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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。

大鰐線 おおわにせん

大鰐駅(青森県大鰐町)から中央弘前駅(弘前市)までの13.9㎞、14駅を結ぶ。 大鰐温泉と弘前市街をつなぐ路線はJR奥羽本線もあり、一時は廃線の検討もなされたローカル線である。

 JRの大鰐温泉駅は駅舎も新しく、スキー板を持ってVサインを出してるピンクのワニのモニュメントが立っているが、弘南鉄道大鰐駅はその横で小さく粗末で、ちょっと気の毒になった。でも跨(こ)線橋は古くてクラシカルでカッコイイ。

 駅から離れた場所にポツンと、しかし超目立つ存在感でスイスとかドイツを思わせる家が建っていた。近づくと「シュバルツバルト」というスイーツレストランだった。きっと有名。時間があったらお茶したい店だったが、こっちはまだもやしラーメン腹だ。


ものすごく目立つスイーツレストラン・シュバルツバルト。
自宅も同系デザイン

 少し歩いたら、初のリンゴの木が現れた。うわー、真っ赤なリンゴがたわわに、無防備に、すぐそこになっている。手を伸ばせば、1個もいで食べながら歩ける、なんて思ってしまう。青空が広がった。リンゴが一段と映える。


1本の木にこんなにリンゴってなったっけ?
というぐらいこれでもかと真っ盛り

 次の宿川原(しゅくがわら)の無人駅にはすぐ着いた。駅間が超短い。極小の駅舎を、リンゴの木と一緒に撮ってみた。本当に今が旬という感じ。リンゴ、もっと山にあるものと思っていたが、車道脇に柵もなくたくさん植わっている。木になっているリンゴは特別にカワイイ。


リンゴなめで宿川原駅を撮影。
淋しい無人駅も、リンゴがあるだけでイイ感じに

 そこを越えると刈り取られたあとの水田と干された稲、その向こうに低い山々。実をつけた柿の木が見える。これで焚き火の煙でもあれば、完璧なニッポンの秋。と思ったところで踏切の音。いいところに列車がやって来た。銀色の2両車。フロントはエメラルドグリーンと深緑の間に白いラインが入っている。この風景にステンレス車体が惜しい。エンジ色とか焦茶色だったら、もっと絵になったなぁ、とか勝手に想像する。


野菊などの花が咲き、線路を挟み、
向こうにリンゴがたわわになっている幸福感

 また道が線路に近づく。柵はなく、そこに黄色い野菊が咲いている。白い花、ピンクの花も。そして線路の向こうにはリンゴがいっぱい。なんてファンタジックな線路だろう。弘前を歩くにはドンピシャリ、最高の時期に来たようだ。

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