山形新幹線の開業に合わせて開発され、現在では数ある肉系駅弁の中でも人気・知名度ともにトップクラスを誇る「牛肉どまん中」。そもそも米沢産の牛肉の名声を広めたのは、明治時代、米沢に赴任した英語教師C.H. ダグラスといわれる。米沢で食した牛肉の旨みにほれ込んだダグラスは、牛1頭を横浜に連れ帰り、居留地に住む仲間にふるまった。ここから米沢産の牛肉のおいしさが口コミで広まったという。
肝心の内容は、ふっくらと炊き上げた山形のブランド米「どまんなか」の上に、牛肉煮とそぼろをどっさりとのせたもの。肉は適度にサシの入った国産和牛で、これを代々受け継がれてきたすき焼き風の甘辛ダレでじっくりと煮込んだ。出来立てはもちろんだが、醤油で濃い目に味付けているため冷めてもうまい。おかずの小芋煮やニシンの昆布巻、卵焼きを、タレのしみ込んだご飯とともに口に運べば誰でもにっこり、幸せ気分になる。
この駅弁を作る新杵屋は、大正10年(1921)創業の老舗。国産牛の特長を知りつくした弁当店が作る駅弁の奥深い味わいに、ダグラスが心の底から感動した原点を見た気がした。