トレたび JRグループ協力

2011.05.01鉄道国鉄&JR 列車名研究所 第9回「人物名」の列車たち

―ネーミングの妙と歴史、調べます―

人と同じように列車にもそれぞれ名前がある。ネーミングが“キラリ”と光る列車たち。その名前に込められた想いと、その列車の歩んできた道のりを調べてみました。

第1章 途中で見学停車する、観光普通列車

【いさぶろう・しんぺい】 山縣伊三郎・後藤新平に由来

1996年3月16日、人吉〜吉松間の普通列車1往復に人名から愛称が付けられ、「いさぶろう」「しんぺい」の運転が始まりました。人名の愛称は全国的にもほとんど例がなく、とても珍しい列車となりました。

「いさぶろう」は人吉から吉松へ、「しんぺい」は吉松から人吉に向かう観光列車で、途中の矢岳(やたけ)第一トンネル矢岳側の山縣伊三郎(開通当時の逓信大臣=当時鉄道は逓信省の管轄)揮毫の『天険若夷(てんけんじゃくい)』、吉松側の後藤新平(開通当時の鉄道院総裁)の『引重到遠(いんじゅうちえん)』の扁額に因みます。

車両には、キハ31形を畳敷きにしたものが用意され、人吉〜吉松間の35kmの山線を走ります。山線には標高差430.3mに2ヵ所のスイッチバックと最急30.3‰(パーミル)の勾配、大畑(おこば)駅を途中に組み込んだ半径300mのループ線が待ち受けています。大畑駅などの途中駅では停車時間があり、駅施設を見学でき、また駅間でも途中停車し、乗務員による案内放送が行なわれます。

2004年3月からは車両をグレードアップし、専用のキハ140形に交換しました。専用車両は車体中央部に展望スペースが設けられ、大型窓を連続に配置。車体色は新幹線800系の帯と同色の古代漆色で、室内は難燃木材がふんだんに使用されています。列車は「いさぶろう101号」「しんぺい102号」の臨時列車として設定され、同年2両運転化。翌2005年3月からは定期列車になりました。

2009年7月からはキハ47形を改造して3両運転となり、九州を代表する観光列車として大好評で肥薩線を毎日運行しています。


「いさぶろう」「しんぺい」 大畑駅に見学停車中の「いさぶろう」「しんぺい」。愛称等のエンブレムも誇らしげだ

「いさぶろう」「しんぺい」 「いさぶろう」「しんぺい」の車内。4人掛けボックス席は指定席で中央に展望スペースがある

第2章 短命に終わった前面展望パノラマ特急

【シーボルト】ドイツ人シーボルトに由来

1999年3月13日ダイヤ改正で、佐世保〜長崎間の快速列車「シーサイドライナー」2往復が格上げされるかたちで特急「シーボルト」が誕生しました。愛称の「シーボルト」は長崎市にゆかりが深く、江戸時代に来日し、医者であり日本研究家であったドイツ人のフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトから名付けられました。

車両には久大本線「ゆふいんの森」に使用されていた前面展望パノラマ車両、キハ183系1000番台が改造して投入され、外観は「オランダ村特急」と同様のトリコロール塗装でした。「ゆふいんの森」にはキハ72系が投入されており、捻出されたキハ183系1000番台を有効活用することを目的の一つとして「シーボルト」は設定されました。

運転距離が短いこともあり座席指定は4号車1両のみで、さらに最前部の展望席も自由席扱いで運転され、特急料金も全区間500円の割引料金が適用されました。

しかし、短距離運行では速達効果も薄く、特急を快速列車に戻すことになり、「シーボルト」は2003年3月14日をもって惜しくも廃止されてしまいました。


  特急「シーボルト」 外観 特急「シーボルト」の外観。トリコロール色の車体は「オランダ村特急」時代とほぼ同様

第3章 現役力士名を名乗る、特異な列車

【かいおう】大相撲力士、大関魁皇に由来

2001年10月6日。福北ゆたか線電化開業と同時に誕生したのが直方(のおがた)〜博多間を筑豊本線、篠栗(ささぐり)線、鹿児島本線(福北ゆたか線)経由で運転する特急「かいおう」です。「かいおう」は、沿線の直方市出身の力士である大関魁皇に由来します。人名の愛称はごく僅かな上、現役の力士の名が愛称になるのは大変特異な例です。

特急「かいおう」は鹿児島本線、長崎本線に運転されていた特急「かもめ」の編成の787系電車を使用し、朝に下り1本、夕方上り1本の1往復で運転され、ホームライナーに近い性格の列車としてスタートしました。筑豊本線への特急列車の乗り入れは、昭和60年に経由廃止された寝台特急「あかつき」以来です。

2003年3月15日ダイヤ改正では、編成を同じ787系電車の特急「有明」編成に変更され6両化されます。2005年10月1日には4両編成が再び加わり2往復運転化。後にデラックスグリーン席も設けられるようになります。

さらに本年、2011年3月12日ダイヤ改正では土曜・休日運転の特急「かいおう5号」が設定され便利になり、同年、大相撲史上初となる通算100場所勝ち越しを達成した大関魁皇と共に、特急「かいおう」は現在活躍を続けています。

文・写真:斉木実 写真協力:Kaz-T's blogレインボーライン、裏辺研究所(リン)
※掲載されているデータは2011年5月現在のものです。

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