2000年代に入ると、新幹線は北へ、南へ伸びていく。
02年12月、東北新幹線で盛岡~八戸が開通。全車指定席の「はやて」は、東京~八戸を最速2時間56分で結んだ。さらに八戸からは「つがる」「スーパー白鳥」「白鳥」などの特急列車が接続し、青森、弘前、函館までの時間も短縮される。とくに函館までは最速5時間58分となり、以前に比べて60分も短縮。飛行機ではなく、鉄道で北海道へ行くことも選択肢のひとつとなった。
さらに10年12月には新青森まで延伸し、東京~新青森は最速3時間20分で結ばれた。46年前、開業した当初の新幹線が、東京~新大阪を4時間で結んでいたことを考えると、まさに隔世の感がある。これで新幹線は本州のほぼ北端まで行き着いたことになった。
いっぽう、九州新幹線も負けていない。
2004年3月に、新八代~鹿児島中央が開業、新型の800系新幹線「つばめ」がデビューする。えっ、博多から伸びていくんじゃないの、と思ったものだが、もちろんそこにぬかりはなく、博多から新八代をつなぐ特急「リレーつばめ」も合わせて登場し、博多~鹿児島中央は最速2時間10分と、それまでより1時間30分も短縮された。
「つばめ」の車両は、サクラ材のロールブラインド、九州特産のクスノキを使った客室の仕切り壁、八代い草の縄のれんなど、贅を尽くした内装で、他の新幹線にはないJR九州の独自色を押し出している。『JR時刻表』04年3月号では、そうした内装や、南九州の温泉をカラーページで紹介している。
また、新幹線開業となった鹿児島本線の区間は「肥薩おれんじ鉄道」として生まれかわるのをはじめ、特急「はやとの風」(鹿児島中央~吉松)、「いさぶろう」「しんぺい」(吉松~人吉)、特別快速「なのはなDX」(鹿児島中央~指宿・山川 2011年3月に「指宿のたまて箱」[鹿児島中央~指宿]へ移行)といった観光列車も誕生している。展望スペースがあったり、座席が窓側を向いていたり、ボックスシートだったりと内装がバラエティに富んでいるのが特長で、どれも新幹線「つばめ」と同じ水戸岡鋭治氏のデザインである。最大限に車窓を堪能できる工夫があちこちに施されていて、鉄道は単なる移動手段ではなく、乗ること自体がエンタテイメントだと気づかされる。
延伸した東北新幹線と九州新幹線に挟まれた、東海道・山陽新幹線はどうだろう。
1992年にデビューした300系「のぞみ」は、当初は東京~新大阪間に1日2往復だったが、500系、700系と新しい車両の登場で着々と本数を増やし、99年10月には、東京~博多間を500系「のぞみ」が1日7往復、700系「のぞみ」が6.5往復するまでになる。
2000年代に入っても本数を増やし、03年にはそれまでの「ひかり」主体のダイヤから、「のぞみ」主体のダイヤへと移行する。1時間に「のぞみ」は最大7本、つまりピーク時にはおよそ10分ごとに発車する計算になった。これは大増発といえる。
それに連動して、今までは停車しなかった新横浜、姫路、福山といった駅にも停車する列車も登場。さらには、それまで全席指定だったが、自由席を3両設置。より気軽に利用できるようになる。しかも「のぞみ」の自由席は、「ひかり」「こだま」の自由席と同額。もはや「ひかり」の立場なし、といった状態になり、「こだま」「ひかり」は、早朝・深夜帯へ活躍の場を移していく。開業以来、スピードアップ、車内空間の充実、さらなるスピードアップと試行錯誤をくり返し、いろいろなものが削ぎ落とされた完成型が、最高時速270kmの「のぞみ」といえるだろう。
07年7月には「のぞみ」に新しい車両、N700系が導入される。より一層のスピードアップに対応した車両で、東京~新大阪間が5分短縮された。たった5分と思うなかれ。改良に改良を重ねた上での5分である。
まずは驚異的な加速。時速270kmに達するまでの時間が、それまでの300秒から180秒になった。わずか3分で時速270kmとは、もはや電車ではなく、何か別の、空をも飛べる乗り物のように感じる。次に、カーブを曲がるときに車体を内側に1°傾けるシステム。せっかくの高速運転も、カーブでは危険なため減速せざるをえないが、この技術のおかげでスピードを落とさず、かつ乗り心地も変わらないという夢が実現した。そして、連結部分に白い幌を付けることで、車体をより滑らかにし、空気抵抗を減らしている。5分短縮は、このような小さな積み重ねで実現している。
『JR時刻表』07年7月号には、こうした車両の改善点がカラー2ページにわたって、詳細に説明されている。ここまでメカのことに触れるのは時刻表では珍しく、車体への力の入れようがうかがえる。時刻表ページも、N700系で走る「のぞみ」には、色帯を付けて目立たせている。こうした期待にN700系は見事に応え、翌08年3月には、N700系「のぞみ」は大増発されている。
そうした新型車両の大躍進の陰で、0系、100系の運転終了、500系の「のぞみ」からの引退も忘れてはならない。とくに0系の運転終了は話題になり、個人的にもどうしても最後に乗りたくて駆けつけたくちである。最終運転となるダイヤが掲載されている『JR時刻表』08年11月号の本文部分には、「11月29日までは0系で運転」という記載がある。その文字を見るにつけ、0系のゆったりとした丸い後ろ姿を思い出して、こみあげるものがある。
来る3月5日には、東北新幹線に新型車両E5系「はやぶさ」がデビュー、12日には九州新幹線が全線開通と、2011年も話題には事欠かない。1964年の東海道新幹線開業から46年の年月をかけて、本州の北端から九州の南端まで、新幹線で結ばれた。“夢の超特急”は現実となり、さらに次の夢を追いかけている。
せっかくだから、東北~東海道~山陽~九州と新幹線を乗り継いでみたい。直近の『JR時刻表』11年2月号によれば、6時10分新青森発の「はやぶさ」4号に乗ると、9時24分に東京着、9時50分東京発の「のぞみ」103号に乗って12時26分に新大阪着、そして12時59分新大阪発の「さくら」557号に乗ると、17時13分に鹿児島中央駅に到着する。素敵すぎる。こうして時刻表を繰るだけでも、心が躍る。
開業当時の時刻表に、東京から新大阪の新幹線ダイヤの下に、山陽本線以西、九州各地までの連絡列車が記されていたことを思い出す。東京を6時ちょうどに出発する新幹線「超特急ひかり1号」に乗り、新大阪で特急に乗り換えて大分に21時10分に到着した。東京~大分間がおよそ15時間かかっていたことになる。今ではすべて新幹線をつかって11時間で新青森から鹿児島中央まで行き着けるのだ。
そもそも新幹線は、戦前・戦中の「弾丸列車」構想に端を発している。東京から下関まで、在来線とは別の新線をつくり、長距離高速列車を走らせようという計画で、将来的には下関からは海底トンネルを掘って大陸へもつなげようとしていた。最高速度は時速200kmと、当時としてはまさに“弾丸”のごとく走る超高速列車を想定していた。
そんな夢のような構想は、戦時中ということもあってあえなく挫折するのだが、2000年代になってほぼ実現したといえる。不況ばかりが声高に叫ばれ、人とのつながりの希薄さから無縁社会などといわれている。政権が1年ごとに変わるなど、政治、経済ともに安定しない。とはいえ、新幹線は確実に歩を進め、いまや日本の新幹線技術は海外へも輸出されている。国の浮き沈みに翻弄されながらも少しずつ前進していくその姿は、まさに人びとの「のぞみ」である。今になって、その新幹線の名前に大きな意味を感じざるをえない。(終)
左上より『2000年3月号』では、新大阪~博多間にデビューした「ひかりレールスター700系」(右下)が。『2002年12月号』では八戸延伸をはたした東北新幹線「はやて」の雄姿、『2004年3月号』では九州新幹線開業で「つばめ」が登場。『2007年7月号』では新型車両N700系のデビューで、巻頭グラビアでも特集が組まれた。
2008年11月末で引退した0系の面影を留める100系は、1985年の製作。現在は博多~新大阪間を山陽新幹線「こだま」で運用されているが、来る2011年3月11日をもって、4両編成の営業運転を終了予定。
- 2000
- 小渕恵三首相が死去。森喜朗が後任
- 2000円札が発行
- 九州・沖縄サミット
- シドニーオリンピック
- 都営地下鉄大江戸線が開通
- 2001
- ユニバーサル・スタジオ・ジャパンが開園
- 小泉純一郎内閣が発足
- 東京ディズニーシーが開園
- アメリカで同時多発テロが発生
- 敬宮愛子内親王、誕生
- 湘南新宿ラインが運行開始
- 『千と千尋の神隠し』公開
- iPod発売
- 2002
- EU12カ国の通貨がユーロに統合
- FIFAワールドカップが韓国と日本で開催
- 北朝鮮の拉致被害者5名が日本へ帰国
- 小柴昌俊(物理学賞)、田中耕一(化学賞)が
- ノーベル賞受賞
- 2003
- 朝青龍がモンゴル人力士初の横綱に昇進
- 営団地下鉄が民営化、東京メトロに
- 六本木ヒルズがオープン
- イラクのフセイン大統領が米軍に拘束
- 横綱貴乃花が引退
- SARSが流行
- 2004
- 新札が発行
- 東北楽天ゴールデンイーグルスが誕生
- ニンテンドーDSが発売
- スマトラ島沖地震
- アテネオリンピック開催
- 年金未納問題が表面化
- 2005
- 中部国際空港が開港
- 「愛・地球博」が愛知県で開催
- 衆議院解散総選挙後の国会で郵政民営化法案が可決
- 2006
- 堀江貴文ライブドア社長が証券取引法違反の容疑で逮捕
- トリノオリンピック開催、荒川静香が金メダル
- 村上ファンド事件
- 悠仁親王、誕生
- 小泉純一郎が首相退任、後任は安倍晋三
- 任天堂Wiiが発売
- 2007
- 食品メーカーの偽装が表面化
- 東京ミッドタウンがオープン
- 白鵬が横綱に昇進
- 安倍晋三首相辞任、後任は福田康夫
- 日本郵政公社が解散、日本郵政グループに
- さいたま市に鉄道博物館が開館
- 2008
- 中国製冷凍餃子中毒事件
- 秋葉原通り魔事件が発生、7名死亡
- 東京メトロ副都心線が開業
- iPhone3Gが発売
- 北京オリンピック開催
- 福田康夫首相辞任、後任は麻生太郎
- 日本人4名がノーベル賞受賞
- 2009
- バラク・オバマ、アメリカ合衆国大統領に就任
- 歌手・忌野清志郎が死去
- 裁判員制度がスタート
- マイケル・ジャクソンが死去
- 皆既日食(日本では奄美諸島で観測)
- 麻生太郎内閣総辞職、民主党政権が誕生
- 2010
- 公訴時効を廃止する改正刑事訴訟法が成立
- 金星探査機「あかつき」打ち上げ
- 鳩山内閣総辞職、菅直人内閣が誕生
- 小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還
- 所在不明の高齢者問題が表面化
- 東京国際空港(羽田)に新国際線ターミナルが開業
2011年3月号(2月25日発売)
2011.3.12 JRグループダイヤ改正
東海道・山陽・九州(全線開業)新幹線+在来線
ダイヤ改正 全時刻掲載!
最速列車〔みずほ〕、新大阪~鹿児島中央間
3時間45分で運転開始
●付録1 “新幹線車両之系譜図”
東海道・山陽・九州新幹線版
●付録2 新幹線ポストカード(N700系みずほ さくら)
文:屋敷直子
参考文献
『昭和三十九年の鉄道旅行 (鉄道タイムトラベルシリーズvol. 3』ネコ・パブリッシング
『鉄道黄金時代~「ディスカバー・ジャパン」の光と影~(図説日本の鉄道クロニクル7巻)』講談社
『新幹線誕生~超特急「ひかり」~(図説日本の鉄道クロニクル6巻)』講談社
『時刻表でたどる鉄道史』編著・宮脇俊三、企画執筆・原口隆行/JTBキャンブックス
『東海道新幹線パーフェクトガイド』JTB交通ムック
『昭和の鉄道〈30年代〉』JTB交通ムック
『図説 新幹線全史1・2』学習研究社
『復刻版 さらば日本国有鉄道』世界文化社
『東京人「特集 新幹線と東京」 2010年5月号』
『「ディスカバー・ジャパン」の時代 新しい旅を想像した、史上最大のキャンペーン』森彰英/交通新聞社