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鉄道遺産を訪ねて vol.12

伝統の開放式寝台

 「豪華寝台特急」などと称され、その設備として個室車両がありますが、一方、ブルートレインの減少などで、従来の開放式寝台が少なくなり、稀少な存在となっています。しかし、日本の寝台車は山陽鉄道のプルマン式寝台車ではじまり、後に豪華な開放式寝台車が製造されました。

 日本では寝台車を個室化せずに、開放式のまま一等寝台車が戦前、戦後を通して製造され、また、昭和40年代には世界初の寝台電車を開放式でデビュー。三段式に始まり広幅の二段式で完成型となったブルートレインも、黄金時代を通し開放式寝台を基本とするなど、日本は、開放式寝台車両を活用させ、乗客たちから最も親しまれてきました。今回は、この伝統の開放式寝台を紹介し、その魅力に迫ってみましょう。

  • 坑門の名称

アメリカの寝台会社が発祥の豪華寝台 プルマン式A寝台

 通路を挟んで二段の寝台が進行方向に設けられたもので、寝台幅を広く取ることができることから、大変ゆったりとした空間が生まれ、進行方向に体を休められる心地のよい寝台車です。

 アメリカ人のジョージ・プルマンによる寝台保有会社プルマン社は、最盛期の19世紀初頭、上質の寝台車をアメリカ全土に1万両以上保有。さらにヨーロッパにもサービスを提供しました。日本にも影響を与えたこのプルマン式寝台車は、プルマン社の数多い寝台車の中でも「セクション」と呼ばれるタイプに相当します(日本にはかつて「セクション」を個室化した「ルーメット」タイプが20系ブルートレインに存在しました)。

 この「セクション」タイプのプルマン式寝台は、戦前の一等寝台車から採用され、開放式寝台の中でも気品と優雅さを誇り、多くの上客に愛用されました。現在では残念ながら寝台の解体が行なわれませんが、昼間は2人掛けのソファになり、これも実に優雅で快適な設備でした。

 現存車両は特急「日本海」のオロネ24形客車です。急行「きたぐに」のサロネ581形電車も同系の仲間になっていますが、こちらは改造車の電車でオリジナルではありません。

 特急「日本海」には赤絨毯が敷かれ、各寝台には鏡付き。夜は室内灯が消され、足下灯が点灯されます。往年の一等寝台の上客になったように、優雅で上質なA寝台の旅を追体験できる貴重な車両です。

●使用列車 特急「日本海」、急行「きたぐに」

特急「日本海」に連結されるオロネ24形の車内。夜間は室内灯を消灯し、A寝台らしい優雅なムードが漂う

オロネ24形の車端部には肘掛け、枕カバーが掛けられたソファのある喫煙室、更衣室がある

ブルートレインでも親しまれる代表的寝台 開放式B寝台

 片側を通路とし、枕木方向に寝台を配置したヨーロッパのコンパートメント個室車両を開放式にしたのが開放式B寝台です。

 このタイプは三段式寝台車として誕生しましたが、後に居住性を向上させるため二段式寝台車が登場。従来の三段式車両も多くが二段式に改造され、現在も開放式寝台の主力として活躍しています。

 コンパートメントが発祥で、その構造上、向かい合わせの寝台同士との親近感が持て、人間的な温かみがあります。ブルートレイン全盛期は、同じ寝台区分で共にした乗客同士が食堂車で祝杯を上げるなど、長旅には親しみと和やかさがいつもありました。

 開放式寝台は文字通り、すべてが開放的でした。狭小な個室とは異なり、構造も天井もゆったりとして音の響きなどもまろやか。心地よさは抜群でリラックスできます。また、通路側には大きな窓がズラリと並び、次々と流れ映る車窓風景を眺める贅沢さはこの列車ならではの格別の味わいです。

 また、プルマン式A寝台同様、日本の寝台車の伝統的な格式があります。同車はブルートレイン、昭和33年誕生の20系寝台車がそのルーツです。防音構造の二重窓ガラス、冷暖房完備、スマートに、丹精込めて造られている専用車両を、じっくり楽しんでみるのもよいでしょう。TR217形という台車の乗り心地も衰え知らずで、夜行列車がいかに快適な乗り物であるかを改めて実感できます。

●使用列車 特急「あけぼの」「北陸」「日本海」「北斗星」「トワイライトエクスプレス」、急行「はまなす」
※「北斗星」「トワイライトエクスプレス」は簡易個室化改造を施した「Bコンパート」車両

向かい合わせの寝台、上段に昇る梯子、「センヌキ」も付いているテーブル……。開放式B寝台は温もりと郷愁感がたっぷり

片側の通路には大きな窓がズラリと並び、眺めは抜群。折畳み腰掛けも備わり車窓をゆっくり観賞できる

上、中、下段の寝台が並ぶ世界初の寝台電車 電車三段式寝台

 通路を挟み、進行方向に三段の寝台が並ぶ寝台車で、プルマン式を基本にしています。この三段寝台は非常に個性的です。この車両(583系電車)の前身、581系電車は昭和42年に世界初の寝台電車としてデビューしました。B寝台はプルマン式ベースの三段で設計され、通路を狭く、下段は寝台幅がゆったりとられ、親子が横に並んでも十分に安眠できる広さが話題となりました。中、上段も、当時のB寝台は寝台幅が52㎝と非常に狭いものでしたが、初めて70㎝幅を採用し好評でした。

 また、この三段寝台は複雑な構造にも関わらず、まるで手品のようにボックス型の座席車に変換できます。回転する荷棚、引き出し式の仕切り板など、芸の細かい日本ならではの巧みな設計がなされています。往時はこの設備をフルに活かし「昼夜兼行」車両として夜は寝台特急、日中は昼行特急で運用され、走り続けました。

 そんな生い立ちを持つ583系電車三段式寝台。高さの面で三段式はさすがに圧迫感を否めませんが、そのほかでは意外なほど快適で楽しい設備です。下段は106cmと開放式A寝台も凌駕するほど広く、窓辺には空間もあります。きちんと頭を起こせるので圧迫感はなく、B寝台の料金でプルマン式の醍醐味が堪能できます。

 長方形の窓を独占し、ブルーに染まる彼の地の移り行く未明の車窓を106cmの寝台で眺めるのは、夜汽車至上の旅情があります。

●使用列車 急行「きたぐに」のほか、急行「わくわく舞浜・東京号」など臨時列車で座席や寝台が体験可能

「中段」も貴重な電車三段式寝台。583系電車も少なく、定期列車で乗車できるのは急行「きたぐに」のみ

電車三段式寝台の下段から眺めた朝の風景。106cm幅の広い寝台で、長方形の窓を独り占めできる

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