「机上旅行」という言葉もあるように、旅行の出発前に計画を立てているときは楽しいものだ。時刻表を見ながらダイヤを繰り、絶妙な乗り継ぎプランを編み出したときなど、快感すら覚える。
しかし、実際に鉄道の旅に出かけると、うまくいかずイライラすることも少なくない。そのひとつが「乗り継ぎ時間」だ。付近の観光スポットへゆっくり出かけられるほど余裕があるわけでもなく、「帯に短し、たすきに長し」のような時間ができてしまうことが度々ある。定められたダイヤで走る鉄道旅行ではもう、「宿命」みたいなものだ。
だからといって、「仕方がない」と駅の待合室でボンヤリしているのはもったいない。30~40分程度あれば、ちょうどよい乗り継ぎ時間の楽しみ方もある。
しかし乗り継ぎのたびに食べてばかり、というわけにもいかない。そこでオススメなのが駅近の「スーパー」だ。
スーパーはちょっとした規模の駅なら近くにあることが多く、手軽にその地域らしさに触れられる。そのため中途半端な乗り継ぎ時間を、大いに有効活用できる。買った品は必ずしもすぐ食べる必要はないし、おみやげにしてもよい。魚やお酒以外に、地域独特の寿司やお菓子、パンなどもよく見かける。
鹿児島では鮮魚コーナーにキビナゴが、精肉コーナーには鶏のたたきが多数並んでいた。さらに酒の棚では、めずらしい焼酎の数々に目移り。見ているだけで、薩摩の地にいるのを実感させてくれた。
名古屋では、みそコーナーに並ぶ商品数の多さ、そしてその大半が赤みそだったのが印象的だった。
スーパーによって地域色が出やすいのは、鮮魚コーナーだろうか。たとえば新山口駅(山口県)近くで見かけた丸尾産の「ギザミ」と床波(とこなみ)産の「コチ」の刺身。聞いたことのないもの、なじみのないものなど、その土地の鮮魚はさまざまだ。地域によって呼称が異なる場合が多く、地のものを意味するローカルな呼称を見つけるのも旅情がある。
北海道では、私はいつも「鮭トバ」を探す。きれいに包装された大量生産品ではないそれに出合うことがあり、これがまたしっとりとして味わい深く、おいしいことが多いからだ。
可能であれば、全国チェーン店舗ではなく、ローカル色の強いスーパーを探すのが望ましい。しかしチェーン店であっても、おなじみの商品が並ぶなかに、見慣れぬものを見つけ、「違い」を楽しむというのもまたおもしろいかもしれない。
ちなみに私は、鉄道旅行へ出かけるにあたって割り箸とウエットティッシュ、しょうゆ、ワサビの小袋を必需品としている。スーパーによっては、しょうゆの小袋を付けていないことがある。また車内で何かを食べているとき、揺れたはずみで箸を落としてしまうことがあるからだ。いずれも、実際に涙をのんだ経験から学んだことなのはいうまでもない。
ダイヤが決まっている鉄道。そして、どうしても生まれてしまう微妙な乗り継ぎ時間。せっかく出かけるのなら、それに振り回されるのではなく、その不自由さを満喫したい。ちょっとした時間でも途中下車して楽しめるのは、沿線「それぞれの日常」と距離が近い鉄道旅の醍醐味だ。もしも乗り継ぎがスムーズだったら、その町へ立ち寄ることは一生なかったかもしれない。