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7社8蔵で焼酎を醸す、いちき串木野市。家族経営の小さな蔵もあり、仕込み方もそれぞれに一家言あり。その味わいの違いは、飲み比べて知るべし。
明治8年(1875)に酒造法が制定され、全国の蔵は酒類製造営業免許鑑札を国から受けて営業した。藩政時代に創業した「若松酒造」への免許は明治13年に発行され、同社は現存最古の鑑札を保有する。
鹿児島のうまかもんを集めた、鹿児島屈指の「いちき串木野づくし産業まつり~地かえて祭り~」と「鹿児島うんまかもんフェスタ2014 in いちき串木野」。10月25日(土)には「串木野花火大会」も催され、祭りを華やかに彩る。
「濵田酒造」の「傳藏院蔵」では年に一度、新酒まつりを開催。祭り以外でも、平日8:00~17:00なら要予約で蔵見学可能。
鹿児島は言わずと知れた薩摩焼酎の里。薩摩焼酎とは、鹿児島県産のサツマイモと水を用いて、県内で製造から瓶詰めまで行なう本格焼酎のこと。鹿児島には100余りの蔵があるが、そのうち7社8蔵が集中するのがいちき串木野市だ。
この地で焼酎の歴史が幕を開けたのは、享保4年(1719)のこと。『湊の酒屋』という屋号で創業したのが、「若松酒造」の初代、若松弥右衛門(やえもん)氏だ。当初は米焼酎を中心に造っていたが、明治33年(1900)頃、鹿児島県日置市の伊作(いざく)で市販用芋焼酎の製造が始まると、明治42年頃、市来(いちき、旧・市来町)湊町でも「松崎酒造」の初代・松崎吉次郎(きちじろう)氏が芋焼酎の製造に成功。一気に芋焼酎文化が花開いた。
そもそも、この市来は江戸時代より薩摩街道の宿場町として、九州各所からの船が往来する地。しかも良質な地下水が豊富で、醤油などの醸造蔵が集まっていた。明治以降には、今も現存する酒蔵が続々と建てられたという。
やがて、芋焼酎のアテに合うようにと、甘い味付けに仕上げた「つけあげ(さつま揚げ)」がこの地で生み出された。さらにここは、大正期より遠洋マグロ漁業の基地でもある。漁師たちを中心に、“だれ(疲れ)”を“やめる(終わりにする)”よう、焼酎で晩酌する“だれやめ”が盛んに行なわれるようにもなり、人々の暮らしに焼酎文化がしっかり根付いていった。
サツマイモの収穫とともに始まるのが焼酎の仕込みだ。9月より、各蔵では一年で最も多忙な時期を迎える。使うサツマイモは主に南薩産だが、なかには丹精込めて自家栽培した「黄金千貫(コガネセンガン)」を使う蔵もある。
甕(かめ)壷を自慢の地下水で満たし、室(むろ)で育てた米麹を加えて一次発酵させ、さらに穫れたてを蒸かして粉砕したサツマイモを加え、二次発酵。ゆったり醸してから蒸留する新酒は、9月下旬よりお目見えする。
12月頃まで続く仕込みの時期には、全8蔵中6蔵で仕込みの様子を見学することが可能。しかも新酒を試飲できるのは、この時期ならではの醍醐味。蔵巡りをじっくり楽しみたいものだ。
また、10月25・26日には、いちき串木野の農水産物が一堂に集まる産業まつりが行なわれる。それに合わせて濵田酒造「傳藏院(でんぞういん)蔵」では、新酒まつりを開催。新酒が振るまわれるうえ、祭り限定の焼酎も供される。ライブ、ステージイベントなどを眺めながら、ほろ酔い気分になれること請け合い。
隣接する産業まつり会場で、特産のマグロやつけあげなど、鹿児島の“うんまかもん”からアテをみつくろえば、いちき串木野の焼酎文化を存分に体感できる旅になるはず。
【いちき串木野づくし産業まつり~地かえて祭り~・新酒まつり】
日時:2014年10月 | 25日(土)9:00~21:00(新酒まつりは~17:00) 26日(日)9:00~17:00(新酒まつりは~16:30) |
場所: | 産業まつり 串木野新港隣接会場(いちき串木野市西薩町16) 新酒まつり 傳藏院蔵(いちき串木野市西薩町17-7) |
問合せ: | いちき串木野市観光交流課 TEL.0996-32-3111 濵田酒造 TEL.0996-36-5771 |
白石酒造は明治27年(1894)創業。石室の中で室蓋(むろぶた)を用いた昔ながらの麹造りに始まり、一次、二次甕(かめ)仕込み発酵。また、自社農場で無農薬・無肥料で栽培するサツマイモを用いる。25度の「天狗櫻(ざくら)」1800ml 2360円で、芋の旨みを存分に味わいたい。仕込みの見学:9~12月の9:00~17:00(蔵見学は通年)。要予約、無料。仕込み時期以外は日曜・祝日・第2・4土曜休み。
金山蔵は、総延長120kmにも及ぶ元串木野金山(きんざん)の坑洞の一部を利用。一年を通じて一定温で、甕での仕込みや貯蔵に最適な蔵を、トロッコに乗って見学できる。「金山蔵坑洞内甕貯蔵」720ml 1620円~、「熟成と共に福来たり」720ml 7560円をおみやげにしたい。蔵見学:通年。トロッコ料金720円、10:30~15:30で60分ごとに運行。水曜休み(2015年1月より火曜休み)。
伝兵衛蔵は明治元年の創業以来、伝統の仕込み技を受け継いでいる。一次発酵させた甕壷に加えるのは鹿児島県産のサツマイモ「黄金千貫」。2週間かけて発酵させ、木桶蒸留器で焼酎を抽出する。芋の風味を引き出した「伝」、「宇吉」は各720ml 1543円~。併設のお食事処でも飲むことができる。蔵見学:通年の9:00~17:00、1月1~3日休み(お食事処は月曜、12月31日~1月3日休み)。
大和桜酒造は嘉永年間(1848~54)の創業以来、木製の室蓋で少量ずつ造る手作り麹と、全量甕壷仕込みをひたすらに守り続ける。一次、二次と仕込み、ていねいに醸して、小型蒸留器で蒸留。「大和桜」1800ml 2365円は、穏やかな甘みと芋の風味が上品な味わい。仕込みの見学:10~12月の10:00~17:00(蔵見学は通年)、要予約、無料。日曜・祝日休み。
いちき串木野市の地下を流れる水は、徐福伝説のある霊峰冠岳(かんむりだけ)の伏流水。良質な水が豊富なため、各蔵では地下水を独自に取水し、仕込み水として使用。蔵が市来湊地区に集中したのも、醸造に欠かせない水があったからこそなのだ。
市内の蔵数は8蔵と霧島に次いで2番目だが、人口3万人に対する蔵数は鹿児島一の密集率。市来地区はもともと宿場町で、串木野は金山もあり、今は遠洋マグロの船隻数日本一の地。時代は変われど人が集う町だったことが、晩酌を定着させ、酒蔵を支えてきた。
祝い事や祭りはもちろん、ふだんの“だれやめ”に欠かせない焼酎。市では平成25年6月27日、日本で初めて「焼酎で乾杯条例」を施行。公的な場での乾杯にとどまらず、酒好きの人が集まる場でも、地元焼酎で乾杯するよう協力を仰いでいる。
江戸時代、薩摩藩が統治した琉球の食文化にあった「チキアゲ」。これがなまって「ツケアゲ」となったとか。串木野では旬魚に豆腐と地酒を加え、ふんわり甘めなのが特徴的。「勘場(かんば)蒲鉾店」では、地元の旬魚を用い、甑(こしき)島のミネラル豊富な海洋深層水で口当たりなめらかに仕上げている。
■勘場蒲鉾店 本店
つけあげ(5枚入り):386円~
時間:8:00~18:30
休み:元旦
交通:JR鹿児島本線串木野駅から徒歩約11分
住所:いちき串木野市旭町40
TEL. 0996-32-4423
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約100年もの歴史を誇るマグロの町に2013年12月、新名所が誕生。マグロ漁の漁船を模した館は、1階が物産館、2階には水産会社直営の「まぐろ料理専門店 松榮丸」が。マグロ大カマ焼定食(写真、1404円)も味わえる。毎週土・日曜・祝日の夜には館壁面をスクリーンにしたプロジェクションマッピングショーも開催。
■薩摩串木野まぐろの館
住所:いちき串木野市八房3141-1
時間:物産館10:00~18:00(土・日曜・祝日は~18:30)、「まぐろ料理専門店 松榮丸」11:00~15:00、17:00~21:00(土・日曜・祝日は11:00~21:30)
休み:無休
交通:JR鹿児島本線神村学園前駅から車で約4分
TEL. 0996-29-5515
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東シナ海を一望する海辺の高台にあり、晴れた日には海に浮かぶ甑島を眺めることも。爽快な青い景色もいいが、ぜひ訪れたいのは夕暮れ時だ。空と海を紅色にゆっくり染めながら海へ落ちる夕日には、心を奪われる。刻々と色を変える空を眺めれば、忘れられないひとときとなる。
■串木野サンセットパーク
住所:いちき串木野市羽島
交通:JR鹿児島本線串木野駅から車で約20分
TEL. 0996-32-5256(いちき串木野総合観光案内所)
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