ホームに降り立つと遠くから船の汽笛が聞こえてきた。明治、大正、昭和の町並みが残ることで知られる門司港周辺だが、駅からしてひと味異なる。大正3年(1914)に建築された木造駅舎の外観は、左右対称のネオ・ルネッサンス様式。淡いピンクの外壁に木枠の縦窓、待合室からトイレまで一貫してレトロ感たっぷりである。駅に降り立った瞬間から、すでにノスタルジックな雰囲気全開といった感じだ。
明治22年(1889)に開港し、国際貿易港として栄えた門司港。駅周辺には往時の栄華を偲ばせる多くの歴史的建造物が建ち並ぶ。例えば、大正10年(1921)に建設された「旧門司三井倶楽部」。三井物産の社交施設として建築され、かの物理学者アインシュタイン博士も宿泊したという。館内を彩るシックな調度品は格調の高さをうかがわせ、まさに漫画の『はいからさんが通る』の世界である。
テーマパークのように整備された港周辺から一変、港を背中に山手の方へ歩くと、昔ながらの商店街散策も楽しめる。脇道に入ると風情あふれる食事処や喫茶店があり、昭和の街角に迷い込んだかのよう。旅の目的だった夜景を見る前に、すっかり門司港の町の虜になってしまった。