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駅弁の女王小林しのぶが選ぶ 絶対に食べたい駅弁

生姜入りのアサリが食欲を刺激する、夏のおすすめ駅弁 漁り弁当 木更津駅

 東京湾に面した木更津は昭和30年代から潮干狩りが盛ん。それをイメージしてこの弁当を開発したのは木更津の『浜屋』。しかし浜屋が駅弁業から撤退したため、木更津駅を本拠地とする『万葉軒』が受け継いだ。2008年にはリニューアルを行ってアサリを増量したほか、パッケージも一新している。

 だ円形の容器に掛け紙を巻き、伸縮性のあるひもでしばる。掛け紙には、歌舞伎世話物の名作『与話情浮名横櫛(よわなさけ うきなの よこぐし)』の前半に登場する、「木更津海岸見染の場」が描かれている。

 中身は、炊き込みご飯の上に特産品のアサリをたっぷりのせた貝弁当で、副菜にはイワシの蓮根挟み揚げ、マグロの照り焼き、きんぴらごぼう、ほうれん草ピーナッツ和え、煮物などを添えた。特製ダレで甘辛く煮込んだアサリには生姜が散りばめられており、さわやかな香りとピリッとした刺激が食欲を誘う。身の部分はふっくら、貝柱は心地よい歯ざわりと2つの食感を同時に楽しめるのも魅力だ。

 炊き込みご飯にも生姜が混ぜられており、食欲が減退しがちな季節でもぴったりの駅弁。房総周辺の味覚を盛り合わせたおかずを肴にすれば、ビールの消費量もぐいっと上昇しそうだ。



水戸駅「印籠弁当」も貝のダシが香るご飯
  • 価格:1000円
  • 種類:炊き込み・海鮮系
  • 調製元:(株)万葉軒
  • 電話:043-224-0666

低脂肪で甘味とコクのあるブランド地鶏を使った一品 阿波地鶏弁当 徳島駅

  すだち、なると金時といったブランド食材が豊富な徳島。阿波尾鶏(あわおどり)という駄じゃれのような地鶏もその一つで、シャモを改良した阿波地鶏に優良種を掛け合わせて誕生した、日本初のJASマーク認定地鶏でもある。

 脂肪が少なく、甘みとコクのある地鶏を堪能できるのがこの駅弁。徳島駅では90年代に一度駅弁が消滅したが、2003年にこの駅弁が発売されて見事に復活。現在も元気に販売中だ。

 容器はプラスチック製で、コンビニ弁当のようにシンプル。けれど中身は、鶏のエキスで炊いた醤油飯の上に地鶏の照焼き、錦糸卵、鶏そぼろなどを敷き、付け合せに桜漬とうぐいす豆を配するなど手が込んでいる。中でも地鶏の照焼きは、適度な甘さのタレがまんべんなく浸透しており、噛むほどに旨みが口中に広がる。醤油飯との相性もよく、かき込むように平らげてしまう。この地鶏は、低脂肪でコラーゲンをたっぷり含んでいるため、体型を気にしはじめた人にもおすすめできる。

 徳島市阿波おどりは、毎年8月12?15日の開催。賑やかなおどりを観賞しながら、この駅弁で腹ごしらえするのも一興だ。

「トレたび」おすすめプレイバック

駅弁の後はご当地の絶品スイーツで舌鼓!
  • 価格:950円
  • 種類:肉系
  • 調製元:(株)ヨシダ
  • 電話:088-643-2558

老舗の黒七味が牛肉の味わいをピリっと引き締める 京都牛膳 京都駅

 明治36(1903)年の創業以来、駅弁づくりひと筋に努力を重ねてきた『淡路屋』。同社の駅弁販売は神戸・新神戸駅が中心だったが、3年前、京都駅に販路を拡張した。この動きに伴い、同社が初めて京都駅で売り出したのが、「京都牛膳」だ。

 五重塔の画像を掲載したパッケージに、半割りの竹を模した発泡材容器を収める。内容は、かやくご飯の上に牛肉の照り焼き、錦糸卵、すぐき漬けなどをのせた牛丼ふうの弁当。牛肉を使用した弁当のおいしさに定評のある同社だが、この駅弁では香煎(こうせん)製造の老舗「原了郭(はらりょうかく)」の黒七味を添えたのがミソ。

 甘めに味付けられた牛肉にこの黒七味を振り掛けると、味覚はがらりと一変。舌先にぴりっと感じる辛味と香味が牛肉の味を引き締め、濃厚な旨みをたっぷりと味わわせてくれる。黒七味は全国にファンが多く、私も個人的に大好きで京都を訪ねた時には必ず買って帰る。少量でも辛味を味わえるが、ここではたっぷり振り掛けるとうまい。京伝統の漬物、すぐき漬けの味わい深い酸味は箸休めにぴったり。京都ならではの風情を楽しめる弁当に仕上がっており、食後の満足度は高い。

■「トレたび」おすすめプレイバック■

「フルムーン夫婦グリーンパス」で食欲の秋を楽しみつくす
  • 価格:980円
  • 種類:肉系
  • 調製元:(株)淡路屋
  • 電話:078-431-1682

甘みのある桜エビをふんだんに使った幕の内弁当 桜えびめし 三島駅

 駿河湾は、日本屈指の桜エビ漁場。湾内で水揚げされる桜エビは、“海のバレリーナ”あるいは“海のルビー”と称えられるほど美しい。その桜エビをたっぷり使ったのが、桃中軒の「桜えびめし」である。

 フタを開けた瞬間、桜エビのダシで炊いたご飯の甘い香りが立ち昇る。内容は、メーンとなる炊き込みご飯のほか、桜エビのかき揚げ、有頭エビ素揚げ、アジの塩焼き、イワシ緑揚げ、鶏肉団子、煮物、玉子焼き、鶏の照焼きといった多彩なおかずを詰め合わせた幕の内ふうの弁当。彩りも鮮やかで、食欲がいっそう刺激される。

 炊き込みご飯には、桜エビがのせられている。エビの香り高さと小気味よい食感は秀逸で、たちまち“口福”感に満たされる。ボリュームも多いので、ご飯ばかりが先行してなくなる心配もない。おかずでは、桜エビの風味を逃さずに仕上げた、かき揚げが絶品。味つけが濃い口なので、あっさりとした味わいの炊き込みご飯とのコンビネーションは抜群だ。

 桜エビを中心に海の幸をふんだんに盛り込んだ香り高い一品。バカンスシーズン中に一度は味わってほしい。

■「トレたび」おすすめプレイバック■

富士山を思わせる優美な曲線の屋根が魅力的
  • 価格:1000円
  • 種類:幕の内・炊き込み・海鮮系
  • 調製元:(株)桃中軒
  • 電話:055-963-0154
※掲載されているデータは平成23年10月現在のものです。

 

女王PROFILE 小林しのぶ 旅行ジャーナリスト・エキベニスト・駅弁愛好家

 駅弁の食べ歩きは20年以上に及び、食べた駅弁の数が5000を超えることから"駅弁の女王"と呼ばれる。全国各地の調製元と新作駅弁の共同開発を手がけるほか、新聞、雑誌、ウエブ等に連載多数。プロデュースした駅弁は「1000号はっこう弁当」「東京もちべん」(東京駅)ほか。

 フードアナリスト。日本旅のペンクラブ会員。千葉県佐原市出身。

 近著に『全国美味駅弁 決定版』(JTBパブリッシング)、『五つ星の駅弁』(東京書籍)、『どんぶりこ』(交通新聞社) 、『超いまうまい帖』(ぶんぶん書房)、『すごい駅弁!』(メディアファクトリー)などがある。NEXCO東日本で展開している「どら弁当」の監修者でもある。

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