山浦甲1524
時間:8:00~17:00
休み:土・日曜・祝日
交通:JR長崎本線肥前鹿島駅から市内循環バスで約22分の「農協前」下車、徒歩2分
TEL.0954-63-4085
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取材・執筆:佐藤さゆり(teamまめ) イラスト=オギリマサホ
協力 :鹿島市商工観光課 漬蔵たぞう
※掲載されているデータは2015年2月現在のものです。
※イベント内容は変更される場合があります。事前にご確認のうえおでかけください。
※本事業は、酒蔵ツーリズム推進協議会に協力しております。本連載により生じる直接または間接の損害等については、酒蔵ツーリズム推進協議会(またはそのメンバー)では何ら責任を負うものではありません。


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