『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
文=H岩美香(編集部)
湯本駅から、当初乗る予定だった、普通列車に乗り換え、今日の旅の最大の山場、原ノ町駅へ向かう。一度特急列車の味を知ってしまった私は、座席の座り心地や、テーブルに置いてゆっくり食べられた水戸駅名物「印籠弁当」の思い出をつい懐かしんでしまう。が、いけない、いけない。
たくさんの長距離列車が走る常磐線のホームには、かつて大勢の立ち売りが出ていたという。なかでも原ノ町駅は、機関車の給水などをするため列車の停車時間が長く、駅弁もよく売れた。今の時代は、停車時間が短いし、コンビニでSuicaをピッでおにぎりが買える。でも、私は駅弁派だ。おなかがすいていなくっても駅弁が食べたい。駅弁屋さん、しかも、立ち売りは大変でしょうけれど、私が買います、買わせていただきます。
果たして、家を出て約7時間、ついにたどり着いた原ノ町駅には、いました、『丸屋』さんの立ち売り駅弁屋さんが。しかも、女性……じゃない、男性じゃん! 夫を見る。夫はそ知らぬふうだ。
とにかく、売り切れちゃいけないので、駅弁屋さんのところに走っていく。今日は女性じゃないんですか? 駅弁を立って売られるご苦労はありますか? いろいろ聞きたいことはあったけれど、まずは、どのお弁当がおすすめですか? という、自分の欲望に直結した質問をなげ、「どれもおいしいよ」ななかから、「人気がある」かにめし720円を買った。写真撮っていいですか? と2回目の質問を使い、写真を撮っていたら、やんややんやとお客さんが押しかけ、お弁当は売り切れて、しかも若者ご所望のお弁当を追加で取りに行くため、駅弁屋さんは消えてしまい、私がゲットできたのは、自分のためのかにめしだけで、お話はうかがえなかった。読者の皆さますみません。
原ノ町駅を出て、常磐線普通列車のロングシートに座り、かにめしを食べた。ごま油が効いた、やさしいかにめしだ。さっきのやんややんやの興奮からか、つい、がっついてしまい、車窓を楽しみすらせず、あっという間に平らげてしまった。はて、この物足りなさは、かにめしの量ではなくて、まだお昼なのに、旅の最大の山場が嵐のように過ぎ去ってしまった、という寂寥感なのか。
そこで依然元気なのは、夫だ。「仙台は牛たん通りへ行ってみよう」「大好きな、ずんだもちのカフェがあるんだよ」「宇都宮で行く餃子のお店は、もう決めてあるんだ」「で、宇都宮駅からはグリーン車で帰ろうよ」……あんた、私プロデュースの旅をすっかりのっとろうってかい。
ま、実際、仙台は『き(漢字の「七」三つ)助』で食べた、牛たんつくねや牛たん炭火焼はおいしゅうございました。『ずんだ茶寮』で食べた、ずんだ餅プチ、ずんだシェイクともにおいしゅうございました。宇都宮で並んでまで食べた『宇都宮みんみん』のヤキ(焼餃子。これは、まじで、値段も味もびっくり)もおいしゅうございましたし、お土産用に4人前テイクアウト事件も、もろ手を挙げて大喜びです。そして、宇都宮線のグリーン車では、はい、すぐにおち(=寝)ました。でも、なんだろう、この不完全燃焼な感じは、なんなんだろう! 私、もっとできるんだよ!