『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
東京駅から新幹線に乗ること約2時間30分。山形県南部に位置する赤湯駅に降りたつと、駅構内の天井には3機のハンググライダーが飾られていた。謎のデコレーションに「???」。
駅からはタクシーで5分ほどの町の中心地をめざす。赤湯は、羽州街道の宿場として栄えた町で、開湯900年以上の歴史を誇る温泉地である。そのため現在も、商店や食事処は、駅周りよりも温泉旅館が立ち並ぶ界隈に集中している。まずは、共同浴場でひと風呂、空きっ腹にワインとならぬよう腹ごなし。
町に4軒あるワイナリーは、徒歩圏内に3軒、温泉町の中心地から2kmほどのところに1軒。いずれも家族経営の気取らずあったか~い雰囲気で来訪客をもてなしてくれる。
まずは、東北最古のワイナリー「酒井ワイナリー」へ向かった。「よくござったねぇ~」。お母さんの満面の笑みに、とたんに心がほぐれてしまう。五代目・酒井一平さんが、ご好意でブドウ畑へと案内してくれた(注:実際のワイナリー見学では畑の案内は含まれません)。車を走らせ、急斜面の坂をぐんぐん上っていく。高台にある畑からは米沢盆地が一望でき、心地よい風が抜けていく。畑のある鳥上坂(とりあげざか)という地名は、“鳥さえ上れないほどの急勾配”という意味から名付けられたのだという。
「傾斜が急なため日照量が多く、良質のブドウが育つんです。年間を通して風通しがいいから、害虫もつきにくい。ハンググライダーの世界選手権も開催された場所なんですよ」 ああ、それで! 駅に飾られたハンググライダーの謎が解決した。
酒井ワイナリーでは、環境にやさしいブドウ栽培を行うべく、除草剤を使わない。そのために取り入れたのが「アレです」。一平さんの指差す先を見ると、モコモコと動くものが……。そう、この畑では不乱に草を食む羊4頭が、“除草隊”として大活躍中なのだ。低い位置にあるブドウの葉と実もかまわず食べてしまうのが、タマにキズなのだけれど。
次に、ブドウ園を併設する「須藤ぶどう酒工場」へ。こちらでは、須藤家のお父さんである社長の指導のもと、自分で収穫したブドウでワインを仕込み、オリジナルのラベル作成をする、ワイン仕込み体験3150円にトライしてみるのもいい。
日が傾いてきたら、早めに旅館に入って、のんびり疲れを癒したい。「赤湯元湯」も朝6時からの営業だから、足をのばして朝湯でシャッキリ体を起こすのも手である。
翌日は、隣駅にある「高畠ワイナリー」へ。大規模なワイナリーなだけに、“試飲天国”とでもいえそうな試飲ブースの充実ぶりには圧巻! 入り口で小さなグラスを受け取り、常時7種ほどのワインを気負わずに試せる。土づくりから手をかけたワインの味わいに、国産ワインの見方も大きく変わるに違いない。
「まだまだ飲みたい!」という方は、これぞの1本とともに、売店で売っている保冷剤付きの保冷バックを購入してみてはどうだろう。帰りの新幹線で、駅弁とともにキンと冷えた一本を楽しめるのだ。
東京に到着する瞬間まで、ワイナリーめぐりの醍醐味を満喫。思わず、新幹線を降りるのが惜しくなってしまう。
1日目 | 発着駅 | 時間 | メモ |
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東京発 | 8:08 | 山形新幹線つばさ105号 | |
赤湯着 | 10:38 | まずは「元湯共同浴場」などの共同湯でひと風呂、ランチのあとに赤湯のワイナリー見学へ。ほろ酔い気分で旅館へチェックイン。 | |
2日目 | 朝はのんびりチェックアウト、赤湯のワイナリー見学へ。温泉街散策では、「烏帽子山公園」や飲泉も楽しみたい。 | ||
赤湯発 | 13:29 | 山形新幹線つばさ116号 | |
高畠着 | 13:34 | 「高畠ワイナリー」の後、余力があれば駅直結の温泉「太陽館」で汗を流そう。 | |
高畠発 | 15:54 | 奥羽本線 | |
米沢着 | 16:03 | 駅構内でワインに合う駅弁をゲット。あらかじめ新幹線の座席に届けてもらえるサービスを活用すればのんびりできる。 |
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米沢発 | 16:31 | 山形新幹線つばさ122号 | |
上野着 | 18:42 | ||
東京着 | 18:48 |
取材・文・写真=沼 由美子
※掲載されているデータは平成22年10月現在のものです。