明治30年(1897)発売の「上等御弁当鯛飯」がこの駅弁の前身だ。115年にもおよぶロングセラーの誕生には、紆余曲折があった。
弁当発売の5年前、静岡市では大火事が発生し、加藤弁当店(現・東海軒)も被害を受けた。馴染みの魚屋が見舞いの品として持ってきたのが甘鯛。この魚は煮ると身が崩れやすく、商品化するのは難しい。そこで店主は一計を案じ、鯛の身をそぼろ状にしてご飯にのせた。このご飯は子どもたちの人気を得たため、かねてから子ども向きの駅弁をつくりたいと考えていた店主は、調理人とともに工夫と改良を重ねて駅弁を完成させたという。
発売から1世紀以上を経てなお高い人気を誇る「元祖鯛めし」。ご飯は、桜飯と呼ばれる醤油ご飯がベースで、これに鯛そぼろを混ぜた。このご飯の上には、淡いクリーム色の鯛そぼろがぎっしりと詰められている。マダイやヒメダイ、魚卵などでつくられた鯛そぼろは甘口仕上げだが、醤油ベースの混ぜご飯とのコンビネーションが抜群で、飽きることなく完食へと導かれる。100年を超えて売れ続ける商品には、愛される理由があるのだ。