2009.06.01鉄道トラス橋、アーチ橋、つり橋など鉄道橋の種類や歴史をご紹介
未来に伝えたい鉄道遺産
1872(明治5)年の新橋駅~横浜駅間開業以降、全国にその網を広げ続けてきたに日本の鉄道。厳しい地理的条件を克服するために、さまざまな技術が施された場所も少なくありません。できあがった当時の社会や先人たちの苦労を、無言で語っているかのような鉄道遺産。そんな、未来にも伝えていきたい名建築を訪ねる旅に出てみませんか。
歴史ある「鉄道橋」
鉄道線路を敷設する上で欠かせないのは川や谷、または道路などを乗り越えるための構造物「鉄道橋」です。「鉄橋」などと通称される橋の数々は、明治の鉄道黎明期から建設されました。
鉄道橋の桁の部材は鉄、レンガ、コンクリートなどがありますが、初期のものは圧倒的に鉄製が主体です。鉄道橋は道路橋と異なり列車荷重が大きい上、安全に走行させるために「たわみ量」が制限されるなど、高い剛性が求められ、設計は難しくなります。明治期は技術、材料共に輸入に頼りましたが、次第にそれらを見習い、日本の技術が確立して名橋が次々に誕生していきました。
今回は、鉄製の鉄道橋とその歴史の一部を見てみましょう。
「橋梁」にはどんな種類がある?
日本列島は国土の大半が山岳地帯。山脈から海に向けて河川があみだくじのように流れているため、そこに生まれる谷間には横断する橋梁がたくさんあります。設置される条件によって種類は様々です。
全国の鉄道橋
一ノ戸川橋梁
山間に架かる全長445メートルの長大なトラス橋
磐越西線で「山都の鉄橋」として親しまれているのが、喜多方~山都間の一ノ戸川橋梁です。高さ24メートル、全長445メートルに16径間(橋脚・橋台間)の鉄橋が架かり、中央部は上路式のボルチモア・トラス橋です。架橋は1908(明治41)年で米国アメリカンブリッジ社が製作し、米国人技術者のクーパー、シュナイダーが設計を行ないました。
ボルチモア・トラスは軽量化のため、トラスの斜材に副材を挿入させて分格化を図ったペチットトラスの一種で、曲弦トラスのものは「ペンシルベニア・トラス」、平行弦トラスのものが本橋などの「ボルチモア・トラス」と呼ばれ、それぞれ独特の構造美を持ちます。また、格点(トラスの接続点)を太く大きなピンで結合させているのも特徴です。これは「ピントラス」と呼ばれ、古い鉄橋に多く見られます。
磐越西線は東京と新潟方面を結ぶ重要な交通路として建設が行なわれ、一ノ戸川橋梁は当時、「東洋一の規模」の鉄橋と言われました。橋脚には地元産出の花崗岩を使用。鉄橋建設の苦労は甚大で、竣工時には地元住民も大いに喜んだそうです。
一ノ戸川橋梁には現在、「SLばんえつ物語」などが走り、観光スポットとしても人気。明治のロマンが伝わる心地よい鉄橋の響きは、福島県が公募した音風景「うつくしまの音30景」にも選定されています。竣工から100年の歳月が経ちますが、補修されながらも威風堂々と現役であり、完成度の高さが窺い知れます。
●交通 磐越西線 山都駅から徒歩約15分
トレたび豆辞典
【橋梁】きょうりょう…河川や海を渡る橋のこと。
【弦材】げんざい…トラスの上下に配置する部材。
【曲弦トラス】きょくげんとらす…トラスの上弦材が曲がっているもの。
【平行弦トラス】へいこうげんとらす…トラスの上下弦材が平行なもの。
松住町架道橋
震災復興で誕生した日本初のタイドアーチ橋
1923(大正12)年の関東大震災で東京は焦土と化し、復興に際しては新たな計画が次々に立てられました。総武本線は当時、両国が始発駅でしたが、これを機に御茶ノ水まで延伸することになりました。ルート上にはいくつかの鉄道橋が架けられましたが、いずれも従来にない斬新なものばかりで、近代的な路線として開業しました。
御茶ノ水~秋葉原間の松住町架道橋は、昌平橋(しょうへいばし)交差点付近の道路上に架けられたもの。道路上なので橋脚が建てられずアーチ橋が採用され、アーチに働く水平反力を繋ぎ材で処理し、支点に水平反力が発生しない日本初の「タイドアーチ橋」として1932(昭和7)年に竣工されました。
アーチ構造には、三角形のトラスを使用して強度を高めた「ブレーストリブアーチ」を採用。設計は鉄道省、製作は東京石川島造船所が行ない、すべて日本の技術で造られています。震災復興に当たり、より優れた最新の技術が惜しみなく導入され、近代的で美しいデザインの鉄橋が架けられました。橋長は72メートルあります。
この橋の御茶ノ水側には「神田川橋梁」が連続していますが、「ラーメン橋脚」が使用されているこの鉄橋もやはり当時としては新しい技術の鉄橋で、美しいデザインの橋脚を誇っています。
昌平橋交差点付近は現在、多数のビルが建っていますが、二重になったトラスとアーチの優雅な構造・デザインは秀逸で、現在の町並みにもよく調和しています。
●交通 総武本線 御茶ノ水駅から徒歩約5分
トレたび豆辞典
【架道橋】かどうきょう…鉄道が道路や線路の上を渡る橋のこと。逆に道路が鉄道上を渡る橋を「跨線(こせん)橋」という。
隅田川橋梁
喜寿を迎えた隅田川にかかるアーチ橋
「松住町架道橋」と共に総武本線御茶ノ水延伸の際に架けられ、浅草橋~両国間にあるのが「隅田川橋梁」です。鉄橋建設には引き続き斬新な技術が試みられ、また複数の構造を取り入れた意欲的なものとなり、1932(昭和7)年に竣工しました。鉄橋は左右がプレートガーダー連接、中央部に日本初の「ランガー桁」を用い、橋長は172メートルあります。
ランガー桁は桁とアーチとその吊り材でできている方式で、プレートガーダーをアーチによって補鋼しているところに特徴があります。ランガーとは考案したオーストリア人の名前に由来するものです。このような鉄橋は強度が求められるため逞しく造られ、デザインは一般に無骨になりがちですが、本橋のデザインは大変美しく、隅田川の景観に調和した優れたものになっています。
製造は勝鬨(かちどき)橋などを手掛けた横河橋梁製作所、発注は鉄道省、設計は橋梁技術者として著名で、永代橋、万代橋などを手掛けた田中豊が担当しました。
青い空と水面がいっぱいに広がる隅田川に、今年で喜寿(77年)を迎えた鉄橋はよく似合います。橋のデザインは景観に大きく関わりますが、設計が難しく、それは現在も変わりません。困難を克服した先人たちに畏敬の念を感じるばかりです。
●交通 総武本線 浅草橋駅・両国駅から徒歩約5分
これらアーチ橋は、いずれも1938(昭和13)年に竣工したコンクリート製ですが、建設時は資材不足で、鉄筋が使用されなかったというエピソードが残っています。
●交通 日田彦山線 大行司駅下車
- ※文・写真:斉木実
- ※掲載されているデータは2009年6月現在の情報です。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。