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達人の鉄道利用術
第2回「乗り継ぎ時間」をマスターする
鉄道旅行の「宿命」を楽しむ

 「机上旅行」という言葉もあるように、旅行の出発前に計画を立てているときは楽しいものだ。時刻表を見ながらダイヤを繰り、絶妙な乗り継ぎプランを編み出したときなど、快感すら覚える。


 しかし、実際に鉄道の旅に出かけると、うまくいかずイライラすることも少なくない。そのひとつが「乗り継ぎ時間」だ。付近の観光スポットへゆっくり出かけられるほど余裕があるわけでもなく、「帯に短し、たすきに長し」のような時間ができてしまうことが度々ある。定められたダイヤで走る鉄道旅行ではもう、「宿命」みたいなものだ。


 だからといって、「仕方がない」と駅の待合室でボンヤリしているのはもったいない。30~40分程度あれば、ちょうどよい乗り継ぎ時間の楽しみ方もある。


立ち食い店メニューにも地域性がある。鳥栖(とす)駅ホームのもの

「冷麺」も出す鶴橋駅大阪環状線ホームの立ち食い店

 そのもっとも手軽なものは、食事だろう。駅の立ち食い店でも鳥栖駅(佐賀県)の「かしわうどん」、コリアタウンが広がる鶴橋駅(大阪府)の「冷麺」など、地域性あるメニューに旅情を感じることができる。また我孫子駅(千葉県)の巨大な「唐揚そば」、品川駅の「品川丼」といったご当地メニューに出合えることも。名古屋駅や天王寺駅では、ホームで「立ち飲み」も可能だ。


天王寺駅の阪和線ホームにある立ち飲み店「はんわ」

有名駅弁のひとつである長万部駅「かにめし」は、駅付近の店舗でも味わえる

 また長万部(おしゃまんべ)駅(北海道)や大館駅(秋田県)では、駅前の店舗で出来たての駅弁「かにめし」「鶏めし」を、温かいままゆっくり賞味できる。個人的に、駅弁はやはり列車のなかで楽しむのがベストだと思うが、これはこれでスムーズに乗り継いでいたらありつけない、貴重でおいしい体験だ。

オススメは駅近の「スーパー」

 しかし乗り継ぎのたびに食べてばかり、というわけにもいかない。そこでオススメなのが駅近の「スーパー」だ。


 スーパーはちょっとした規模の駅なら近くにあることが多く、手軽にその地域らしさに触れられる。そのため中途半端な乗り継ぎ時間を、大いに有効活用できる。買った品は必ずしもすぐ食べる必要はないし、おみやげにしてもよい。魚やお酒以外に、地域独特の寿司やお菓子、パンなどもよく見かける。


 鹿児島では鮮魚コーナーにキビナゴが、精肉コーナーには鶏のたたきが多数並んでいた。さらに酒の棚では、めずらしい焼酎の数々に目移り。見ているだけで、薩摩の地にいるのを実感させてくれた。


 名古屋では、みそコーナーに並ぶ商品数の多さ、そしてその大半が赤みそだったのが印象的だった。


 スーパーによって地域色が出やすいのは、鮮魚コーナーだろうか。たとえば新山口駅(山口県)近くで見かけた丸尾産の「ギザミ」と床波(とこなみ)産の「コチ」の刺身。聞いたことのないもの、なじみのないものなど、その土地の鮮魚はさまざまだ。地域によって呼称が異なる場合が多く、地のものを意味するローカルな呼称を見つけるのも旅情がある。


 北海道では、私はいつも「鮭トバ」を探す。きれいに包装された大量生産品ではないそれに出合うことがあり、これがまたしっとりとして味わい深く、おいしいことが多いからだ。


新山口駅近くのスーパーで購入した「ギザミ」と「コチ」。
ホテルに戻って晩酌のおつまみに

母恋(ぼこい)駅(北海道)近くのスーパーで購入した鮭トバ。安いことも多い
鉄道旅行のよさ、そのひとつは「それぞれの日常」に近いこと

 可能であれば、全国チェーン店舗ではなく、ローカル色の強いスーパーを探すのが望ましい。しかしチェーン店であっても、おなじみの商品が並ぶなかに、見慣れぬものを見つけ、「違い」を楽しむというのもまたおもしろいかもしれない。


 ちなみに私は、鉄道旅行へ出かけるにあたって割り箸とウエットティッシュ、しょうゆ、ワサビの小袋を必需品としている。スーパーによっては、しょうゆの小袋を付けていないことがある。また車内で何かを食べているとき、揺れたはずみで箸を落としてしまうことがあるからだ。いずれも、実際に涙をのんだ経験から学んだことなのはいうまでもない。


 ダイヤが決まっている鉄道。そして、どうしても生まれてしまう微妙な乗り継ぎ時間。せっかく出かけるのなら、それに振り回されるのではなく、その不自由さを満喫したい。ちょっとした時間でも途中下車して楽しめるのは、沿線「それぞれの日常」と距離が近い鉄道旅の醍醐味だ。もしも乗り継ぎがスムーズだったら、その町へ立ち寄ることは一生なかったかもしれない。

プロフィール 文・写真:恵 知仁●Megumi Tomohito
1975年東京都生まれ。鉄道ライター、イラストレーター、WEBメディア「乗りものニュース」編集長。
小学生の頃から鉄道旅行記を読みあさり、カメラを持って子どもだけでブルートレインの旅へ出かけていた「旅鉄」兼「撮り鉄」。
日本国内の鉄道はJR・私鉄の全線に乗車済みで、完乗駅はJRが稚内駅、私鉄がわたらせ渓谷鐵道の間藤(まとう)駅。
※掲載されているデータは平成28年6月現在のものです。

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