『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。

駅弁の女王小林しのぶが選ぶ 絶対に食べたい駅弁

これは珍しい、おかかを主役にしたユニークな幕の内駅弁
おかかごはん
米原(まいばら)駅

 ふだんは脇役に甘んじることの多い“おかか”を主役にしたユニークな駅弁。フタを開けると、1つめのサプライズ。近江米を炊いたご飯の上に醤油で和えたおかか(鰹節)がたっぷりと振りかけられており、フタをはずした瞬間、カツオの芳醇な風味が立ち昇って食欲を刺激する。

 箸を差し込むと、ご飯はまるで炊きたてのようにふわりと箸の上にのる。そして、おかかごはんをひと口味わうタイミングが2つめのサプライズ。醤油がほどよくしみ込んだおかかに甘みのある白米が見事にマッチして、ああニッポン人でよかった、と懐かしくもやさしい味わいを心ゆくまで味わえる。おかかがべちゃりとせず、口中に入れてもふんわりとした食感を残しているのは、おかかの質の高さによるのだろう。食べながら得した気分にさせてくれるのがうれしい。

 おかずは滋賀特産の赤コンニャクのほか、焼きタラコ、卵焼き、サツマイモ、ぬた、黒豆と種類豊富でご飯との相性もよい。揚げ物抜きのヘルシー仕上げなので、年齢や性別を問わず幅広く受け入れられるだろう。

名古屋駅~米原駅間の車窓を楽しむ
  • 価格:800円
  • 種類:幕の内
  • 調製元:(株)井筒屋
  • 電話:0749-52-0006

津軽三文豪ゆかりの食材を集めた幕の内駅弁
津軽弁当 文豪
新青森駅

 津軽が生んだ3人の文豪、太宰治、葛西善蔵、石坂洋次郎が好んだといわれる食材を取り上げた駅弁。平成22年12月4日の東北新幹線新青森駅開業に伴い発売された。創業が大正時代までさかのぼるという津軽郷土料理店「大和家」が調製している。

 正方形の発泡材容器を厚紙のパッケージに収める。容器内は仕切りで4等分されており、2つのエリアには太宰が好きだったというタイを使った鯛めしのほか、きのこご飯を詰めた。残りの2つはおかずエリアで、酒豪といわれた葛西の好物である昆布や、石坂が好んだと伝わる身欠きニシンの酢味噌和えをはじめ、筋子、イカメンチ、赤カブ、煮物など多様なおかずが盛り込まれている。

 文豪ゆかりの食材の中では、鯛めしの仕上がりが抜群。もちっとした食感の炊き込みご飯とやわらかく上品な味覚のタイの身とのバランスが見事で、あっという間に平らげてしまった。デザートとして添えられた甘味物は津軽の銘菓「雲平(うんぺい)」。うっかり見落としがちだが、これは石坂洋次郎の好物だという。最後まで気の抜けない駅弁である。

「トレたび」おすすめプレイバック

新青森駅からローカル線に乗り換え、青森の魅力を体験
  • 価格:1200円
  • 種類:幕の内系
  • 調製元:大和家
  • 電話:0172-36-6633

尾頭付きのサバに酢飯を詰め込んだ高知の郷土料理
鯖の姿寿し
高知駅

 見た目のインパクトは強烈だ。竹皮の包みを開くと、頭と尾のついたサバが丸ごと1匹現れる。ツヤツヤとしたサバの光り具合、コンパクトな尾のたたみ方などは芸術的とさえいえるだろう。

 そもそもサバの姿寿しは高知の郷土料理で、宴席に欠かせない皿鉢(さわち)料理のひと品だった。調製するのは、扱いにくいナマ魚を使った駅弁「かつおたたき弁当」で有名な安藤商店。どちらの駅弁にも、同社の“いごっそう(=気骨のある)”的なチャレンジ精神が息づいている。

 内容は、高知近海で水揚げされた形のよいサバを背開きにした後、酢飯を胴内にぎっしりと詰め込んだもの。酢飯には高知特産のゆ酢(ゆず)が使われており、サバの臭みをやわらげながら豊かな風味を醸し出している。

 酢飯は頭まで詰め込まれており、ボリュームはたっぷり。姿寿しには食べ飽きそうな印象があるが、酢飯に混ぜられたシソ、ゴマが味覚に変化を加えており、一気に平らげることができる。見た目の強烈さとは裏腹のやさしい味わいが見事だ。

■「トレたび」おすすめプレイバック■

乙女心をくすぐるスポットがいっぱい!
  • 価格:1260円
  • 種類:海鮮系
  • 調製元:(有)安藤商店
  • 電話:088-883-1000

イカをはじめ呼子の特産品を使ったメニューがずらり
いか三昧
博多駅

 唐津市呼子(よぶこ)町の特産品といえばイカ。大正初期からはじまったと伝わる朝市では、水揚げされたばかりの活イカや、イカの一夜干しなどが並べられ、買物客の購買意欲を盛んに刺激している。このイカを使った料理を中心に16品を詰め合わせた駅弁が「いか三昧」。平成24年2月に発表された「第8回九州駅弁グランプリ」では第3位にランクされるなど、名実ともに博多駅を代表する駅弁である。唐津市呼子の(株)萬坊が調製している。

 赤いプラスチック容器に透明のフタをのせ、弁当名を大書した掛け紙を巻く。容器は9分割されており、呼子名物のイカシュウマイをはじめ、ウニ入りのイカめし、スルメイカ一夜干し、イカ炊き込みご飯といったイカ尽くしのメニューが並ぶ。イカ料理以外にも、締めサバスモーク、ブリ柚庵(ゆうあん)焼きなど漁師町呼子ならではの食材を活用した料理が入っており、ボリュームもたっぷり。

 イカ料理の中では、イカシュウマイの存在感がすごい。萬坊が発祥といわれる“蒸し”と“揚げ”の2種類で、とくに揚げイカシュウマイはサクッとした食感が心地よく、噛むほどに旨みが増す。イカ好きならずとも一度は味わってほしい充実の内容。博多駅で見かけたら、ぜひ手にとってほしい。

■「トレたび」おすすめプレイバック■

湯布院温泉へのアクセス用として博多~由布院~別府間を結ぶ
  • 価格:1100円
  • 種類:海鮮系
  • 調製元:(株)萬坊
  • 電話:092-413-5038
※掲載されているデータは平成24年11月現在のものです。

 

女王PROFILE 小林しのぶ 旅行ジャーナリスト・エキベニスト・駅弁愛好家

 駅弁の食べ歩きは20年以上に及び、食べた駅弁の数が5000を超えることから"駅弁の女王"と呼ばれる。全国各地の調製元と新作駅弁の共同開発を手がけるほか、新聞、雑誌、ウエブ等に連載多数。プロデュースした駅弁は「1000号はっこう弁当」「東京もちべん」(東京駅)ほか。

 フードアナリスト。日本旅のペンクラブ会員。千葉県佐原市出身。

 近著に『全国美味駅弁 決定版』(JTBパブリッシング)、『五つ星の駅弁』(東京書籍)、『どんぶりこ』(交通新聞社) 、『超いまうまい帖』(ぶんぶん書房)、『すごい駅弁!』(メディアファクトリー)などがある。NEXCO東日本で展開している「どら弁当」の監修者でもある。

バックナンバー

このページのトップへ