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次世代のN700系にバトンタッチし、平成22年2月28日限りで「のぞみ」運用から引退する500系。最高速度300km/hの壁に挑戦した車両の歴史を紹介。
(文=結解喜幸 写真=結解学)

What’s WIN350?

 JR西日本が山陽新幹線の速度向上を目指して平成2年に立ち上げたのが、最高速度350km/hの新幹線車両の開発を軸とした「新幹線高速化プロジェクト」です。当時の新型車両の300系に続く形式として量産車が500系を名乗ることを予定していたため、平成4年4月に完成した6両編成の高速試験電車は500系900番台となりました。そして、車両の愛称として「WIN350」が付けられましたが、これは「West Japan Railway’s Innovation for the operation at 350km/h」を略したもので、JR西日本が350km/hを目指した高速電車開発の意気込みを伝えるものです。
 車両は両端の先頭スタイルが異なる6両編成ですが、これは未知の高速運転における空気抵抗やトンネルの多い山陽区間での微気圧波の影響などを試験するためで、6号車は500系量産車に似たキャノピー形状となっています。当時の最新型の300系の技術をベースとし、風切り音を軽減する翼型パンタグラフや軸箱方式の異なる台車など、高速化試験のための数種類の機器などを装備。博多総合車両所に配置されたWIN350は平成4年6月8日から走行試験が開始され、8月8日には山陽新幹線小郡(現在の新山口)~新下関間で当時の国内最高速度である350.4km/hを記録しました。
 平成7年まで各種試験が繰り返し行なわれて量産車に必要なデータを取得しましたが、その総走行距離は約35万km、総走行試験日数は約430日、試験した課題数は約100項目となっています。なお、役目を終えた車両は500-901(博多寄りの先頭車)が米原駅近くにある鉄道総合技術研究所風洞技術センター、500-906(新大阪寄りの先頭車)は博多総合車両所に保存されています。

鉄道総合技術研究所風洞技術センターに保存・展示される博多寄り先頭車の500-901

500系900番台の運転台。左側の速度計は最高速度400km/hまで設定されている

航空機のような流線型デザイン500系のフォルム

 平成8年1月にWIN350の試験結果を取り入れて500系量産先行車の第1編成(W1)が誕生。500系はトンネル微気圧波対策のために採用されたジェット戦闘機のような先頭車両のフォルムが特徴で、編成全体が航空機のようなイメージとなりました。先頭車両の長さは27mですが、半分以上の15mが先頭のノーズ部分となっており、従来の新幹線車両とは一線を画すものです。高速運転時における空気抵抗を考慮して車体全体も丸みを帯びたものとなり、客室内の形状も航空機のような雰囲気になっています。
 また、運転台には3次元曲面ガラスを使用し、滑らかな形状のキャノピー(航空機の操縦席の風除けの覆い)を作り上げています。キャノピータイプの運転台をもつロングノーズの美しい形状は、餌を捕るために水面を突き破るカワセミのくちばしを思い起こさせるもので、自然界から学んだものが取り入れられています。

300km/hの高速走行を実現した車両性能とパンタグラフ

 高速性能を必要とする500系は全車両が電動車となり、連続定格出力285kWのかご形三相誘導電動機が1両当たり4基搭載されており、総出力は300系の12,000kWに対し、何と500系では18,240kW(第2編成から1基あたり275kWとしたので17,600kW)となっています。出力が大きいことで加速力も優れており、駅を発車してから最高速度300km/hに達するまでの所要時間は約4分です。また、高速運転に必要不可欠な高性能ブレーキおよびセラミックを線路に噴射してブレーキ時の抵抗を増加させるセラミック装置の設置など、安全対策にも重点が置かれています。
 そして、この車両で採用された特徴的な装置が、5・13号車の屋根上にあるパンタグラフ(集電装置)です。従来は菱形を基本としたものでしたが、500系ではT字スタイルの翼型パンタグラフを採用。断面形状が楕円の支柱の上に集電用の舟形を載せたもので、側面にはフクロウの羽からヒントを得た凸凹が付けられています。これにより、高速運転時の騒音のひとつとなるパンタグラフの風切り音が大幅に低減されています。

300km/hの世界を体感できた航空機のような客室

 300系の断面積は11.4㎡ですが、500系では10.2㎡で円形に近いスタイルとなっています。デッキからは客室内に入ると天井空間がやや少なく、窓側では車体形状に伴う狭さを感じますが、列車が走りだして最高速度の300km/hに近づくと高速運転をより一層体感できます。マッハの世界で飛ぶ航空機の座席に座っている感じもしますので、スピード感を味わうには最適な空間となるのかもしれません。
 車内設備は300系とほぼ同様で、8~10号車がグリーン車になっています。外観のスタイルが人気の500系ですが、東海道区間で運転する時に若干の支障が出てしまいました。というのも、先頭車両のノーズ部分が15mもあるため、運転台寄りにデッキ&出入口ドアが設置できず、さらに300・700・N700系では全車両の座席定員が同じであるのに対し、1・16号車では12名少ない53名となっています。中間の車両で定員増を図って編成全体では300系よりも1名多い1,324名を確保していますが、指定席券の席番号の関係でほかの車両と区別する必要があり、運用上での制約がありました。N700系の増備によって500系「のぞみ」が消える要因のひとつにもなりました。

山陽新幹線でデビューした500系の輝かしい足跡

 平成9年3月22日、山陽新幹線新大阪~博多間の「のぞみ503・500号」の定期1往復および「のぞみ509・508号」の臨時1往復で営業運転を開始。新大阪~博多間の所要時間が15分短縮され、2時間17分で結ばれるようになりました。同年11月29日には東京駅への乗り入れが実現し、東京~博多間の3往復の「のぞみ」に運用。同区間の所要時間は4時間49分となり、最高速度300km/hの500系が5時間の壁を破ることになりました。
 また、平成9年6月23日に500系「のぞみ」が「隣接する2停車駅間(広島~小倉間)での平均列車速度261.8km」および「始発駅から終着駅まで(新大阪~博多間)の表定速度242.5km」でギネスブックに認定されました。さらに平成8年の500系登場時に通商産業省の「グッドデザイン商品」の商品デザイン部門に選定されたほか、平成10年9月6日には鉄道友の会の「第41回ブルーリボン賞」を受賞するなど、輝かしいスタートを切っています。
 平成10年10月には500系の三次車となるW7~W9が登場し、10月3日から東京~博多間7往復、新大阪~博多間1往復の計8往復を担当。平成19年7月1日にN700系が運転を開始したのに伴い、同年10月から段階的に500系をN700系に置き換えることになりました。
 平成20年3月15日からは東京~博多間の「のぞみ」2往復のみとなり、現在は1日1往復「のぞみ6号」(博多7:00→東京12:13)と「のぞみ29号」(東京12:30→博多17:44)となっています。

第2の人生を踏み出した山陽新幹線500系「こだま」

 500系の「のぞみ」運用がN700系に置き換えられることになったため、16両編成の500系を8両編成に短縮し、山陽新幹線新大阪~博多間の「こだま」に使用することになりました。平成20年3月28日にW3編成を改造したV3編成が登場しましたが、これはW編成の1・2・3・4・13・10・11・16号車の順に組み替えたものです。全車普通車ですが、6号車はW編成10号車の元グリーン車で、座席の枕とフットレストを撤去して2+2席配置のゆったりとした普通車指定席になりました。
 平成20年12月1日、0系「こだま」の廃止に伴って500系8両編成のV編成が営業運転を開始しました。平成21年9月19日には新大阪寄りの8号車の一部座席を撤去し、こども用の擬似運転台を設置。まずはV6編成、そしてV2編成・V3編成にも設置され、列車に乗りながら500系の擬似運転が楽しめるようになりました。
 現在、V2~V6の5編成が山陽新幹線の「こだま」として活躍しており、500系16両編成の「のぞみ」が消えた後もスピード感にあふれた美しいフォルムで快走。8両編成と短くなってしまいましたが、輝かしい歴史を誇る500系の姿を見ることができるのです。

丸みを帯びたダイナミックで美しい先頭部分のフォルムが魅力的な500系「のぞみ」

シャープな姿が都市空間にもよく似合う500系は山陽路の「こだま」として再出発する

早春の富士山と出会う500系「のぞみ」。真横からだとロングノーズの長さがよくわかる

静岡の茶処・牧ノ原台地を疾走する500系「のぞみ」も今春から見ることができなくなる

新幹線の標準スタイルである2+3席配置の普通車車内。車体形状の丸さがよくわかる

8両編成に短縮されて一部機器の仕様が変更されたが、その美しさを保つ500系「こだま」

一部編成の新大阪寄り8号車の客室内に設置された迫力満点のこども用の擬似運転台

 

写真協力:りんてつ、谷本武弘、裏辺研究所(リン)
※掲載されているデータは平成22年2月現在のものです。

書籍紹介

国鉄型車両コレクション new

  • ●定 価 1,680円(税込)
  • ●仕 様 A4変型判 160ページオールカラー

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