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駅弁の女王小林しのぶが選ぶ 絶対に食べたい駅弁

赤貝の風味が香る、神話がモチーフの駅弁 赤貝めし 米子駅

 山陰地方に伝わる神話をモチーフにした駅弁。素材や製法にこだわる米吾が調製する隠れた名品だ。

 正方形のプラスチック容器に厚紙のフタをのせ、四隅をひもで固定した。中身は、炊き込みご飯の上に20~30個の赤貝(サルボウ貝)をのせた貝弁当で、おかずとして昆布巻き、玉子焼き、ちくわの磯部揚げなどを添える。メーンとなる炊き込みご飯は、出雲神話で大国主命(おおくにぬしのみこと)を助けた赤貝姫にちなみ、大粒の赤貝のむき身を混ぜ合わせた鳥取県産の米を地伝酒で炊いたもの。地伝酒は、醸造したもろみに灰を混入した日本酒の一種で、ヤマタノオロチを酔わせた酒といわれる。
 甘く煮付けた赤貝は、噛むほどに磯の香りが立ち昇り、その旨みは伝説の酒で炊いたご飯のほんのりとした甘さと絶妙に溶け合う。まさに天にも昇るような極上の味覚。炊き込み飯に振り掛けられたゴマや青海苔がアクセントになっており、飽きずに一気に平らげられる。
 手間と技巧を存分に使ったこの駅弁は米子駅でしか購入できないので、事前に予約を入れてから訪れたい。

米子駅のもう一つの駅弁「吾左衛門鮓(すし)鯛」を紹介!
  • 価格:900円
  • 種類:炊き込み系
  • 調製元:(株)米吾
  • 電話:0859-21-9068

透明感のあるタイの押し寿司に匠の技が光る 瀬戸の押寿司 今治駅

 調製元『二葉』の看板商品。経木を使った井桁(いげた)型の容器は、一つずつ手作業で組み立てているという。
 中身は、容器の底に敷いた熊笹の上にタイの押し寿司をのせたシンプルな駅弁。タイ寿司の白身と笹の緑色とのコントラストが鮮やかだ。タイの身を透かしてシソの葉がくっきりと見える演出も見事で、食前にたっぷりと目を楽しませてくれる。
 寿司は、さっと酢締めした後で薄くそぎ切ったタイの身を酢飯の上にのせたもので、同封されたプラスチック製のナイフで切り分けて食べる。来島海峡で育った上質のタイは、激しい潮流にもまれて成育するため身がよく締まり、口の中で弾けるよう。酢量を抑えたシャリとの相性も抜群で、車窓風景を楽しむ時間さえ惜しんで食べ進んでしまう。JR四国が今年実施した「第1回四国の駅弁ランキング」で2位を記録した実力は伊達でない。
 賞味期限は丸2日あるので、一気に2個購入し、一つはみやげ物としても持ち帰るという裏ワザも可能だ。

「トレたび」おすすめプレイバック

シンプルながら奥が深い、今治の「焼豚玉子飯」
  • 価格:1260円
  • 種類:海鮮系
  • 調製元:(株)二葉
  • 電話:0898-22-1859

炊き込み飯が味の決め手。日本初のかしわめし弁当 かしわめし 鳥栖駅・新鳥栖駅・博多駅

 東日本では鶏めし、西日本なら、かしわめし。呼び名は違っても、どちらも鶏肉を使った料理である。かしわという名は、京都原産の柏鶏というブランド鶏からきているという説がある。もとはペットだったが、食べるとうまいと評判を呼び、明治維新のころに西日本に広がったという。
 駅弁の「かしわめし」は折尾駅や西都城駅が有名だが、日本ではじめて売り出されたのは鳥栖駅で、大正2年(1913)にさかのぼる。炊き込みご飯の上に鶏そぼろ、錦糸卵、刻み海苔が彩りよくデザインされているのが特徴だ。味の決め手となるご飯は、かしわ肉と鶏ガラを長時間煮込んだダシ汁に、醤油やみりんなどを加えたスープで炊き込んだもの。ダシ汁の風味がしっかり染み込んでおり、最後のひと粒まで極上のおいしさを味わえる。濃い口の鶏そぼろと、ほどよい甘さの錦糸卵との相性もよく、食べはじめると箸の勢いが止まらない。付け合せには焼麦(しゃおまい)を1個添えている。
 古くから鳥栖では、祝事などの際に鶏肉を使った料理で客をもてなす習慣があった。かしわめしは、ハレの日にふさわしい伝統料理なのである。

■「トレたび」おすすめプレイバック■

よりどりみどり!全国各地のとりめしを紹介
  • 価格:680円
  • 種類:炊き込み・肉系
  • 調製元:中央軒
  • 電話:0942-82-3166

淡白なふくの身をウニの酒漬けに浸す贅沢 ふく寿司 新下関駅・下関駅・新山口駅

 関東ではふぐだが、下関や九州ではふくという。言わずと知れた冬魚の王様。福を呼ぶという縁起を担いで、この名がついたといわれる。以前は『下関駅弁当』が調製していたが、2010年から『小郡駅弁当』に会社が統合され、こちらから販売されている。
 円形のプラスチック容器は、ふくのユーモラスなイラスト付き。フタを開けると、酢飯の上にふくの身や皮、エビ、椎茸煮、練りウニ、とびこ、ワカメなど海の幸中心の具材がどっさり盛られた様子が目に飛び込む。いわゆる魚系の「ちらし寿司」だが、大人向けの味覚にこだわっているのが特徴。
 おかずのメーンである、ふくから味わってみる。ふくの身は思ったよりも歯ごたえがあり、淡白な味わいの中に品のよさが感じられる。甘酢につけられた皮の湯引きは、酒の肴としても重宝しそうだ。
 全体の味覚にアクセントを付けるのは練りウニ。酒漬けされているため好みが分かれるところだが、濃厚な味わいは酢飯にも合う。淡白なふくの身を、ウニにちょいと漬けてみるのもよい。上品さと濃厚さが口の中で絶妙に溶け合い、エロスの香りさえ漂わせる。
 多彩な味わいを楽しめる贅沢なふくちらし。食べる際にはうまい地酒の用意をお忘れなく。

■「トレたび」おすすめプレイバック■

新下関発着、日本海の絶景を車窓に眺める観光列車
  • 価格:840円
  • 種類:海鮮・珍素材
  • 調製元:小郡駅弁当(株)
  • 電話:083-973-0126
※掲載されているデータは平成24年1月現在のものです。

 

女王PROFILE 小林しのぶ 旅行ジャーナリスト・エキベニスト・駅弁愛好家

 駅弁の食べ歩きは20年以上に及び、食べた駅弁の数が5000を超えることから"駅弁の女王"と呼ばれる。全国各地の調製元と新作駅弁の共同開発を手がけるほか、新聞、雑誌、ウエブ等に連載多数。プロデュースした駅弁は「1000号はっこう弁当」「東京もちべん」(東京駅)ほか。

 フードアナリスト。日本旅のペンクラブ会員。千葉県佐原市出身。

 近著に『全国美味駅弁 決定版』(JTBパブリッシング)、『五つ星の駅弁』(東京書籍)、『どんぶりこ』(交通新聞社) 、『超いまうまい帖』(ぶんぶん書房)、『すごい駅弁!』(メディアファクトリー)などがある。NEXCO東日本で展開している「どら弁当」の監修者でもある。

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