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『東野リキュール製造場』では、6月1~7日頃、すっきり爽やかな味わいの「竜峡小梅」という品種を漬け込む。以降、濃厚な風味の「鶯宿梅(おうしゅくばい)」、さっぱりした「白鶯梅(はくおうばい)」と続く
フレッシュな梅の香りを重んじる『東野リキュール製造場』の仕込み風景。対して『農事組合法人 フジ』では梅の仁のエキスが十分出るよう3年熟成させる古酒の手法をとる。どちらも収穫後すぐに仕込んでいるので香気が素晴らしい。3年古酒は今年のイベントで初解禁!
今年「第5回美郷梅酒まつり」の開催は2013年11月23日(土)~24日(日)。当日は阿波山川駅から、総合案内所の『美郷ほたる館』まで無料シャトルバスが運行する。各酒蔵および民宿へはマイクロバスがシャトル運行する。まずは協賛店で梅酒クーポンを購入しよう
毎年、2日間の開催で2,000人ほどを集める「美郷梅酒まつり」。5周年の節目の今年は、約3,000人の来場を見込む。客層は20~60代以上と幅広く、女性が多い
左から『東野リキュール製造場』の「紅竜峡」「白竜峡」「高越山(こうつざん)」。『農事組合法人フジ』の「美郷竜峡」「美郷鶯宿」「美郷月世界」。『大畠酒造』の「ほたるの宿(辛口)」「純情梅酒(甘口)」。『アワグラス』の「ムーンフラワー」「ウメコロロ」。各2,500円(500ml)
徳島県吉野川市の美郷(みさと)地区は四国きっての梅の産地。古くから梅の生産が盛んに行われてきたが、現在は、安価な輸入品による価格の低迷、さらには後継者不足といった問題に直面している。残る専業農家は10軒ほど。その数は減少の一途をたどっている。
こういった現状を打破すべく、掲げられたのが「地域で梅を生産し、地域で梅を消費(購入)する」という“地産地消モデル”だ。地場産の梅を使った梅酒で町を盛り上げようと「梅酒特区」を申請し、2008年7月に全国で初めて認定を受けた。同時期に認定された梅酒特区として、和歌山県みなべ町がある。
そもそも、“梅酒特区”とはなにか。
本来、酒類製造免許を取得するには最低製造数量基準として年間6,000リットルの生産が義務付けられている。ところが、梅酒特区内で生産された梅を原料に使い、同区内で梅酒(リキュール)を製造した場合には、最低製造数量基準が年間1,000リットルに引き下げられるという特例措置が適用される。つまり、少量生産の小規模事業者でも、特区内であれば酒類製造免許を取得できる、というわけだ。
特区に認定されたことで、それまでは自家製で梅酒を楽しむ程度だった美郷地区に、梅酒の「酒蔵」が参入(2013年現在全4軒)。2008年に先陣を切って製造免許を取得したのが、『東野リキュール製造場』だ。うたい文句は、“日本で一番小さな酒蔵”。家庭用の8リットル瓶で300本以上(年によっては約600本)の梅酒を手仕込みしている。
梅酒の仕込みは年に1回。6月の青梅の収穫時期に合わせて、2週間ほどの期間で集中的に作業を行う。日中に収穫された梅は、梅農家によってその日の夕方頃から夜にかけて、品種ごとにサイズや色で選別される。選別された梅を、蔵人はすぐに酒蔵へ持ち帰り、明るくなるまでに洗浄。朝日が当たらないように陰干しで梅の表面を乾かしたら、午前中で一気に漬け込み作業を完了させる。
収穫から漬け込みまでの作業は24時間以内が目安。収穫されたばかりのフレッシュな梅は、かくしてホワイトリカー(焼酎)、氷砂糖とともに漬け込まれていく。
ちなみに『東野リキュール製造場』では、8月ぐらいに一度だけふたを開けて溶け残った氷砂糖を撹拌するそう。これ以外は、一切ふたを開けずに11月までじっくり熟成させる。タイミングや頻度の差こそあれ、一度漬けた梅酒は、どの酒蔵もほとんどさわることはないそうだ。
こうしてできあがった“新酒”をお披露目するのが、今年で5回目の開催を迎える恒例の「美郷梅酒まつり」だ。『東野リキュール製造場』をはじめ、古酒が売りの『農事組合法人フジ』、どこか懐かしい味わいの『大畠(おおばたけ)酒造』、スタイリッシュな味づくりを意識した『株式会社アワグラス』の4つの酒蔵が、自慢の梅酒をイベントに合わせて解禁する。この日に限っては、普段は宿泊客にしかふるまっていない3軒の民宿『きのこの里』『木の夢ととり』『染工房どこも山』の梅酒も試飲することができる。
梅酒のほかに、各店ではつまみや食事系メニューのふるまいや販売ブースを設置。『東野リキュール製造場』では、ゆず味噌の味噌汁のふるまいや、焼き鳥、イカ焼きなどを販売する。民宿『きのこの里』では、よく干した梅干しを使った“梅カレー”や自家製しいたけ、『木の夢ととり』では、手打ちそばや新鮮野菜のバーベキューを扱う予定だ。
これまでは各酒蔵でオリジナルの梅酒を製造してきたが、今後は“これぞ美郷梅酒”という統一銘柄を設け、全店で生産、販売していきたいとのこと。地区全体の梅酒製造量を増やして販路を拡大、美郷ブランドの梅酒をさらにPRしていこうという狙いだ。
5周年を記念して開催する「美郷梅酒特区統一銘柄利き酒会」では、統一銘柄のパイロット版3種を出品。消費者の反応を見ながら“美郷梅酒”を決定し、来年の「美郷梅酒まつり」で披露したいと考えている。
イベントの参加料金はクーポン制で、クーポン1枚でグラス(約60㏄)1杯の梅酒と交換。毎年5枚綴り1,000円(前売り券)のところを、今年は5周年記念で、同料金6枚綴りとおトクな設定(当日券は1,200円)になっている。各酒蔵や民宿に予約の電話を入れれば、前売り券を確保してくれるそうなので、あらかじめ一報を入れておくといい。クーポンは協賛店の『美郷物産館』『美郷ほたる館』でも販売。このほか、蔵や民宿をはしごすると抽選で景品が当たるスタンプラリーも実施する予定だ。
梅の品種はもちろんのこと、ホワイトリカーと氷砂糖とのバランスや漬け込む期間によって、味わいに個性が生まれる梅酒。1つの蔵でいろいろな味を試したり、はしご酒で飲み比べながら、節目の「美郷梅酒まつり」を楽しんではどうだろう。
中山間地域にあたる美郷地区は、昼夜、季節の寒暖差が大きく、険しい土地。そんな厳しい気候、風土で育った梅は、酸味や甘み、香りなど、品種の特徴が際立つという。「温度差の少ない平坦な土地で育った梅よりも、個性が出やすいんですよ」と東野さん。
美郷地区で栽培されている梅は主に8種類。酸味の強いもの、甘みが強いもの、果肉が多いもの、皮がやわらかいものなど、品種ごとに特徴が異なり、梅の個性がそのまま梅酒の個性となっている。そんな風味の異なるバラエティ豊かな梅酒が揃うのも美郷地区の特徴だ。
梅の実に含まれる水分は、揮発性の高い香気と共にどんどん蒸発していく。梅の重さにして1日で最大1%も減少するとか。そのため、美郷地区の酒蔵では収穫後24時間以内に梅を漬け込むことを心がけている。どの梅酒からも、深い梅の香りを感じるのはこのためだ。
急峻な斜面を段々畑や宅地として使うために「石積み」が発達。その光景は「にほんの里100選」にも選定されている。春はシバザクラで美しく彩られる石積み。冬はライトアップによる光の演出で幻想的な表情を見せる。
■高開(たかがい)の石積み
住所:徳島県吉野川市美郷字大神
交通:JR徳島線阿波山川駅から吉野川市代替バス(宮倉回り)で約15分の「平」下車、徒歩約15分
TEL.0883-43-2888(美郷ほたる館)
ライトアップ:2013年12月14日(土)・15日(日)17:00~21:00
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梅酒のお供にぴったりの「梅のし」は、完熟梅の果肉を砂糖で煮込んだ甘酸っぱい菓子。このほか、定番の「梅干し」や「梅肉」はもちろんのこと、希釈してジュースとして楽しむ「梅シロップ」や「梅ジャム」などもそろう。
■美郷物産館
営業時間:10:00~17:30、年末年始休
住所:徳島県吉野川市美郷字峠463-3
交通:JR徳島線阿波山川駅から吉野川市代替バス(宮倉回り)で約10分の「物産館前」下車すぐ
TEL.0883-26-7888
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5月下旬から6月下旬はホタルの季節。「美郷ほたる館」の周辺には、自然発生したゲンジボタルが乱舞する。毎年6月上旬の「ほたる祭り」開催時には、入館者を対象にした、ホタル観察ツアーを行っている。
■美郷ほたる館
入館料:高校生以上200円、小学生以上100円
開館時間:9:00~16:30
休館日:火曜(祝日の場合は翌日)、年末年始
住所:徳島県吉野川市美郷宇宗田82-1
交通:JR徳島線阿波山川駅から吉野川市代替バス(宮倉回り)で約15分の「ほたる館前」下車すぐ
TEL.0883-43-2888
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