『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。

この夏、「青春18きっぷ」で旅せよオトナ。あの観光列車に乗りに行こう!
1日目AM
1.「SL人吉」の蒸気機関車は、大正11年(1922)製造。かつては長崎本線などで活躍した。
2.新鳥栖駅で味わえるかしわうどん350円。シンプルな一杯だが、甘辛く炊いた鶏肉がいい仕事してます!
3.創業100年余の「しらいし」のうな重(松)3570円。焼き置きは一切せず、注文後に生から炭火で焼く。
「SL人吉」
白木、メープルウッドを使った展望ラウンジ(1号車)や高級感を醸すローズウッドに包まれたサロン展望室(3号車)、ビュッフェ(2号車)など車内設備も充実。
・運転区間:鹿児島本線熊本駅~肥薩線人吉駅
・詳細:JR九州「SL人吉」
うなぎ料理専門店「しらいし」
・営業時間:11:00~14:30・17:00~20:30、不定休
・アクセス:肥薩線人吉駅下車、徒歩10分
・営業時間:10:00~15:00・17:00~21:00、不定休
・アクセス:肥薩線人吉駅下車、徒歩10分
博多発、ローカル食満載の
ぐるっと南九州。
(1泊2日)

 「青春18きっぷ」を利用するオトナ旅、今回は平成28年熊本地震の復興から立ち上がる九州が旅の主役。朝7時に博多駅を鹿児島本線で出発し、鳥栖(とす)駅で乗り換え。新鳥栖駅まで普通列車で向かったら、新幹線への乗り換え時間を使って朝食を。在来線ホームにある「中央軒」は、昭和31年に鳥栖駅で九州初の立ち食いうどんをはじめたお店。名物の「かしわうどん」をズズッとやれば、上品な薄味のつゆと甘辛く煮た鶏の風味が口中にしみわたり、夏なのに、つい飲み干してしまう旨さ。

 新鳥栖駅から熊本駅までは、8時55分発の九州新幹線「つばめ315号」でショートカット。ここからは再び「青春18きっぷ」を利用する。9時45分発のD&S(デザイン&ストーリー)列車「SL人吉(ひとよし)」に乗ると、ローカル線の風情がググッと色濃くなっていく。八代(やつしろ)駅から先は「川線」の愛称でも知られている、球磨川(くまがわ)を車窓から望めて涼しげだ。エメラルドグリーンの川沿いを、煙を吐いて進むSLに揺られていると、SL製造時の大正時代の旅人と同じ風景を眺め、同じ列車の音を聞いているかのように錯覚してしまう。

 瀬戸石(せといし)駅を過ぎたあたりで真っ赤な「第一球磨川橋梁」を渡り、一勝地(いっしょうち)駅へ。停車時間を利用してホームで販売される特産品のゆずようかんなどを物色しつつ、SLは人吉駅へと向かう。

 球磨川で川魚が獲れる人吉は、うなぎの名店が多く、特にうなぎ料理専門店「しらいし」や「上村うなぎ屋」が有名。お昼に炭火でふっくらと焼いたうな重を頬張り、夏旅で消耗した体力をがっつりチャージ!

1日目PM
1.肥薩線を走る「いさぶろう・しんぺい」。明治時代に「天下の難所」といわれた人吉駅~吉松駅間の山間部に鉄道を敷いた当時の逓信大臣と鉄道院総裁にちなんで名付けられた。
2.肥薩線矢岳駅~真幸駅間の車窓は、長野の篠ノ井線、北海道の旧根室本線と並ぶ日本三大車窓のひとつ。快晴時は霧島連山や桜島を見渡せる。
3.砂の重さと温泉効果で、体中の老廃物デトックス効果が期待できる砂むし風呂。写真は指宿白水館の砂むし風呂で、解放感溢れる露天風呂も自慢。
「いさぶろう・しんぺい」
吉松行きの下り列車は「いさぶろう」、人吉行きの上り列車は「しんぺい」という列車名で運行。肥薩線は通称・山線とも呼ばれ、急勾配を避けて旋回するループ線や、前進・後退しながら坂を上るスイッチバックが魅力!
・運転日:毎日
・運転区間:肥薩線熊本駅~吉松駅
・詳細JR九州「いさぶろう・しんぺい」
・営業時間:8:30~20:30、無休
・アクセス:指宿枕崎線指宿駅下車、タクシー10分
・料金:1万6350円~
・アクセス:指宿枕崎線指宿駅下車、タクシー10分

 午後からも「青春18きっぷ」を利用して、乗り鉄にはたまらない観光列車のはしご旅! 人吉駅13時22分発のクラシカルなディーゼル列車「いさぶろう3号」指定席に乗車。車内では木のぬくもり溢れるボックスシートや、天井近くまで窓が切り取られた展望スペースで、車窓風景を楽しもう。

 列車は人吉駅~吉松駅間の標高差約430メートルを上るため、2カ所のスイッチバックと半径300メートルのループ線が併用された珍しい区間を走る。とくに大畑(おこば)駅出発直後のスイッチバックに続くループ線は、ほかの路線ではなかなか体験できない列車の動きと、標高が上がるにつれ広がる景色、そして先人たちの鉄道建設技術に大感動。眼下に見える矢岳(やたけ)駅を過ぎ、「矢岳第一トンネル」を過ぎると、晴れた日にはえびの盆地越しに霧島連山を望める「日本三大車窓」の景色が待っている。

 真幸(まさき)駅でもう一度スイッチバックし、列車が吉松駅に着いたら、「いさぶろう3号」とはここでお別れ。ここから鹿児島中央駅までは「青春18きっぷ」を使わずにショートカット!15時1分発の特急「はやとの風3号」に乗れば、17時12分発指宿枕崎(いぶすきまくらざき)線下り列車に間に合い、18時23分に指宿駅に到着する。

 今晩宿泊する指宿温泉で、ぜひ体験したいのが砂むし風呂。20時30分まで受付する砂むし会館「砂楽」で楽しむのもいいし、指宿白水館に泊まって、館内で砂むし風呂を体験するのもいい。温かい砂の上に寝転んで砂をかけてもらえば、体の芯までぽかぽかに。血液循環と体内の老廃物デトックス効果が期待でき、今夜はぐっすり眠れそうだ!

2日目AM
1.北緯31度11分に位置するJR日本最南端の駅、西大山駅。東方にそびえる開聞岳は標高924メートル。
2.「かいもん市場 久太郎」のマンゴージェラート400円。涼をとるのに最高!
3.出発15分前から整理券が配布され、先着30人程度が乗車できる「かごでん」(座席数は23席)。鹿児島中央駅前から天文館通、騎射場などをめぐり、鹿児島中央駅前まで約70分で運行。
指宿枕崎線(いぶすきまくらざきせん)
JRグループで最南端の路線。車窓のハイライトは、鹿児島湾(平川駅~宮ケ浜駅間)と開聞岳(山川駅~西大山駅間)。水戸岡鋭治氏デザインのD&S(デザイン&ストーリー)列車「指宿のたまて箱」も1日3往復運行。
・運転日:毎日
・運転区間:指宿枕崎線鹿児島中央駅~枕崎駅
・営業時間:8:00~18:00(11~3月は~17:00)、無休
・アクセス:指宿枕崎線西大山駅下車すぐ

 指宿まで来たら、やはりJR最南端の駅をめざしたい。ということで指宿駅から、指宿枕崎線の下り列車7時21分発に乗車して、西大山駅へと向かう。コトコト揺られていると、西大山駅のさらに向こうに円錐の山容が美しい開聞岳(かいもんだけ)が! 駅のホームに降り立つと、そこには「JR日本最南端の駅」の碑。博多からはるばるやって来たという万感の想いがこみ上げる。駅前には「幸せを届ける黄色いポスト」と銘打たれた丸型ポストがあり、ここから恋人や家族へ手紙を出す人もいるとか。

 駅前で立ち寄りたいのが「かいもん市場 久太郎」。指宿マンゴーを使ったジェラートやプリンなどの加工品、地元さつま漬などを扱う地産品の直売所で、みやげ品選びにもってこいだ。

 9時2分発の指宿枕崎線上り列車で折り返し、鹿児島中央駅に着いたら、ぜひ乗車したいのが鹿児島市電運行100周年を記念して造られた観光レトロ電車「かごでん」。金曜・休前日・夏休み期間(水曜除く)は10時発の1日1便だが、土・日曜・祝日は10時・11時10分発の1日2便なので、今回の行程でも乗車できる。昭和30年代まで運転されていた木製電車をモチーフとした懐かしの路面電車で市街をめぐり、鹿児島ラーメンや氷菓の「白くま」など地元の味を堪能したい。

2日目PM
1.東シナ海や八代海などの雄大な海景色もごちそうのおれんじ食堂。1号車には海側向きのカウンター席も。
2.水俣の「湯の鶴迎賓館 鶴の屋」料理長が手掛ける「おれんじ食堂」夕食の一例。飲食付きパッケージプランは4日前までに要予約。
3.田之湯温泉は朝6時から営業開始で、銭湯のように地元の人も利用。つるつるとした肌ざわりの湯だ。
肥薩おれんじ鉄道「おれんじ食堂」
水戸岡鋭治氏デザインの車両に揺られ、九州西海岸沿線の食材で彩られた料理を堪能できる。14時52分発の3便では、車内で地元アーティストの生演奏が聴けることも。
・運転日:金・土曜・休日
・運転区間:肥薩おれんじ鉄道新八代駅~川内駅(1・4便は新八代駅~出水駅、4便のおれんじBARは金曜のみ運転)
※運転区間・サービス内容は変更となる場合があります。
・詳細:肥薩おれんじ鉄道
・営業時間:6:00~22:00、第2火曜休
・入浴料:150円
・アクセス:鹿児島本線湯之元駅下車、徒歩7分
・営業時間:8:00~19:00
・アクセス:九州新幹線新八代駅下車、徒歩5分

 鹿児島中央駅に戻ったら、人気の駅弁を物色しつつ、再び「青春18きっぷ」で鹿児島本線の下り列車12時29分発に乗車。30分ほどで湯之元(ゆのもと)駅に着いたら、途中下車してレトロな田之湯温泉へ。小さな日帰り入浴施設ながら、単純硫黄泉の源泉かけ流しの湯を湯浴(あ)みできるとあり、地元の常連さんも多い。「注ぐ湯量で温度調整しています。熱いと透明、ちょっとぬるいと緑色がかり、もっとぬるくなると白濁する不思議な湯なんですよ」と話す管理人の秋嶺(あきみね)健さんとの会話も楽しい。

 湯上がり後、川内(せんだい)駅まで北上したら、この旅もいよいよクライマックス。かねてから飲食付きパッケージプランを予約しておいた14時52分発の肥薩おれんじ鉄道の観光列車「おれんじ食堂」3便(クルージングディナー)に乗り込もう。こちらは、平成25年に運転開始された日本初の本格的な食堂列車。車窓に広がる海景色を眺めながら、沿線のレストランや宿が手掛ける、地産食材たっぷりの料理を味わえるのが魅力。途中、薩摩高城(さつまたき)駅などでは、「駅マルシェ」と銘打たれた特産品のふるまいや販売も行なわれており、地元の人々との交流もまた楽しい(開催駅は便によって変動)。

 海を眺めながら、近海で獲れた海の幸を肴に地酒をいただくというすばらしい旅も、新八代(しんやつしろ)駅で終了。まだ18時半過ぎなので、ここからは「青春18きっぷ」を使って普通列車で博多駅へ帰るのもいいが、そこはやはりオトナの18きっぷ旅。新八代駅前の「八代よかとこ物産館」で地元のつまみ、駅の売店で焼酎を買い、九州新幹線で呑み鉄第2ラウンドへと向かうのはいかがだろうか。

文/鈴木健太
写真協力/肥薩おれんじ鉄道、各掲載施設
※掲載されているアクセスは平成28年8月現在のものです。
※列車の運転日・運転区間等は変更となる場合があります。お出かけ前に『JR時刻表』などでご確認ください。
 また観光列車に乗車の際は、事前にみどりの窓口などで指定席券をお求めになることをおすすめします。

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