『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
文=屋敷直子
ふたたび釜石線に乗って、遠野で降りる。といってもあまり時間はなく、運良く河童と会えたらいいなと思っていたら、いきなり駅前にいた。みな考えることは同じなのかもしれない。駅の近くは観光地然としていて、大型バスが大挙してやってくるような物産館くらいしかない。あたりまえだが、ほんとの河童がいるような場所は、そうかんたんにはたどりつけないのだ。
3日目の宿は、台(だい)温泉。花巻温泉郷のさらに奥にある温泉街で、600年前に発見されたとも、1200年前に坂上田村麻呂が入ったともいわれる、歴史ある温泉である。この旅の唯一の金銭的贅沢だけに気分も高まるが、宿へのバスが出ている新花巻駅で降りると、気持ちがしぼんだ。地方の新幹線駅にはよくあるが、街の中心から離れた何もない平地にぽつんと寂しい。さらに冷たい雨も降ってくる。その夜はずっと雨が続いた。
最終日。しとしと雨が降るなかをバスに乗って花巻駅へ向かう。バスはブルー×シルバーの骨董品で、乗客は我々のみ。天気のせいもあるが、温泉街全体にどことなく不穏な空気が流れていて、バスに乗るとどこか恐ろしいところに連れて行かれるような気がしてくる。
11時。無事に花巻駅に到着。せっかくなので、宮沢賢治記念館や童話村などを観光する。ふたたび花巻駅へもどったころには、だいぶ空は明るくなっていた。花巻から盛岡までは東北本線、久しぶりのロングシートで、なんだか急にリュックサック持参の己の姿が浮いて見える。ロングシートに旅姿は合わないと実感。3日ぶりの盛岡駅は、照明が明るくまぶしくて人が多い。旅の終わりを認めざるをえない。盛岡駅名物、〔こまち〕と〔はやて〕の職人技のまばゆい連結を見て、胸がきゅんとなる。集まっているのは、なぜか妙齢の女性ばかり。やはり増殖中、鉄子。