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車窓で旅する日本列島:肥薩線

地図

路線図

九州随一の車窓風景を堪能する

 九州エリアの車窓の旅は肥薩線から始まる。その肥薩線の八代駅~吉松駅間は、吉都(きっと)線とともに「えびの高原線」の愛称が付けられているが、球磨(くま)川の清流に沿って走る八代駅~人吉駅間は、以前から「川線」とも呼ばれ、親しまれていた。肥薩線の旅の前半は、この川線で今年から運転を開始した「SL人吉」に揺られ、相良(さがら)藩2万2000石の城下町・人吉に向かおう。

 八代駅を発車してしばらく進むと、もう車窓右に球磨川が現れる。球磨川に架かる九州新幹線の橋梁を見ながら進めば坂本駅。鎌瀬駅を発車して第1球磨川橋梁を渡ると、川の流れは車窓左に移る。瀬戸石駅の先では瀬戸石ダムが見えてくる。球磨川の水を満々とたたえ、緑豊かな山々に囲まれた風景が、車窓を彩る。 「SL人吉」の客車には展望ラウンジもあるので、流れ去る景色をゆっくりと眺められる。

 このあたりから、球磨川はそれまでの静かな流れから徐々に急な流れになり、岩場も多くなってくる。球泉洞への吊橋が見えてくれば球泉洞駅。近くには「くま川下り」の船着場もある。球泉洞駅を発車すれば、48もの瀬があるという球磨川の激流が眼下に。川下りの舟や、ゴムボートで急流を下るラフティングを楽しむ人たちの姿が、車窓からも見られることだろう。次の駅は一勝地駅。縁起の良い駅名が人気とか。

 那良口駅~渡駅間の第2球磨川橋梁でふたたび川を渡ると、列車はやがて人吉盆地へ。穏やかな川面の球磨川と、奔流となって波しぶきを上げる球磨川。ふたつの風景に思いをめぐらせていると、列車はほどなくして人吉駅に到着する。

 ループ線を走る観光列車に乗って  人吉駅~吉松駅間の開業は、今から約100年前の明治42年(1909)。わずか35kmのこの区間には、急勾配を克服するために21カ所のトンネルと、ループ線やスイッチバックがあり、沿線の各駅は往時の面影を色濃く残している。それはまるで生きた鉄道博物館、現役の産業遺産のようでもある。観光列車の「いさぶろう」に乗って、肥薩線の歴史をたどってみたい。

 人吉駅を発車してしばらくすると、くま川鉄道のレールが車窓左に去り、列車は右に大きくカーブして南進、すぐに球磨川を渡る。いよいよ山岳鉄道の旅の始まりだ。力強いディーゼル音を響かせてグングン上っていくと、車内のアナウンスがループ線の始まりを告げる。5つのトンネルを抜けると大畑駅。この列車は、途中の各駅でしばらく停車するので、ホームに降りて構内を見学するのもいいだろう。

 スイッチバックで折り返して、列車はさらにループ線を上る。車窓右後方には人吉盆地が眼下に広がり、カーブの向きが変わると、今度は左後方に大畑駅のスイッチバックが望める。ループ線が終わっても急勾配はまだつづき、ようやくサミットの矢岳駅に到着する。

 矢岳駅を発車して矢岳第1トンネルを出ると、壮大な風景が現れる。えびの盆地と霧島連山を見渡す、日本三大車窓の眺めだ。峠を下って行けば、再びスイッチバックの真幸駅。急勾配を走り抜けて熊本県から鹿児島県に入り、列車は吉松駅に到着する。

 吉松駅からは特急「はやとの風」の旅だ。盆地も束の間で、栗野駅からは再び山間部に入り、車窓左に栗野岳を見ながらアップダウンを繰り返して大隅横川駅に到着する。霧島温泉駅は霧島温泉郷の下車駅。次の嘉例川駅は、県内に現存する最古の木造駅舎。さらにアップダウンを繰り返しながら山を下り、日当山駅を過ぎ、錦江(きんこう)湾を車窓左に見ながら隼人駅に到着する。

「SL人吉」の列車後方に位置する開放的な展望ラウンジ。滔々と流れる球磨川を心ゆくまで眺めることができる。

球磨川に臨んで建つ一勝地駅。勝負事などに縁起のよい入場券は人吉駅で販売している

球磨川に沿って走るキハ185系ディーゼルカー。吉尾駅~白石駅

大畑駅は日本で最初のスイッチバック駅。しかもループ線の途中にある。画面には写っていないが、右の木立の先にホームと駅舎がある

全長2096mの矢岳第1トンネルの人吉側の坑口。上部には山縣伊三郎の「天険若夷」(テンケンイノゴトシ)の石額が、吉松側の坑口には後藤新平の「引重致遠」(オモキヲヒキイテトオキニチス)の石額がある

吉松駅で「いさぶろう」の到着を待って発車する特急「はやとの風」

漆黒の車体が異彩を放つ特急「はやとの風」。車体の中央には天窓を備えた展望スペースがある。鹿児島中央駅~吉松駅間を1日2往復の運転。吉松駅~栗野駅

肥薩線

 鹿児島本線八代駅から分かれ、人吉駅、吉松駅を経て、日豊本線隼人駅に至る営業キロ124.2kmの非電化・単線の路線。明治36年(1903)9月に、国分駅(現・隼人駅)~吉松駅間が開通、同41年11月には八代駅~人吉駅間が開通した。最後に残った人吉駅~吉松駅間は、急勾配を緩和するためにループ線などを設け、翌42年11月に開通した。当時は、このルートが門司駅(現・門司港駅)~鹿児島駅を結ぶ鹿児島本線だった。その後、昭和2年(1927)10月に川内(せんだい)駅を経由するルートが開通し、肥薩線となった。

 九州の基幹路線からローカル線に転じた肥薩線だったが、平成16年3月の九州新幹線開業を機に、南九州の観光ルートを形成する路線として、大きな変貌を遂げた。八代駅~人吉駅間には、別府駅・熊本駅から直通する特急「九州横断特急」「くまがわ」が運転を開始。隼人駅~吉松駅間には、鹿児島中央駅から直通する特急「はやとの風」が運転を開始した。さらに、人吉駅~吉松駅間にも、観光列車の「いさぶろう」「しんぺい」が運転されている。さらに、平成21年4月からは、熊本駅~八代駅~人吉駅間に「SL人吉」が運転を開始。肥薩線の列車の旅が、一段と楽しいものになった。

嘉例川駅に停車する特急「はやとの風」



※掲載されているデータは平成21年11月現在のものです。詳しい運転時刻については『JR時刻表』をご確認ください。

次回は、「釧網本線」(予定)です。

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