『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。

達人の鉄道利用術

ちょっとした達人テクであなたも快適&ラクラク鉄旅しよう!

9「駅そば」をマスターする

日本全国の駅のホームで営業する駅そば店。
手軽さが魅力のひとつですが、味やトッピングメニューなどで地域差や個性も光ります。
駅によっては、郷土の名物や変わり種メニューに出合えることも。
列車の出発を待つ間、旅情を感じられる「駅そば」を楽しむ利用術です。

同じようで違う全国の駅そば。東と西の境界線は?

 旅の途中で、安く、早く、手軽に空腹を満たしてくれる駅の立ち食いそば=「駅そば」。鉄道と密着し、沿線住民の便利なファストフードとして人気のほか、旅人にとっては旅を彩ってくれる存在でもある。全国の駅そば店には、地域性や個性が光るのだ。なお、今回の連載では「駅そば」に「駅うどん」も含めて紹介する。


 駅そば店における地域性が光る代表例として挙げられるのは、「つゆ」だろう。一般的にその色は東日本では濃く、西日本では淡い傾向にある。かつおや醤油だしがメインの東日本に対して、西日本は昆布や魚介だし、薄口醤油など、地域の味を反映している。

 たとえば東海道本線の場合、つゆの“東西境界”は関ヶ原にある。東京側から西進した場合、米原駅のホーム(滋賀県)でうどんを食べると、駅名標がオレンジ色(JR東海)から青色(JR西日本)になったと同時に、東日本の人間にとって「薄く見える」つゆに出合う。はるばる関西までやってきたことを実感する瞬間だ。また、つゆの甘さにも地域差が感じられたり、自家製つゆで仕上げている駅そば店も存在したりする。

  • 駅の立ち食いそば店は鉄道の旅で小腹がすいたときの味方。寒い季節は体も温まる。

  • 米原駅ホームにある立ち食いうどん店。つゆの色が東日本より薄い。

トッピングにも地域の違いが。郷土の名物を味わえることも

 駅そばのメニューにも地域の特色が表れる。たとえば塩尻駅(長野県)の「安曇野(あずみの)葉わさびそば」。県名産の葉わさびをトッピングした逸品だ。また長野県内では「生そば」を使った「特上」や「上」を提供する店があるのも、そば処である信州らしい特徴だ。

 変わって九州北部では、鳥栖(とす)駅(佐賀県)、折尾(おりお)駅(福岡県)などでメニューに「かけ」がない。最初から甘く煮た「かしわ(鶏肉)」が入った「かしわうどん(そば)」がスタンダードとなっている場合が多い。「ごぼ天」「丸天」のトッピングが存在するのも、九州北部の特徴だろう。「丸天」とは魚のすり身を円形にして揚げたもので、この地域ではよく見かけるうどんのトッピングである。

 日本には「そば」自体が郷土の名物になっている土地も多い。北海道の音威子府(おといねっぷ)駅、新得(しんとく)駅では、黒っぽい色をした独特の麺が特徴の「駅そば」がある。

 愛知県の「きしめん」もそのひとつだ。名古屋駅では新幹線や在来線のホームにきしめん店が多数ある。その風景を眺めるだけでも、旅行者には非日常だろう。また姫路駅(兵庫県)では、その名も「えきそば」という中華そばに似た麺を使った駅そば店がある。かつては駅そば店でのみ提供されていた「えきそば」だったが、現在では駅のみにとどまらず姫路の町の名物となった。

  • 鳥栖駅のうどんは「かしわ」入りが基本。それに「丸天」を追加。

  • 姫路駅ホームの「えきそば」。中華そばに似た麺と和風だしが特徴。

今はない鉄道連絡船の歴史を受け継ぐ味

 高松駅の「連絡船うどん」は、地元名物「讃岐うどん」を味わいながら、鉄道の歴史を感じられる点で注目だ。昭和63年(1988)に瀬戸大橋が開通するまで、本州の宇野駅と四国の高松駅を結んでいた国鉄・JR四国の宇高(うこう)連絡船。その船内で「讃岐うどん」が提供され、四国へ戻ってきた乗客に「帰郷」を実感させていたという。その味に近づけられた「連絡船うどん」が現在、高松駅ホームで提供されている。


 このほか、コリアンタウンとして知られる大阪環状線鶴橋駅では、「冷麺」といったご当地メニューを味わえたり、静岡駅では「チーズそば」といった変わり種に出合えたりするのも楽しみのひとつ。列車の発車を待つ合間、鉄道の旅を豊かにしてくれる「駅そば」体験に、ぜひチャレンジしてほしい。

  • 宇高連絡船の写真が飾られている高松駅の「連絡船うどん」。

  • とろけるチーズがトッピングされた静岡駅の「チーズそば」。

上信越エリアで出合う至福の一杯。

JR東日本「スキです。駅そばキャンペーン2016」開催中!

JR東日本の高崎・長野・新潟の各支社では、平成28年11月1日(火)から12月25日(日)まで、上信越エリアの駅そば39店舗で「スキです。駅そばキャンペーン」を開催中です。期間中、過去最多となる13店舗で新作メニューが登場するほか、音楽業界きっての鉄道&駅そばファンである岸田繁(くるり)さんの景品が当たる応募企画も。対象店舗では、岸田さん作詞作曲によるオリジナルソング『そばを食べれば』も放送中です(※一部流れない店舗あり)。この機会にぜひ、上信越エリアの駅そばを食べ歩いてみては?

詳しくはこちら

『東西「駅そば」探訪』

和製ファストフードに見る日本の食文化

鈴木 弘毅著/交通新聞社刊

エキナカグルメの台頭など、新たな駅の飲食店が出現するなか、むかしながらの「駅そば」もがんばっている。「駅そば」研究の第一人者が、綿密な取材と豊富なデータをもとに、関東と関西における駅そば事情の違いを考察。さらにご当地ならではの味を活かした個性的なメニューも紹介していく。

ご購入はこちら

次回は“「駅前温泉」をマスターする”です!

恵 知仁

文・写真 / 恵 知仁 ● Megumi Tomohito

1975年東京都生まれ。鉄道ライター、イラストレーター、WEBメディア「乗りものニュース」編集長。
小学生の頃から鉄道旅行記を読みあさり、カメラを持って子どもだけでブルートレインの旅へ出かけていた「旅鉄」兼「撮り鉄」。
日本国内の鉄道はJR・私鉄の全線に乗車済みで、完乗駅はJRが稚内駅、私鉄がわたらせ渓谷鐵道の間藤(まとう)駅。

バックナンバー

このページのトップへ