『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。

久住 昌之 Kusumi Masayuki(文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。文庫版『ひとり飲み飯 肴かな』(日本文芸社)発売中。

いすみ鉄道 いすみてつどう

上総中野(大多喜町)から大原(いすみ市)までの26.8km、14駅。かわいらしい車両と、全線を通じて見られる菜の花が人気のローカル線。
今回は大多喜から国吉までから足を延ばし、上総東まで歩いた。

 電車の時刻がきたのに、電車が来ない。無人でアナウンスも何もないから不安になる。1分遅れて、線路の音がして、列車は現れ、ホームに静かに停まった。ベルも何もない。ドアが開いたので乗り込む。その無言の一連が、列車に乗ってから思い返して新鮮でよかった。都会では「♪ピンポンパンポーン 間もなく○番線に○○行きの電車が参ります。黄色い線の内側でお待ちください」、とか録音アナウンスが流れ、さらに駅員が生の声でアナウンスして、発車のメロディが「♪チャンチャラリンコンポロロンローン」なんつって、「○番線ドアが閉まります」、って考えてみたら、なんてウルサイんだろういちいち。そういうのを疑わなくなっていた。だが、この無音の駅のシンプルさに、本来乗客は「自分で注意する」ものだ、ということを思い出した。日本の駅は、安全のためとはいえ、少しおせっかい過ぎる傾向があるようだ。


大原駅前の食堂で焼きそばとビールで時間つぶし。ウマイ

 列車の乗客は朝よりぐっと少なかったが、やっぱりこの列車はのんびりして楽しい。ふた駅で終点の大原だったが、途中トンネルもあったので、無理して大原まで歩かなくて正解だったと思う。大原駅にはすでに外房線が来ていて、急げば乗り込むこともできたが、1本次ので帰ることにして、駅前の「創業昭和元年」という食堂に入る。店舗は建て替えられてまだ新しい。店員はオジチャンとオバチャン。テレビもついてる。こうでなくちゃ。焼きそばとビールを頼んだ。焼きそばはビールのアテにもなる。次の電車まで1時間以上あるのだ。ゆっくり飲み食いして休もう。この焼きそばが昔ながらの味で、おいしかった。

※「旅の手帖」2015年6月号より掲載しました。

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