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久住 昌之 Kusumi Masayuki(文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。文庫版『ひとり飲み飯 肴かな』(日本文芸社)発売中。

左沢線 あてらざわせん

北山形(山形県山形市)から左沢(大江町)までの24.3㎞、11駅。6月上旬?7月中旬に旬を迎えるサクランボをはじめ、8月のモモ、9月のブドウ、10月のラ・フランスなど果樹栽培が盛んな地域。今回は左沢から寒河江(寒河江市)まで歩いた。

 もう間違わないぞ、心に思う。前は意地でもGPSなど使わなかったが、今日のような雨に降られるおそれもあるときは、意地だの言っていられない。というか、たくさん歩き、心が機械に頼らない自信ができたので、使う時は使う。意固地もつまらない。

 途中、1本裏通りの細い道を歩く。農家が多い。家々の前を流れる用水路の水の音が耳に心地いい。だが、電柱に「熊出没中キケン」の看板を見たときはちょっとビックリ。こんな場所に? 目の前に出てきたらどうすればいいんだ?


「のむか」と読むのかと思って近づいたら「のむべ」。
さすが山形県だべ

 また県道に戻ったらバス停があり、寒河江行きは1日に平日7便、土日は4便だった。やはり1人車1台なのだろうか。熊出るし。道沿いに「呑夢可」という居酒屋の看板が出ていて「のむか」と読むのかなと思って近づいたら「のむべ」とフリガナがあったので笑ってしまう。そういえば前夜、居酒屋で隣の客が「梅雨入ったべ?」と言っていた。


ネット越しに撮ったサクランボ。まさに旬。
ビニール屋根は雨よけだった

 また水田とビニールハウス。ハウスというよりビニール屋根という感じ。下の方はネットになっている。それがサクランボ用。でも、なんというか「余っている土地」みたいなのもずいぶんあった。平地だが、ただ荒れている。草ぼうぼうの広大な空き地。


サクランボ直売所。ピンクの飾りがカワイイ。
中におばちゃんがギッシリ

 とうとう「サクランボ直売所」も現れた。中にオバチャンがたくさんいる。サクランボを表したピンクの風船がカワイイ。

 また線路とぴたり並んだ道になった。だが左沢線は1時間に1本あるかないかだ。今回は途中で列車に出会えないかもしれない。雲が多いがまだ雨の気配はない。暑くなってきた。だが傘を持っていないのが今さら不安になってきた。今日歩き始めた頃、1軒だけコンビニがあったのに、買い忘れた。またあるだろうと思ったが全然ない。不安で足が速まる。できるだけ遠くまで歩きたい。

 西寒河江駅に到着。時計を見たらもう12時18分ではないか。予報では100%雨、それも雷雨の時間帯だ。やはり晴れ男なのだ。しばらく前から腹が減っていて、山形名物の冷やしラーメンか、冷たい肉そばというのが食べたいと思っているのだが、飲食店にも1軒も出会わない。

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