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左:甲府で麦酒会社を始めた野口正章氏。西洋好きが高じて、ビール醸造に傾倒。その熱意で質の高いビールを作り上げた
右:野口氏が作った三ツ鱗麦酒のラベル。ペールエールの味は、明治8年の京都博覧会で銅賞に輝くほど評判となった 写真提供:野口忠蔵氏
地ビールフェスト甲府の試飲券(5枚)+オリジナルグラスセットは、前売り1,200円、当日1,400円で販売
地ビールだけで約30種類も揃う10日間の祭典。山梨県産の野菜や肉を用いた料理や、山梨ご当地サイダーも登場する
「Four Hearts Cafe」は、「ワインツーリズムやまなし」を企画する大木貴之氏が営む。提供される山梨のワイン、ビールには希少な品も少なくない。
明治初期、舶来のビールに夢を馳せ、情熱を注いだ青年が甲府にいたことをご存じだろうか。
日本で初めて商用ビールが作られたのは明治3年(1870)のこと。アメリカ人の醸造技師、ウィリアム・コープランドが文明開化に沸く横浜の外国人居留地で、スプリング・バレー・ブルワリーを設立し、本格的なビール醸造が始まった。外国人相手の醸造だったが、やがて日本人のなかにもビールに着目する者が現れるようになる。その一人が、甲府で酒造業を営んでいた「十一屋」の五代目、野口正章だった。
西洋文化を愛した野口は、コープランドを甲府に招き、ビール醸造の技術を習得。大阪の渋谷庄三郎に次いで、明治7年(1874)、東日本で初めての麦酒会社「三ツ鱗麦酒」を立ち上げた。
新聞広告を打ち、評判も得たが、醸造道具や、ホップや麦芽などの材料を輸入に頼ったため、借財がかさみ、内情は苦しかったようだ。黎明期の麦酒会社が次々と畳むなか、三ツ鱗麦酒は私財を投じてふんばり続けたが、それでも明治34年(1901)にやむなく事業から撤退。甲府での地ビールの歴史はあえなく幕引きとなる。
それでも、工場で働いていた優秀な醸造士たちは全国各地へ散り、その後のビール産業に貢献したと伝わっている。
時は流れて平成6年(1994)、酒造法が規制緩和されると、ビール醸造は小規模生産が可能となり、各地で地ビールブームが巻き起こった。
山梨もご多分にもれず、平成7年(1995)に、勝沼の「大和葡萄酒」がワイン醸造の技術を応用して「甲斐ドラフトビール」を開始。現在、県内には、日本最高峰のビール職人・山田一巳氏の技を受け継ぐ清里の「八ヶ岳タッチダウン」、世界が認めるビアコンテストで連続受賞する河口湖の「富士桜高原麦酒」、富士の天然水を用いる富士吉田の「ふじやまビール」と、個性的な地ビールが集い、注目されている。
さらに昨年2012年、甲府に「アウトサイダーブルーイング」が登場。地場産の桃を用いた山梨ならではの味も生み出され、ビアファンを狂喜させている。
同年、上記の県内地ビールメーカー全5社を一同に集めたイベント「地ビールフェスト甲府」も始まった。10日間繰り広げられるフェストでは、各社の多彩なクラフトビールに加え、静岡の「御殿場高原ビール」、大阪の「箕面(みのお)ビール」も参加。 今年も真夏の甲府駅前で開催される。
樽生のフレッシュな味わいは、香味、苦み、甘み、喉越しがまさに千差万別で、飲み比べこそが醍醐味だ。だが、アルコール度数が高めなものも少なくないため、とても全種類を制覇することは難しい。
そこでおすすめなのが、試飲券(5枚)だ。オリジナルの試飲グラスは50mlゆえ、飲みすぎの心配はなし。また、付属の投票券でお気に入りの1杯に1票を投じて、甲府地ビール王を選出する「地ビール総選挙甲府2013」に参加することだってできる。
ちなみに昨年の王は「富士桜高原麦酒」。はたして今年は、どこが栄冠を勝ち取るのか。グビグビ飲みながら見守りたいものだ。
さらに、フェストを終えても地ビール発信は終わらない。
市内で地ビールを取り扱う「Four Hearts Cafe」では、常時、富士桜高原麦酒、八ヶ岳地ビールタッチダウンの樽生が飲めるほか、少量生産で希少な山梨産ワインも楽しめ、山梨産の情報発信地となっている。
また、甲府駅前には今年6月、デザイナーのナガオカケンメイ氏が手掛ける洒落た雰囲気の「D&DEPARTMENT YAMANASHI」もオープン。 デザイン性も高い山梨オリジナルの食やグッズが並ぶなか、併設のカフェでは山梨県産の地ビールがいつでも味わえる趣向だ。
山梨ならではの地ビールを味わい尽くすなら、今、甲府が熱い、のだ。
富士桜高原麦酒のヴァイツェンはイギリスで開催された「ワールドビアアワード2012」で金賞受賞
甲斐ドラフトビールのピルスナーは夏季限定で喉をすっきり潤してくれる
八ヶ岳地ビールタッチダウンのロック・ボックは、重厚な麦芽の旨味があり、ファンを唸らせている
ふじやまビールのピルス。富士の超軟水が用いられ、するりと喉元を滑りゆくよう
アウトサイダーブルーイングのピーチシードル。山梨県産の桃の酵母を用い、香り芳醇
県内の5醸造所が勢揃いするビールの祭典が、甲府駅北口よっちゃばれ広場で10日間繰り広げられる。山梨の郷土料理や特産品とともに、音楽あり、踊りあり。7月26日(金)~8月4日(日)開催。16:30~21:00(土・日は11:30~)
年に3回開催される「第2土曜市+マルシェ」は、山梨特産の食材、料理、ジュエリーなどの約40もの露店が連なる。8月はビールフェスも同時開催。県内5醸造所に加えて東北の地ビールも提供。8月10日(土)11:00~20:00LO
砂糖と醤油の甘辛いタレを絡めた鳥もつ煮は、昭和25年頃、甲府市の「奥藤本店」で発案。以来、県内の幅広い世代に愛されている。柔らかなレバー、コリコリのハツや砂肝、ふっくらしたキンカン(正式名は玉道)の濃厚な旨みはそばと合い、酒の肴にも向いている。
■奥藤本店 甲府駅前店
鳥もつ煮:小500円
甲府鳥もつセット1,180円(鳥もつ煮小、そば、半ライス、一品、香の物付き)
営業時間:11:00~14:15LO・17:00~20:15LO、無休
住所:山梨県甲府市丸の内1-7-4
交通:JR中央本線甲府駅南口から徒歩2分
TEL. 055-232-0910
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山に抱かれた甲府盆地、実は夜景もウリ。星空に負けじと市街の夜景が地上できらめき、つい見惚れてしまう。市内各所に展望台はあるが、県立科学館なら甲府駅から徒歩圏内。闇に溶ける富士山も夏は登山客の夜間照明で姿が浮かび上がる。夏の夜だけの光景だ。
■山梨県立科学館屋上展望テラス
入場料:無料
展望テラスは終日開放
住所:甲府市愛宕町358?1
交通:JR中央本線甲府駅から徒歩25分
TEL. 055-254-8151
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夜景全般の問合せ:TEL. 055-237-5702(甲府市観光課)
甲府市中道地区はトウモロコシの「きみひめ」をはじめ、桃、スモモ、ブドウ、梨の一大生産地。「風土記の丘 農産物直売所」では果実の直売のほか、きみひめを郷土料理おざら(冷製ほうとうの異名あり)の麺に練り込んだ、もろこしおざらも食べられる。
■風土記の丘 農産物直売所
もろこしおざら450円
8月10日(土)にはフルーツ祭りも開催。
住所:甲府市下曽根町1063-1
交通:JR中央本線甲府駅から山梨交通バス75系統豊富行き「間門」で下車、徒歩1分。
TEL. 055-266-3858
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