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鉄道が嫌いじゃない貴女におくる、女子力アップのヒント集『鉄子の部屋』 近頃認知度急上昇中なのが、女性鉄道ファン・通称“鉄子”。男性鉄道ファンに比べると、マニア度や緻密度においてはひけを取るかもしれませんが、情熱や遊び心は全く負けてない! 『鉄子の部屋』は全く新しい、女子のための楽しく明るい鉄道エッセイです。(注)鉄道が好きな女性を愛称で“鉄子”と呼びます。

*第11鉄* 3泊4日の長野欲ばりコース せっかく長野に行くのなら、あらゆる路線のあらゆる車両に乗らなくてはと思ったのだ。Part2

含まれる鉄分
★小海線 ★ハイブリッドこうみ ★JR鉄道最高地点 ★しなの鉄道 ★上田電鉄別所線 ★別所温泉駅 ★丸窓電車 ★長野電鉄 ★ゆけむり号(旧ロマンスカー)など

文=屋敷直子

駅と保存車両の素敵なコラボ

 3日目。願いむなしく、ぽつりぽつりと雨が降っている。チェックアウトぎりぎりの時間までねばってみるが、事態は好転せず、カサを持って温泉街を歩く。国宝の八角形の三重塔がある安楽寺、北向観音をお参りするうちに、雨が上がる。これも信心だろうか。雨上がりできらきらとまぶしい道を歩いて駅に向かう。

 念願の保存車両は、肝心の丸窓ガラスにヒビが入っていたりして、すこし残念なのだが、くすんだ配色といい、車内に飾ってある古い駅名表示や看板などといい、愛しい車両だった。1927年製造とは思えないモダンなつくりだと思う、会えてよかった。

 加えて、別所温泉の駅舎が驚くほどよく保存されていて、入り口の扉、ベンチ、窓枠など、すべて木造で深い歴史を刻んでいる。時間がそのまま経ってしまったのか、温泉地の駅として意図的に残しているのか、判断がつきかねるが、どちらにしても、とても風情のあるよい駅だった。ここに置いてもらって、丸窓保存車両もさぞうれしいだろうと思う。

 上田行きの電車は、復古調ではなく、ステンレスカーだった。発車時刻を過ぎても出発せず、しばらく待っていると、足がいくぶん不自由なおじいちゃんが、お風呂セットを抱えて慌てて乗り込んでくる。飛び乗ったのは、2両目の中ほど。でも、別所線はワンマンカーで、出入り口は先頭のいちばん前のドアのみ。そこでおじいちゃんは、電車が駅に停車するたびに、出入り口へ近づくべく、ちょっとずつ前進してくる。降りるまでに出入り口にたどりつけるだろうかと心配でたまらず、心の中で勝手に激しく応援する。路線の半分を過ぎたところで、ようやく出入り口に近い席までたどりつき、寺下駅で降りていった。湯治だったのだろうか。

展望席から天空へ飛び立つ

 上田から、しなの鉄道で長野。しなの鉄道は、すべるように走り、とても乗り心地が良く、正体なく眠ってしまう。

 長野からは、長野電鉄に乗る。ここには、小田急ロマンスカーが走っている。本家ではプラチナチケットとなっている展望席に陣取って、長野電鉄の線路と車道が平行して走るところを見てみたい。だからこの場合も、終点の湯田中温泉が目当てというよりは、展望席に乗ることが目当て、というほうが正しい。どんどん欲求が細かくなっていく。

 長野電鉄、通称ながでんには、特急が走っていて、それが旧小田急ロマンスカー10000形(HiSE)を譲渡された「ゆけむり号」。通常料金に100円プラスするだけで特急に、しかも運が良ければ展望席に乗れる。なんて良心的な路線だろう。指定席はないから、展望席も早い者勝ちだ。ここはひとつ、気合を入れて並ばなくては。
 発車30分前に地下ホームへ行くと、すでに老夫婦が1組、先頭車両付近にいらっしゃる。でも最前列はふたつあるからだいじょうぶ。あぶないところだった。ドアが開いて、意気揚々と最前列右に陣取る。

 長野から終点湯田中まで、特急で45分ほどの旅だ。しばらくは地下を走り、地上へ出て、村山駅の手前、千曲川を渡る鉄橋のところがハイライト。線路と車道が同じ目線で並走する。しかも電車はロマンスカー。ちょっと見られない情景である。身を乗り出して、不思議感覚を堪能する。小布施を過ぎると、沿線は、りんご畑、ブドウ畑、ソバ畑と、実りの風景が続く。正面を見ると、2本のレールがまっすぐ山のふもとに向かって延びている。ああほんとに気持ちいい。ほぼ180度の眺望。ひょっとすると空も飛べるかもしれない。ロマンスカーに乗って長野で鳥になる。妄想は果てしなく天をかける。

主な“鉄子”

神田ぱん
1963年生まれ。おひつじ座のO型。茨城県日立市出身。三児の母。ミニコミ『車掌』(内容は非鉄)の営業部員という顔も持つ。「ケータイ国盗り合戦」ではまだ武将止まり、目指せ太閤。文筆業。
屋敷直子
1971年生まれ。おとめ座のO型。川崎市生まれ、福井市出身。故郷を愛するあまり「ふくいブランド大使」に登録。会員番号05121359。特技はピアノ。0系新幹線ラブ。文筆業。
さくらいよしえ
1973年生まれ。てんびん座のA型。大阪府交野市出身。『日刊ゲンダイ』で連載。著書に『立ち飲み天国』(ライブドアパブリッシング)『読みキャベ』(交通新聞社)。転換クロスシート愛好家。文筆業。
H岩美香
1972年生まれ。しし座のA型。東京都目黒区出身。株式会社弘済出版社(現交通新聞社)入社後、時刻表編集部、月刊『散歩の達人』を経て、月刊『旅の手帖』編集部へ異動。忘年会はお座敷列車希望。サラリーマン。

書籍紹介

鉄子の部屋
『JR時刻表』『交通新聞』『鉄道ダイヤ情報』などでおなじみの交通新聞社が、満を持してお届けする、女子による女子のための鉄道エッセイ&ガイド本。
●定 価 1,365円(税込)
●仕 様 A5版160ページ

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