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達人の鉄道利用術

ちょっとした達人テクであなたも快適&ラクラク鉄旅しよう!

7「新幹線」をマスターする

路線ごとにユニークな新幹線が走る日本。
日本の鉄道を語るにあたり、世界初の高速鉄道である「新幹線」は欠かせません。
そんな新幹線の旅をより楽しむ利用術をお教えします。

「日本を代表する輸出品」にもなった新幹線

 平成28年8月、筆者はスイスを訪問した。青函トンネルを抜いて世界最長の鉄道トンネルになった「ゴッタルドベーストンネル」取材のためだ。現地の鉄道関係者から「(トンネルは最長でも)スイスの列車は日本ほど速くはないけどね」と話されたのを記憶している。やはり「新幹線」は日本の鉄道の象徴であり、せっかく日本にいるからには、鉄道ファンとして新幹線の旅を楽しみたい。

 まず、日本の新幹線の歴史をおさらいしよう。開業は東京オリンピック開会式まで10日を切った、昭和39年(1964)10月1日。東海道新幹線が東京駅~新大阪駅間で運転開始した。200キロメートル毎時以上での営業運転を実現した世界初の高速鉄道である。

 これに続いて、昭和47年に山陽新幹線、昭和57年に東北・上越新幹線が開業した。さらに平成4年に山形新幹線、平成9年に長野(北陸)・秋田新幹線、平成16年に九州新幹線、平成28年に北海道新幹線が開業。これで日本列島には、およそ半世紀を経て、本州から九州、北海道へと全長約3000キロメートルの新幹線路線網が広がっている。

 新幹線の技術は台湾高速鉄道など海外でも採用されており、近年は「日本を代表する商品」として輸出が積極的に進められている。「鉄道発祥の地」であるイギリスの国立鉄道博物館には、日本の新幹線が展示されている。同博物館からの依頼を受け、平成13年に日本の初代新幹線車両0系が博物館に収蔵されたのだ。

  • 「ユーロスター」と向き合うように、イギリスの国立鉄道博物館で展示されている0系。

  • 新幹線の技術が導入されている台湾高速鉄道。車両は700系をベースに開発された。

新幹線を楽しむ(1) 東海道新幹線で「きしめん」、山陽新幹線「500 TYPE EVA」乗車

 それでは、特徴ある新幹線を楽しむ旅を提案しよう。
 はじめに東海道新幹線(東京駅~新大阪駅間)だが、運転本数が多いのが特徴だ。そのため途中の停車駅で降車して、駅のホームで地元料理を楽しむのはどうだろうか。たとえば名古屋駅の新幹線ホームでは、名物の「きしめん」を味わうことができる。どんぶりの上、湯気でひらひら舞うカツオブシは、見ているだけで食欲を刺激する。

 新幹線の場合、途中の停車駅で降車しても、改札口を出なければ特急料金は通算される(例外区間あり)。たとえば東京駅~新大阪駅間で「のぞみ」を乗り通した場合と、名古屋駅で降りて改札から出ずに後続の「のぞみ」に乗り継いだ場合と比べても、特急料金は変わらない。

 山陽新幹線(新大阪駅~博多駅間)では、「500 TYPE EVA(500タイプ エヴァ)」への乗車をおすすめしたい。アニメ『エヴァンゲリオン』とのコラボレーション企画で、500系車両の外観と内装に『エヴァンゲリオン』の世界観が大胆にデザインされている。平成30年春頃まで期間限定で運転される予定だ。そもそも、新幹線にこのように大掛かりなコラボ企画は珍しい。また1号車では「実物大コックピット搭乗体験」もできる。アニメ『エヴァンゲリオン』を知らないからといって、乗らずに過ごすのはもったいない。

 山陽新幹線「500 TYPE EVA」は、博多駅発新大阪駅行きの「こだま730号」と、新大阪駅発博多駅行きの「こだま741号」で運転されている(平成28年10月12日現在)。1号車で「実物大コックピット搭乗体験」をするには、事前予約や確約プランを含んだ旅行商品の購入が必要だが、単純に新幹線への乗車と見学のみであれば通常の乗車券と特急券でOKだ。

  • 名古屋駅の名物でもある「きしめん」。新幹線ホームにある複数店舗で食べられる。

  • 「500 TYPE EVA」の運転日は公式ホームページで確認を。

新幹線を楽しむ(2) 九州新幹線で「車両乗り比べ」、北海道新幹線で「乗り継ぎ」

 九州新幹線(博多駅~鹿児島中央駅間)では「車両の乗り比べ」がおもしろい。山陽新幹線への直通列車としても使われるN700系は、「和」の雰囲気が演出されており、東海道・山陽新幹線用のN700系とはひと味違う。

 さらに九州新幹線内を走る800系にも特徴がある。東海道・山陽新幹線の700系をベースに開発された車両だが、内装には木材や金箔、蒔絵などが使われ、九州の伝統工芸の世界があふれている。同じ800系でも座席が布であったり革であったり、車両ごとに内装が異なるため、到着駅まで乗り比べて楽しむこともできる。先述の通り、途中の停車駅で降車して車両を乗り継いでも、改札口を出なければ、特急料金は通算される。

 東北新幹線(東京駅~新青森駅間)では、新幹線の「最速」を体験したい。「はやぶさ」「こまち」の最高速度は320キロメートル毎時。日本に新幹線が誕生して半世紀、最も速い営業列車だ。ただし、最速で走るのは「はやぶさ」「こまち」の宇都宮駅~盛岡駅間に限定されている。客室内に速度計があるわけではないため、そのスピードを実感するのは難しいが、GPS機能があるスマートフォンアプリを使用すれば、走行速度を確認することができる。東京駅から「はやぶさ」に乗って、アプリを使いながら宇都宮駅を通過。新幹線はグングン加速して300キロメートル毎時の大台を超えていく。その乗車体験はとても楽しい。

 北海道新幹線(新青森駅~新函館北斗駅間)では駅での「乗り継ぎ」に工夫がある。新函館北斗駅では、函館市街方面や札幌方面へのアクセスを考慮し、階段の上り下りなしで新幹線と在来線を乗り継げるホームもある。華やかなおもてなしではないが、こうした乗客への配慮も、新幹線の旅の快適さにつながっている。

  • 九州新幹線800系には、壁に金箔が貼られた車両もある。

  • 最高速度320キロメートル毎時で走るE5系。グリーン車より上級の「グランクラス」も、このE5系から始まった。

新幹線を楽しむ(3) 上越新幹線で「アート鑑賞」、北陸新幹線で「標高」

 上越新幹線(東京駅~新潟駅間)では、平成28年4月から運転開始された「世界最速の芸術鑑賞」ができる「現美新幹線(GENBI SHINKANSEN)」に注目だ。新幹線を現代アートの美術館にしたもので、内外装を写真家・映画監督の蜷川実花(にながわ みか)さんら8人のアーティストが担当。非常に個性的でデザイン性あふれる車内で、壁一面が鏡のような車両空間などは、一般的にイメージされる「新幹線」とは大きく異なったものだ。走行する振動で車内が揺れ、展示されたアート作品の表情の変化が見られるなど、「走る新幹線」という場が生かされているのもポイントだ。

「現美新幹線」は土曜・休日を中心に、各駅停車の「とき」として越後湯沢駅~新潟駅間で1日3往復運転。通常の乗車券と特急券を購入すれば乗車できる。

 北陸新幹線(東京駅~金沢駅)乗車時には、標高の変化に注目したい。高崎駅の標高は100メートル弱だが、そこから2駅分下りへ進んだ軽井沢駅では、標高約940メートルと大きく上がる。高崎駅~軽井沢駅間は新幹線が開業する前、66.7パーミル(水平距離1000メートルにつき66.7メートル標高が高く、もしくは低くなる)という、JR線で勾配の最もきつい坂道があった場所であった(碓氷<うすい>峠)。機関車の助けを借りて、上り下りしていた在来線時代と比べ、勾配が30パーミルに緩められている新幹線はスイスイ走っていく。だがスマートフォンのGPS機能で測定すれば、短時間で標高が一気に変化する様子が見てとれる。ちなみに軽井沢駅は、新幹線の停車駅で最も標高の高い位置にある。

  • 長岡の花火の写真で彩られた「現美新幹線」。秋田新幹線E3系を改装し、誕生した。

  • 軽井沢駅の新幹線ホームから。かつて碓氷峠で補助機関車として活躍したEF63形の保存車が見える。

新幹線を楽しむ(4) 山形新幹線で「スイッチバックの遺構」、秋田新幹線で「三線軌条」

 山形新幹線(東京駅~新庄駅間)では、「スイッチバックの遺構」が興味深い。奥羽(おうう)山脈を越える福島~米沢間では急勾配が続くため、かつては赤岩駅、板谷駅、峠駅、大沢駅と4駅連続でスイッチバックを行なう構造になっていた。また雪深い地域でもあるため、スイッチバックのポイント(分岐器)を守る雪よけのスノーシェルターも備えられた。

 スイッチバックは、新幹線開業にともない廃止されたが、現在も線路を覆うように、またはその近くにスノーシェルターが残っている。ここも碓氷峠同様、かつては難所として知られた区間。やはり新幹線はスイスイと走っていくが、過去の経緯を知っているとより楽しめるだろう。

 秋田新幹線(東京駅~秋田駅間)では「三線軌条(さんせんきじょう)」に注目したい。大曲(おおまがり)駅~秋田駅間の線路の幅は、秋田新幹線は1435mm、奥羽本線は1067mmと異なっている。幅が異なる2種類の車両を走らせるため、線路にレールを3本使っているのだ。そのため山形新幹線、秋田新幹線は在来線の線路を改造して直通運転できるようにした「ミニ新幹線」とも呼ばれる。それを象徴するひとつが、この三線軌条だ。

 三線軌条が見られるのは、神宮寺(じんぐうじ)駅~峰吉川(みねよしかわ)駅間の秋田駅に向かって左側の線路。レールが3本あるのがわかる。また北海道新幹線の青函トンネル付近でも見ることができる。

 そして現在、待ちきれないのは「超電導リニア」を採用する「リニア中央新幹線」の誕生だ。開通工事が始まり、走行ルートもいよいよ具体的に見えてきた。今後も日本の「新幹線」から目が離せない。

  • スノーシェルターのなかにある奥羽本線(山形線)の峠駅。

  • 三線軌条の区間を走る奥羽本線の列車(左)と秋田新幹線旧車両「こまち」(右)。

次回は“「終着駅」をマスターする”です!

恵 知仁

文・写真 / 恵 知仁 ● Megumi Tomohito

1975年東京都生まれ。鉄道ライター、イラストレーター、WEBメディア「乗りものニュース」編集長。
小学生の頃から鉄道旅行記を読みあさり、カメラを持って子どもだけでブルートレインの旅へ出かけていた「旅鉄」兼「撮り鉄」。
日本国内の鉄道はJR・私鉄の全線に乗車済みで、完乗駅はJRが稚内駅、私鉄がわたらせ渓谷鐵道の間藤(まとう)駅。

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