『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。

駅弁の女王小林しのぶが選ぶ 絶対に食べたい駅弁

国産牛の旨みを堪能できる直球勝負の駅弁 牛肉どまん中 米沢駅

 山形新幹線の開業に合わせて開発され、現在では数ある肉系駅弁の中でも人気・知名度ともにトップクラスを誇る「牛肉どまん中」。そもそも米沢産の牛肉の名声を広めたのは、明治時代、米沢に赴任した英語教師C.H. ダグラスといわれる。米沢で食した牛肉の旨みにほれ込んだダグラスは、牛1頭を横浜に連れ帰り、居留地に住む仲間にふるまった。ここから米沢産の牛肉のおいしさが口コミで広まったという。

 肝心の内容は、ふっくらと炊き上げた山形のブランド米「どまんなか」の上に、牛肉煮とそぼろをどっさりとのせたもの。肉は適度にサシの入った国産和牛で、これを代々受け継がれてきたすき焼き風の甘辛ダレでじっくりと煮込んだ。出来立てはもちろんだが、醤油で濃い目に味付けているため冷めてもうまい。おかずの小芋煮やニシンの昆布巻、卵焼きを、タレのしみ込んだご飯とともに口に運べば誰でもにっこり、幸せ気分になる。

 この駅弁を作る新杵屋は、大正10年(1921)創業の老舗。国産牛の特長を知りつくした弁当店が作る駅弁の奥深い味わいに、ダグラスが心の底から感動した原点を見た気がした。

「牛肉どまん中」をはじめとした牛めしを特集
  • 価格:1100円
  • 種類:肉系
  • 調製元:新杵屋
  • 電話:0238-22-1311

おこわと地元の食材との取り合わせが絶妙 蒜山(ひるぜん)おこわ 岡山駅

 蒜山おこわは、岡山県北部の真庭市に伝わる郷土料理。今から約50年前「蒜山」にも名物料理をと、地元の婦人会が中心となって考案したハレの日メニューで、もち麦を加えるのが特徴だ。

 だ円形の容器を厚紙製のパッケージに収めている。中身は、蒜山おこわをメーンに、牛肉の甘辛煮、小玉葱のマリネ、舞茸の天ぷら、鮎の甘露煮、厚焼き玉子、自家製ハリハリ漬けといった多彩なおかずを詰め合わせた弁当。岡山県産のもち麦を混ぜて炊いたおこわは、もちっとした食感が心地よく、素材の旨みと醤油の風味がマッチした深い味わいを堪能できる。ボリュームは普通だが、もち麦入りのおこわは腹もちがよいため、この駅弁一つあれば長旅の車中でも空腹知らずだ。

 素朴な外見の中にやさしい味覚が染み渡っており、ふるさとに帰ったような懐かしい気分に浸れる。おこわとおかずとのバランスが見事な、これぞ駅弁というべき内容の濃い一品である。

「トレたび」おすすめプレイバック

岡山の名物B級グルメ・デミカツ丼が登場!

啄木にゆかりの食材を使った二段重弁当 啄木弁当 盛岡駅

 歌人・石川啄木の第一歌集『一握の砂』の発刊100周年を記念した駅弁で、2010年8月から販売されている。

 岩手山の画像を掲載したパッケージに二段重を収める。下段は、岩手県産ひとめぼれと12種類の雑穀を炊き合わせたご飯の上に鶏の照り焼き、みょうがの甘酢漬けなどをのせた鶏めし。上段には、三陸産サケの西京焼、いわいどりのつくね、岩手和牛煮、しめじ添え、盛岡冷麺、煮物といった多彩なおかずを盛り込んだ。これらのおかずには、生前の啄木が好んだ、あるいは歌に詠まれた食材を使ったというこだわりぶりに感心させられる。

 もっちりとした食感に雑穀や細竹のさくっとした歯ごたえが絡み合う鶏めしは、噛むほどに甘さが増幅されて極上のおいしさを味わえる。冷めるとパサつく雑穀は弁当に使うのが難しかったそうだが、鶏のダシ汁を加えることでこの難題を解決したという。岩手県産のうまいものを一堂に会したようなおかずは、野菜たっぷりでとてもヘルシー。駅弁に冷麺が使われるのは珍しいが、適度にやわらかくて食べやすい。1日30個の限定販売。

■「トレたび」おすすめプレイバック■

盛岡市内の城下町やレトロな洋風建築をめぐる

香魚(こうぎょ)の呼び名にふさわしいアユの姿ずし 鮎すし 人吉駅

 日本三大急流のひとつに数えられる九州・球磨(くま)川をはじめ、熊本県内の清流には天然アユが生息、アユ料理は熊本の名物となっている。そんな良質のアユで作る駅弁は、昭和30年代の発売以来、変わらない人気を誇っている。

 青笹の上に横たわるアユをプリントした掛け紙をほどくと、青竹を模した樹脂製の容器の中でアユの姿締めが銀色に輝いている。このアユは、背開きにして内蔵や背骨を落とし、酢や砂糖、塩、昆布などを合わせた特製タレに漬け込んで仕上げたもの。手間と時間をかけて作り上げたネタなのに、川から揚がったばかりのようなみずみずしさを漂わせるのが不思議だ。

 アユは別名“香魚”とも呼ばれる。4等分にされて食べやすい鮎すしを口に含むと、清流の中で藻を食べて成長する香魚ならではの香りが鼻腔に染み入る。急流でもまれた身はよく引き締まり、噛み締めるごとに旨みが深まる。昆布ダシで炊いたすし飯とアユの間にワサビを挟んだアイデアも秀逸。さっぱりとした味わいで、最後のひと口まで飽きずに食べられる。

 アユのシーズンは初夏から秋だが、「鮎すし」は通年販売。この駅弁を肴に、球磨焼酎をちびちび呑みながら肥薩線に揺られる列車旅は最高だ。

■「トレたび」おすすめプレイバック■

100年レイル肥薩線の旅 人吉駅の汽車駅弁も紹介!
  • 価格:900円
  • 種類:炊き込み、海鮮系
  • 調製元:(有)人吉駅弁やまぐち
  • 電話:0966-22-5235
※掲載されているデータは平成24年5月現在のものです。

 

女王PROFILE 小林しのぶ 旅行ジャーナリスト・エキベニスト・駅弁愛好家

 駅弁の食べ歩きは20年以上に及び、食べた駅弁の数が5000を超えることから"駅弁の女王"と呼ばれる。全国各地の調製元と新作駅弁の共同開発を手がけるほか、新聞、雑誌、ウエブ等に連載多数。プロデュースした駅弁は「1000号はっこう弁当」「東京もちべん」(東京駅)ほか。

 フードアナリスト。日本旅のペンクラブ会員。千葉県佐原市出身。

 近著に『全国美味駅弁 決定版』(JTBパブリッシング)、『五つ星の駅弁』(東京書籍)、『どんぶりこ』(交通新聞社) 、『超いまうまい帖』(ぶんぶん書房)、『すごい駅弁!』(メディアファクトリー)などがある。NEXCO東日本で展開している「どら弁当」の監修者でもある。

バックナンバー

このページのトップへ