愛知県豊橋市と長野県辰野市を結ぶローカル線がJR飯田線です。同線には多くの木造駅舎があります。愛知、静岡、長野3県の県境間近にある小和田（こわだ）駅もそのひとつ。豊橋駅から初電に乗った私は、2時間以上かけやっと山間の駅にたどり着きました。トンネルとトンネルの間の小和田駅は、秘境駅として知られています。駅舎は飯田線の前身で三信鉄道時代の昭和11年に建てられました。かつて、駅の周辺には雑貨屋や小さなお茶の工場がありました。現在地元の利用者は、近くに住んでいる一家族と郵便屋さんで、あとは秘境駅ファンが降りるくらいです。数少ない利用者の宮下茂正さんは「昭和14年からこの駅を利用しているよ。以前はこの近辺には集落があり賑わっていた」と話しながら電車に乗り込みました。ホームからは満々と水を湛えた天竜川も見え、自然を堪能できる駅です。

　天竜川の下流にあるのが、静岡県の西部を走る天竜浜名湖鉄道です。この鉄道の中心駅が天竜二俣（てんりゅうふたまた）駅で、今でも開業当時からの木造駅舎が大切に使われています。駅からは車両基地が見えます。SL時代から使われてきた転車台や木造の扇形機関庫、そして運転区の建物などは、戦前からほとんど変わらぬ貴重なものです。現在は国の登録有形文化財に指定されています。平成21年の夏から始まった見学会は大人気で、全国から多くのファンが訪れました。駅舎と共に天浜線の名物となっています。

　長野県長野市と塩尻市を結ぶJR篠ノ井線。長野方面から急勾配を登ってきた列車は、スイッチバックして姨捨（おばすて）駅に到着します。洒落た西洋風の木造駅舎が迎えてくれます。昭和45年に無煙化されるまで、ここは難所のひとつでした。駅の待合室には煙を上げて走るD51の写真が飾られています。何より素晴らしいのは、ホームから見える善光寺平の眺望です。廃線となったJR根室本線の旧線から見た狩勝峠、JR肥薩線矢岳駅付近からの景色と共に日本三大車窓に数えられています。特に夜は絶景で、列車の出発時間を忘れてしまうほどです。必ずまた訪れたくなる駅です。