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旅に出たくなる、読む“鉄”分補強剤『野田隆の乗りテツ紀行』 「乗りテツ」は楽しい。窓の外を流れ行く景色の移り変わりを見ているだけでも豊かな気分で満たされる。あまたある路線の中から、変化に富んだオススメの路線をご紹介しよう。

エンジン全開! 「快速みえ」で訪ねる伊勢志摩の旅 名古屋駅⇒鳥羽駅◎関西本線・紀勢本線・参宮線〔JR東海〕

名古屋から伊勢志摩を目指して走る老舗路線。「快速みえ」は、関西本線(名古屋~河原田)、全通50周年の紀勢本線(津~多気)とエンジン全開で駆け抜け、やがて参宮線に入ると海に沿って伊勢市、さらに鳥羽を目指す。

懐かしのディーゼル音を響かせ、豪快に走る

 名古屋駅の東海道・山陽新幹線ホーム。その隣の関西本線ホームから「快速みえ」は出発する。通常は2両編成のディーゼルカーで、うち1両の半分が座席指定席になっている。
 今ではあまり耳にすることがなくなった“船”のようなディーゼル音を響かせて、快速みえは一路、鳥羽へと出発。大きく右へとカーブした列車はあっという間に郊外に出て、地上駅では最低海抜(-0.93m)のところにある弥富駅を過ぎる。弥富は「日本一の金魚の産地」として有名な水郷地帯で、日本にいる金魚約25種類が全て揃うという。
 そんな水郷の町を過ぎると、まもなく列車は大河・木曽川、続いて長良川、揖斐(いび)川の長い鉄橋を豪快に渡ってゆく。エンジン全開で近鉄線と併走するその姿は、まるで運動会の徒競走のよう。思わず「頑張れ! 負けるな!!」と応援したくなる走りっぷりである。名古屋から約20分で最初の停車駅・桑名に到着だ。
“その手は桑名の焼き蛤”の掛け詞で知られるほど、桑名のハマグリは江戸時代からの名物。時間が許せば、ぜひ途中下車して本場の焼きハマグリを楽しんでみたいものだ。

工業地帯・四日市を経て、津・松阪を目指す

 桑名から南下すると、快速みえは石油コンビナートが林立し、貨車が多数たむろする四日市駅を経て、伊勢鉄道経由の近道で県庁所在地・津に到着する。平仮名1字で「つ」と大きく書かれた駅名標がユニークで、思わず見とれてしまう。もちろん「日本一短い駅名」である。津からは2009年で全通50周年の紀勢本線で南下。伊勢平野を快走して松阪を目指す。
 松阪は江戸時代の国学者・本居宣長(もとおりのりなが)の故郷であると共に松阪牛でも有名だ。下車してゆっくり食事をしたいところだが、今日は駅弁で我慢ガマン。松阪駅には「匠の技 松阪牛物語」「黒毛和牛モー太郎弁当」、「元祖特撰牛肉弁当」など牛肉駅弁が多彩だから、十分楽しめる。
 松阪を出て櫛田川を渡ると多気(たき)駅。ここで紀勢本線と別れ、ゆるやかに左へとカーブしながらいよいよ参宮線に入る。地名以外の名称がついた路線名は全国的にも珍しい。「参宮」とはもちろん「お伊勢参り」のことで、明治44年(1911)に全通した由緒ある老舗路線である。

伊勢、二見浦。シーサイドを快走して鳥羽へ

 なだらかな山中を縫うように走り、外城田(ときだ)川沿いの田園地帯を通って宮川(みやがわ)橋梁を渡ると伊勢市駅に到着だ。
 伊勢市は伊勢神宮外宮(げくう)の門前町として栄えた町。駅から400mほど歩けば外宮に到着する。平成25年の式年遷宮に向けて様々な祭事や行事が行なわれているので、時間があればぜひお参りしたい。
 伊勢市駅を出ると、山麓を迂回する近鉄線と分かれ、列車は二見浦(ふたみのうら)駅に向かう。初日の出の夫婦岩で有名な二見浦は、駅舎も夫婦岩をモチーフにしている。
 かつては東京や関西から直通列車も運転されていたため長いホームが今なお残り、往時の盛り上がりを静かに語っている。「SL列車に乗ってやってきたかった……」。それも今では叶わぬ夢か。
 松下駅を過ぎ、左へ大きくカーブすると列車は海岸へと躍り出る。前方に広がるのは「池の浦」と呼ばれる静かな入江。夏には臨時の池の浦シーサイド駅がオープンし、海水浴客の歓声で賑わう。
 列車は複雑なリアス式海岸に沿って走り、海苔養殖のいかだやヨットなどの船溜まりを見ながら海を渡れば、終着駅・鳥羽に到着。約1時間50分の快速みえの旅は終わりだ。
 海洋観光都市・鳥羽の海岸に出ると、潮風と海の匂いが実に心地よい。明るい日差を全身で受けて、開放感一杯になった。

名古屋駅で出発を前にアイドリング中の「快速みえ」。通常は2両編成の気動車で運行

快速みえは先頭車両の前半分が座席指定席。近郊形車両なので指定席と自由席に仕切りの扉がない

近鉄と並走しながら、木曽川・長良川・揖斐川の3つの大河を一気に渡って三重に入る

最初の停車駅・桑名と言えば「その手は桑名の焼き蛤」。天然のハマグリは大変貴重な逸品!

国鉄時代にはSLもたむろしていた伊勢市駅。今では明るい塗色の車両が行き来するが、昔ながらの風情は健在

参宮線の名の由来となった伊勢神宮参拝は必須だ。駅から徒歩圏内の外宮だけでもお参りしたい

鳥羽手前で列車は海沿いを快走する。池の浦シーサイド~鳥羽駅間が、車窓のハイライトだ

鳥羽駅は近鉄の駅と並んでいる。静かで広々した佇まいは風格を感じさせる終着駅だ

ナビゲーター 野田 隆
幼少時の名古屋で、中央西線のデゴイチの汽笛を子守唄に育って以来、テツ歴半世紀の旅行作家。『貯本日本』(新刊)『乗りテツ大全』『テツはこう乗る』などの著作で、日本をはじめ、ヨーロッパなど内外の鉄道の「乗りテツ」の楽しみを語る。
日本旅行作家協会理事。
【野田 隆のホームページ】
http://homepage3.nifty.com/nodatch/

関西本線・紀勢本線・参宮線 乗りテツ路線図 ★プリントアウトして、踏破した駅を塗りつぶそう!

路線data

名古屋駅~鳥羽駅(伊勢鉄道経由)122.5km/駅数30(JRのみ。臨時駅を除く)/名古屋駅~河原田駅のみ電化/関西本線=明治32年5月21日全通、紀勢本線=昭和34年7月15日全通、参宮線=明治44年7月21日全通
◎名古屋~鳥羽駅間を約1時間50分で結ぶ「快速みえ」。関西本線、紀勢本線、参宮線の3路線を経由し、途中、河原田~津駅間は伊勢鉄道を経由する。平成2年に運行を開始。東海道・山陽新幹線との接続もある。

耳より情報

JR東海オリジナル「紀勢本線沿線マップ」配布中!

JR東海では「紀勢本線沿線マップ」を作成し、現在、JR東海の主要駅などで配布中です。A4判計6ページのマップには、沿線の見所や味覚をはじめ、世界遺産認定5周年を迎える「熊野古道」の情報も掲載されています。“乗りテツ”のお供に、早めにゲット!
※他にも、東海道線、中央線、身延線、高山本線、飯田線の沿線マップも配布中です。

写真協力:三重県観光連盟
※掲載されているデータは平成21年6月現在のものです。

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