『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。
東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。土山しげる作画による『野武士のグルメ』マンガ版が幻冬舎より好評発売中。
池谷から鳴門(いずれも鳴門市)までの7駅。8.5km。全線鳴門市内を走る路線だが、高徳線へ直通運転しており、徳島方面へ行くのが容易。終着の鳴門駅からバス20分の鳴門観光港からは観潮船も出る。
徳島に行った。鳴門(なると)線。始発駅から終点まで8.5km。楽勝で全線つたい歩きできる。たった8.5km線路につたい歩きするだけのために飛行機で徳島に行くのだ。徳島といったら阿波踊りと鳴門ワカメくらいしか思いつかない。ただ線路沿いを歩いて、何か得るものはあるだろうか。あるんです必ず。
歩く前の晩、徳島入りして、徳島ラーメンを食べた。どうも県をあげてこれを押しているらしい。九州ラーメンに似ているが、もう少し味が濃くて、チャーシューの代わりに豚バラがのっている。おいしかった。お隣はうどん王国香川なのに、ずいぶん違う。そのあと居酒屋に行き「フィッシュカツ」を食べた。白身魚のフライと思いきや、おでんのつみれのような、魚のすり身の薄いものを、カレー味を少しつけて揚げたもの。徳島のソウルフードだそうだ。これが駄菓子っぽいおいしさで、ビールに合う。
翌日はホテルの温泉で朝風呂に入って朝食をとり、余裕しゃくしゃくで高徳線の2両列車に乗り、池谷(いけのたに)駅に向かう。途中渡る吉野川の川幅がすごい。そしてここに渡された長い鉄橋がいかにも鉄の橋、というクラシックで絵になる。ここは外から見たい気持ち。
そして池谷駅。乗り換えの陸橋の上に行っただけで、その風景に感激した。田んぼと野原と菜の花。日本の春だ。のどかという言葉を絵にして広げたようだ。そのまんなかに単線が4本に分かれる線路を敷いてある。
振り返ると、民家の屋根が重なり合っていて、その向こうに低い山が連なっている。池谷駅は小さな無人駅だが、屋根は瓦葺きだ。
本当に天気がよくて、山には桜がまだわずかに咲き残り、新緑と混じってつづれ織りのようだ。線路は道とほとんど同じ高さで、間には柵も何もない。そこには雑草に混じって近隣の人が植えたであろう色とりどりの花が咲いている。スバラシイ。歩きながら、「のどかだなぁ」と本当に声に出してつぶやいた。
線路の間でオレンジ色のパンジーがそよ風に揺れている。枕木の間の雑草までが輝いている。歩き始めて、もう来てよかったという幸福感に包まれている。春の若々しい生命感とふくよかな包容力。