隠岐諸島の知夫里島(ちぶりじま)には泳ぐ牛がいる。同島では冬になると公共牧場の草が枯れてしまうため、牧場や牛舎をもたない牛の所有者は、近くの島まで牛を泳がせて牧草を与えている。運動不足の解消と牛の空腹を満たす一石二鳥の季節行事だ。
この牛は生後7~9ヵ月で奥出雲の牧場に移送され、豊かな自然の中でのびのびと育成された後、潮凪(しおなぎ)牛として出荷される。島根和牛の中でも、とくに肉質がやわらかいといわれる潮凪牛を使用したのが「およぎ牛弁当」である。
中身は、島根県産米の上に薄切りの潮凪牛をのせたシンプルな牛丼風弁当。肉は奥出雲産の本醸造醤油と地酒、ミネラルたっぷりの自然塩「海士乃塩」で味付けられており、とろけるような食感と旨みを存分に味わえる。そぼろ肉の煮物は、A4ランク以上の島根和牛に地場産のゴボウとショウガを加えてゆっくりと煮込んだもので、甘辛の味わいが甘みのある県産米と見事にマッチ。肉のおいしさをとことん引き出したハイレベルな内容に、牛肉好きはノックアウトされること間違いなし。島根の豊かな自然の恵みを詰め込んだ駅弁の実力を心ゆくまで味わってほしい。