『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
文=神田ぱん
短い函館観光を終えて、比羅夫(ひらふ)駅へ向かう。〔スーパー北斗〕か。JR北海道の「スーパー○○」って、みんなこの顔だな。細長くて口をくわっと開けて疾走する。目のない深海魚・ヌタウナギそっくり。もちろんヌタウナギをイメージ……なわけなく、連結しやすいよう貫通扉をつけ、運転席を上に持ってきたからだそうだ。でもディーゼルなのに最高130km/hの驀走列車で、顔の横には白く「FURICO281」と大書してあったりしてトラック野郎テイストだ。イカつい。はっ、またイカぐせが出てしまった、イカん。
車内は、なんで今日あたり? と思うほど混み混みで指定席がありがたい。「せっかくだから指定乗る?」とH岩がみどりの窓口に走ってくれたのだ。〔スーパー北斗〕のふかふかシートと、FURICO、すなわちカーブでバイクみたいに車体が傾く振り子機構の振動が心地いい。この振り子で酔う人もいるらしいが、私はすぐさま爆睡した。
「もう着くよ、起きて!」とH岩に揺すられて、目覚めたら長万部(おしゃまんべ)駅。おお~ここがあの、おしゃ・まんべの! おしゃまんべですか! って地名以外、長万部に関する情報は持っていなかった。待ち合わせ時間を利用し、何か情報を得たいと思ったが、折悪しく雨。おとなしく座って待つことにしたが、折悪しく満席。H岩はさっさとカバンを床に置いて、その上にどっかと座っている。
ローカル線の退屈な長い待ち時間は、いい。自分の無力さを感じてどんどん謙虚になるのが、いい。こぢんまりした待合室も懐かしくて、いい。小樽行き普通列車は、車両がキハ150形で新しめだけど、通勤通学の足という感じが、いい。二股(ふたまた)駅や蕨岱(わらびたい)駅は、駅舎はコンテナ車みたいで、いい。雪除けのトンネルみたいのがあるのも、いい。
車窓に打ちつける雨を眺めながら、心細くて切なくて、なのにワクワクする。どんどん「旅」にはまり込んでいく。ウ・レ・シ・イ。特急だとこれがないんだよ、快適過ぎんだよ。前戯なしのホンバンみたいなもんだよ。やっぱ旅は各停に限るよ、ねぇ!? とH岩を見たら、寝てた。
そろそろ比羅夫駅が近くなってきた。本日泊まるのは『駅の宿 ひらふ』。サイトには「日本でただ一つ 駅舎が民宿!」「プラットホームでバーベキュー」とあった。え、どういうこと。予約を入れたら「では17時48分到着のご予定ですね」と言われた。チェックイン時間を「48分」という細かさで指定するとは。期待に胸がふくらんだ。
で、比羅夫駅。降りたらいた! ひとりぽつねんとバーベキューしてる男性がホームに! 脱兎と駆け寄り「こんにちは! あの、写真、写真いいですか!」といきなりのH岩。何せ本数のない函館本線、列車が停車しているうちに写真を撮らねばと焦る。何がなんだかわからずおびえる男性。何この人たち。鬼? 突如襲来した中年女に迫られて断れるわけもなく「あ。ハイ……」とうつむく。あー暗いー撮れないー、ストロボたきなよストロボ! とか言ってるうちに、列車は走り去り、我に返った。あれ。もしかして私たち、ものすごく失礼なことしてない?
ヤダごめんなさ~い、えーっと。チェックインどうすればいいのかしらぁ~? 誤魔化してたら、オーナーさんが「いらっしゃいませー」とにこやかにやって来た。ふう。バレてないバレてない。「とりあえず宿帳お願いします」とオーナーに促され、駅舎へ入る。待合室とおぼしき場所は素っ気ない造りだが、猫のエサや寝床が置いてある。猫がいるんだな、へへ、うれしい。
待合室に隣接したログハウス風のドアを開けるとフロント、というより居間のような部屋。ウッディでパッと見はペンションとか喫茶店みたいだけど、ストーブや階段の感じは『鉄道員』(ぽっぽやの方ね)で見た駅舎のそれだあ!
宿帳を書き、いよいよホームでバーベキュー。ビールなどはフロントの冷蔵庫からセルフで出し、自己申告で清算する方式。食べよ、食べよ! とビールを抱えてホームに出たら、さっきの男性が肉を焼いている。あ。やべ。忘れてた……。