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『鉄道写真家・南正時が案内する ローカル線de昭和レトロ旅』平成の世になり早21年。「昭和」という言葉が郷愁を帯びた響きになってきました。激動の時代ではありましたが、一方で熱きパワーみなぎるよき時代でもありました。鉄道写真家・南正時さんが、そんな昭和の面影を探して今日も旅に出かけます。(写真・文=南 正時)

第四回 米子駅“霊番線”からはじまる妖怪列車旅(境線 境港駅◆鳥取県境港市)

サバ、アジ、カニなど美味しい魚が揚がる町として知られる鳥取県境港市。近年は、“妖怪タウン”としても人気を集めている。米子駅からディーゼルカーに乗ること約50分。過ぎ行く駅には、妖怪の名前がつけられ、終着の境港では昭和の妖怪たちが待っていた!

昭和の旅人・南 正時

1946年福井県武生市生まれ。鉄道写真家、旅エッセイスト。
鉄道写真を撮り、旅を続けて40年以上。『JR全路線』『昭和の鉄道風景』『寅さんが愛した鉄道』など鉄道書のほかに、全国の名水を訪ねた『ご利益のある名水』など著書多数。ラジオ、テレビの旅番組、コメンテーターとして出演も多い。日本旅行記者クラブ会員。

【南正時のホームページ】
http://homepage2.nifty.com/masatoki/

南正時のショーワ!な1枚「子供は鉄道が大好き。その鉄道にヒーローが描かれていたらたまらない。妖怪列車を見ていた子は、50年以上前の私そのものだった」(境港駅にて)

鬼太郎ファミリーが描かれた昭和の名車・キハ40系

 JR境線は鳥取県第2の都市・米子と日本有数の漁獲水揚量を誇る境港を結ぶ17.9kmのローカル線だ。美保湾と中海に挟まれた幅約4kmの砂洲のほぼ中央を線路が延びている。沿線は平坦で車窓の変化は乏しいけれど、この路線には老若男女の心を鷲づかみにしてしまう魅力がある。漫画『ゲゲゲの鬼太郎』に登場する鬼太郎ファミリーをペインティングしたディーゼルカー「妖怪列車」が単行で運転されているのだ。

 山陰本線や伯備線など鉄道の拠点となる米子駅。その0番線が境線の乗り場だ。“霊番線”に「妖怪列車」が発着するというストーリで、妖怪の町への冒険がすでに駅から始まっている。

 休日ともなると、列車も駅も子供からお年寄りまでいっぱい。目をキョロキョロさせながら、みんな妖怪たちを探している。おなじみのキヨスクまで鬼太郎仕様になっていて、鬼太郎グッズから山陰の特産品まで販売中だ。境線は、“昭和の妖怪”が集う妖怪テーマパークへ誘うタイムマシンのようでもある。

 妖怪たちが描かれた昭和の名車・キハ40系のラッピングトレインは子供たちに大受けだ。車内では、天井から壁までいっぱいに描かれた鬼太郎ファミリーが乗客を迎えてくれる。さらに、沿線の各駅には全国に語り継がれる妖怪の名前が愛称としてつけられている。米子駅は「ねずみ男駅」、大篠津町駅は「砂かけばばあ駅」、境港駅は「鬼太郎駅」といった具合。だから、妖怪道中は退屈することがない。

 境港駅は頭端(行き止まり)式の旅情漂う終着駅で、灯台のシンボルタワーが建ち、駅前には鬼太郎ファミリーと作者・水木しげるさんのブロンズ像がある。また、至る所に妖怪たちのブロンズ像が立っていて、駅前通りの「水木しげるロード」はさながら妖怪の棲み家のようだ。

 全国の商店街や駅前通りがシャッター通りに変わっている中で、境港の商店街は鬼太郎効果もあり、「ゲゲゲ」と驚くほど元気に活性化している。

 境港でぜひ立ち寄りたいのが「水木しげる記念館」。水木少年を妖怪の世界に誘った「のんのんばあ」が、水木少年に妖怪の話をする光景が表現されていて興味深い。

 水木しげるロードには、昭和レトロな商店が今なお息づいている。妖怪たちが居座るその街は、鬼太郎世代(昭和世代)に不思議と居心地の良さを感じさせてくれた。“昭和の妖怪”たちも、さぞかし暮らしやすいに違いない。

インフォメーション

マップ

アクセス
境港へは、岡山駅から伯備線特急で約2時間10分の米子駅で境線に乗換えて約50分の境港駅下車
主な昭和スポット
水木しげる記念館⇒境港駅から徒歩約10分
観光の問合せ
境港市観光協会 TEL.0859-47-0121
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終着駅ムードの境港駅。1面2線の頭端式ホームには山陰本線からの直通列車も到着する

境線を走る妖怪列車は「鬼太郎列車」「ねずみ男列車」「ねこ娘列車」「目玉おやじ列車」の4パターン

今では珍しい扇風機付きの懐かしい車内。天井にまで描かれた鬼太郎ファミリーが妖怪ワールドに誘う

境港駅舎は港町らしく灯台をイメージ。駅前には30~40代の頃の水木氏をモチーフにしたブロンズ像も

駅から延びる「水木しげるロード」沿いには昭和の面影を残す商店が健在。沿道には約130体ものブロンズ像が立つ

南正時の昭和☆みにこらむ

鬼太郎のルーツは……!?

 今やすっかりアイドル化した妖怪「ゲゲゲの鬼太郎」は、まだ貸本屋があった昭和34年頃、漫画誌『妖奇伝』で『幽霊一家・墓場鬼太郎』というタイトルで登場した。当時の鬼太郎は今のように可愛いキャラクターではなく、おどろおどろしくグロテスクな怪奇キャラだった。私は子供心に怖いもの見たさで貸本屋の『墓場鬼太郎』を見たものだった。

 昭和40年からは『週刊少年マガジン』で連載が始まり、アニメとしてテレビ放送が決まったとき「墓場」は不適当として「ゲゲゲ」となった。現在のような愛らしいキャラクターはこのとき誕生した。

誕生当初はグロテスクな怪奇キャラだった「ゲゲゲの鬼太郎」も今ではアイドル

イラスト:素材ダス

*掲載されているデータは平成21年7月現在のものです。
*写真の妖怪列車は「旧 鬼太郎列車」です。

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