これまで鉄道をテーマにした映画といえば、鉄道員のドラマ仕立てによるものがほとんどだったが、この『僕達急行 A列車で行こう』は、いわゆる「鉄チャン」の側から見た映画。世は鉄道ブームといわれるが、私の知る限りおそらく最初の「鉄チャン映画」ではなかろうか。森田芳光監督も熱心な“鉄チャン”と聞くが、さすがに今風の「鉄道ファン」の心情を心憎いまでに描き、鉄チャン歴50年近い私もしてやったりと見終わって拍手をしたものである。
それは登場人物の名前がすべて列車名にちなむもので「天城」「筑後」など、私の年代の「鉄」には懐かしい列車名の人物設定も、ほぼ同年代の森田監督の鉄道こだわりが感じられて嬉しくなる。さらに、笹野高史と、伊東ゆかりとの「小指の思い出」の初恋シーンは、今の若い「鉄」には判るまい。判る人だけが判る「大人の恋」である。
映画の冒頭、相馬あずさ(貫地谷しほり)がバーで鯖江のめがね会社に出張した、と小町圭(松山ケンイチ)に話す場面で、小町がすかさず「食パン電車が走る」と反応する。マニア必見の数多い車両が登場する中で「食パン電車」をぜひ見てみたい気持ちになる。ということでこれが映画では登場しなかった「食パン電車」である。ジャーン!!
- 1946年福井県武生市生まれ。鉄道写真家、旅エッセイスト。鉄道写真を撮り、旅を続けて40年以上。『JR全路線』『昭和の鉄道風景』『寅さんが愛した鉄道』など鉄道書のほかに、全国の名水を訪ねた『ご利益のある名水』など著書多数。ラジオ、テレビの旅番組、コメンテーターとして出演も多い。日本旅行記者クラブ会員。
オフィシャルサイト「南正時のRailways」
『トレたび』のコンテンツでは、「鉄道写真家・南正時が案内する ローカル線de昭和レトロ旅」。